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第十三章

菊花 vs フーファイター1

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 面倒な人との通信を切ってから、僕はみんなの方をふり向いた。

「分かっていると思うけど、『撤退』というのはフェイクだからね。逃げたと思わせてから、攻撃に出るつもりだ」

 それを聞いてミールがにっこりと微笑む。

「分かっていますよ。カイトさんの考えそうな事ですから」
「さすがご主人様。みごとな卑怯ぶりです」

 ミールもPちゃんも僕をほめているのか、けなしているのか、どっちなんだ?

「でも、北村さん」

 芽衣ちゃんは怪訝な表情を浮かべていた。

「この後、どうやって逃げたと思わせるのですか?」

 僕はフーファイターのスペックを表示した画面を指さした。

「データによるとフーファイターはジェットエンジンなどの反動推進系の動力はない。すべて重力慣性制御だけで動く機体。その点は九九式も同じだけど、その加速度は九九式の倍以上ある。空戦に特化した機体で、空中戦では菊花も九九式も相手にならない。戦闘行動半径も大きく、すでに《水龍》も《海龍》も戦闘行動半径の内側に入っている。しかし、探知能力は弱い。特に水中にいる潜水艦を見つける能力はない」
「つまり、潜行するのですか? でも、それだけでは、隠れることはできても逃げたとは思わないのでは……」
「だから、もうちょっと小細工する」
「小細工?」
「ああ。すでに発進させたジェットドローンの回収は諦める。矢納さんはジェットドローンを落とした後、飛行船ドローンを追いかけるだろう」
「そうですね」
「だけど全滅はさせない。恐らく一機か二機は残して、その後を追いかけて僕らの位置を特定しようとするはずだ」

 それから数分後、菊花六号機とフーファイターの戦闘が始まった。

 最初に仕掛けたのは菊花。

 二発の空対空ミサイルを放った。

 フーファイターから出ている赤外線を追って、ミサイルはマッハ三で突き進む。

 それに対してフーファイターは、偽の熱源となる火炎弾フレアを放つどころか、避けようともしない。

 ミサイルが到達する寸前でフーファイターは、進行方向を急角度で下方へ変えた。重力制御機だからこそできる機動だ。 

 ミサイルはその動きに対応できず、空しくフーファイターの真上を通り過ぎる。

 その時点で、菊花はすでに次のミサイルを発射していた。

 フーファイターが避けると予想した方へ向かって……

 しかし、フーファイターはそれすらも避けてしまう。ミサイルを避けた後も、フーファイターは不規則な機動で飛び続けた。

 だがその動きは、名前の由来となった第二次大戦中に航空機パイロットが度々目撃したという未確認飛行物体フーファイターの動きには及ばない。

 当時の米軍は、重力制御を使って未確認飛行物体フーファイターのような動きができる機体を作りたかったようだが、あの動きを再現できるほどの強力な人工重力を生み出せなかったようだ。

 しかし、名前負けしているとは言え、フーファイターの戦闘能力は高い。反動推進系のジェットドローンでは太刀打ちできない。

「ご主人様。六号機はミサイルを撃ち尽くしました。回収しますか?」
「いや六号機は、このまま攻撃を続行させてくれ」
「了解しました」

 菊花六号機はフーファイターのいる方向へまっしぐらに向かっていく。

 その時、フーファイターの装甲の一部が開き細長い物体が出てきた。あれがフーファイターの主武装メインウェポン十メガワット自由電子レーザー砲だな。

 一瞬、レーザー砲が光った。

 次の瞬間、映像が大きく乱れる。

 左主翼に被弾したようだ。

 再びレーザー砲が光った直後、映像が途絶えた。

「六号機ロスト。撃墜されました」

 後方に控えていたドローンからの映像に切り替わると、火を噴いて墜落していくドローンの姿が映っていた。

「Pちゃん。残りの菊花を全機出撃させてくれ。操縦は僕らが代わる。君は飛行船ドローンの回収を頼む」
「了解しました」

 ヘッドマウントディスプレイを手に取りながら、僕は後ろを振り向く。

「僕は一号機を操縦する。芽衣ちゃん、二号機を頼む」
「分かりました」
「アーニャさん。ドローンの操縦頼めますか?」
「任せて。私の脳にはエースパイロットだった父の記憶を二十年前に移植したのだから」

 三十年前では……と、突っ込むのはやめておこう。女性の歳を詮索してはいけない。

「馬艦長。ドローンの操縦をする余裕はありますか?」
「問題ないわ。《海龍》の操縦はほとんどロンロンがやってくれているから」

 続いて通信機を手にする。

「レイホー。五号機を頼む」
『任せて。お兄さん』

 五機のジェットドローンは飛行船から切り離されて、一斉にフーファイター向かって行った。
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