上 下
478 / 850
第十三章

菊花 vs フーファイター1

しおりを挟む
 面倒な人との通信を切ってから、僕はみんなの方をふり向いた。

「分かっていると思うけど、『撤退』というのはフェイクだからね。逃げたと思わせてから、攻撃に出るつもりだ」

 それを聞いてミールがにっこりと微笑む。

「分かっていますよ。カイトさんの考えそうな事ですから」
「さすがご主人様。みごとな卑怯ぶりです」

 ミールもPちゃんも僕をほめているのか、けなしているのか、どっちなんだ?

「でも、北村さん」

 芽衣ちゃんは怪訝な表情を浮かべていた。

「この後、どうやって逃げたと思わせるのですか?」

 僕はフーファイターのスペックを表示した画面を指さした。

「データによるとフーファイターはジェットエンジンなどの反動推進系の動力はない。すべて重力慣性制御だけで動く機体。その点は九九式も同じだけど、その加速度は九九式の倍以上ある。空戦に特化した機体で、空中戦では菊花も九九式も相手にならない。戦闘行動半径も大きく、すでに《水龍》も《海龍》も戦闘行動半径の内側に入っている。しかし、探知能力は弱い。特に水中にいる潜水艦を見つける能力はない」
「つまり、潜行するのですか? でも、それだけでは、隠れることはできても逃げたとは思わないのでは……」
「だから、もうちょっと小細工する」
「小細工?」
「ああ。すでに発進させたジェットドローンの回収は諦める。矢納さんはジェットドローンを落とした後、飛行船ドローンを追いかけるだろう」
「そうですね」
「だけど全滅はさせない。恐らく一機か二機は残して、その後を追いかけて僕らの位置を特定しようとするはずだ」

 それから数分後、菊花六号機とフーファイターの戦闘が始まった。

 最初に仕掛けたのは菊花。

 二発の空対空ミサイルを放った。

 フーファイターから出ている赤外線を追って、ミサイルはマッハ三で突き進む。

 それに対してフーファイターは、偽の熱源となる火炎弾フレアを放つどころか、避けようともしない。

 ミサイルが到達する寸前でフーファイターは、進行方向を急角度で下方へ変えた。重力制御機だからこそできる機動だ。 

 ミサイルはその動きに対応できず、空しくフーファイターの真上を通り過ぎる。

 その時点で、菊花はすでに次のミサイルを発射していた。

 フーファイターが避けると予想した方へ向かって……

 しかし、フーファイターはそれすらも避けてしまう。ミサイルを避けた後も、フーファイターは不規則な機動で飛び続けた。

 だがその動きは、名前の由来となった第二次大戦中に航空機パイロットが度々目撃したという未確認飛行物体フーファイターの動きには及ばない。

 当時の米軍は、重力制御を使って未確認飛行物体フーファイターのような動きができる機体を作りたかったようだが、あの動きを再現できるほどの強力な人工重力を生み出せなかったようだ。

 しかし、名前負けしているとは言え、フーファイターの戦闘能力は高い。反動推進系のジェットドローンでは太刀打ちできない。

「ご主人様。六号機はミサイルを撃ち尽くしました。回収しますか?」
「いや六号機は、このまま攻撃を続行させてくれ」
「了解しました」

 菊花六号機はフーファイターのいる方向へまっしぐらに向かっていく。

 その時、フーファイターの装甲の一部が開き細長い物体が出てきた。あれがフーファイターの主武装メインウェポン十メガワット自由電子レーザー砲だな。

 一瞬、レーザー砲が光った。

 次の瞬間、映像が大きく乱れる。

 左主翼に被弾したようだ。

 再びレーザー砲が光った直後、映像が途絶えた。

「六号機ロスト。撃墜されました」

 後方に控えていたドローンからの映像に切り替わると、火を噴いて墜落していくドローンの姿が映っていた。

「Pちゃん。残りの菊花を全機出撃させてくれ。操縦は僕らが代わる。君は飛行船ドローンの回収を頼む」
「了解しました」

 ヘッドマウントディスプレイを手に取りながら、僕は後ろを振り向く。

「僕は一号機を操縦する。芽衣ちゃん、二号機を頼む」
「分かりました」
「アーニャさん。ドローンの操縦頼めますか?」
「任せて。私の脳にはエースパイロットだった父の記憶を二十年前に移植したのだから」

 三十年前では……と、突っ込むのはやめておこう。女性の歳を詮索してはいけない。

「馬艦長。ドローンの操縦をする余裕はありますか?」
「問題ないわ。《海龍》の操縦はほとんどロンロンがやってくれているから」

 続いて通信機を手にする。

「レイホー。五号機を頼む」
『任せて。お兄さん』

 五機のジェットドローンは飛行船から切り離されて、一斉にフーファイター向かって行った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん、異世界でスローライフはじめます 〜猫耳少女とふしぎな毎日〜

桃源 華
ファンタジー
50代のサラリーマンおっさんが異世界に転生し、少年の姿で新たな人生を歩む。転生先で、猫耳の獣人・ミュリと共にスパイス商人として活躍。マーケティングスキルと過去の経験を駆使して、王宮での料理対決や街の発展に挑み、仲間たちとの絆を深めながら成長していくファンタジー冒険譚。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...