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第十三章

アクラ1

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 タウ・セチ恒星系第三惑星ナンモ。

 その惑星最大の大陸ニャトラスを流れる大河マオ川を、下流に向かって進む数十隻の船団があった。

 そのほとんどは木造帆船だが、その中に一隻だけ装甲艦が混じっている。



 その装甲艦 《アクラ》内の戦闘指揮所C  I  Cで三人の男女が作戦テーブルを囲んでいた。

 元はリトル東京にいた日本人のコピー人間であるが、今はレムの支配下にある成瀬真須美なるせますみ矢部徹やべとおる古淵彰こぶちあきらの三人である。

 三人は今、壁面のディスプレイを注視していた。そこに映し出されているのは、ロータス攻防戦の様子。ロータスに潜入させた偵察ドローンから送られて来たものだ。

 時折、成瀬真須美がドローンを操作する以外、三人は無言で画面を見つめている。

 一台のドローンが戦闘の巻き添えで破壊され、映像が途絶えた。すぐに別のドローンの映像と切り替わる。

 横に並んで飛行する二機のロボットスーツの姿が現れた。

 右側の機体は金色。左側の機体が桜色。

 不意に桜色の機体が前へ出た。

 そのまま金色の機体の前で、何かを受け止めようとするかのように両腕両足を広げる。

 その直後に金色の機体は桜色の機体の両肩に手を置き、両機とも重力制御で真下に急降下していく。

 その直後、今まで二機の機体がいた空間を、一発のミサイルが通り過ぎていった。

「さすが隊長と芽依ちゃん。僕だったら、あんなの避けられませんよ」

 今まで無言だった古淵がボソっとつぶやいた。古淵は『隊長』と呼んだが、本来なら隊長だったのは初代の海斗。今の海斗は二人目のコピー人間だが、それでも矢部も古淵も彼の事を隊長を呼んでいた。そう呼ぶことに慣れてしまっていたので今更変えられないようだ。

 古淵の隣では、成瀬真須美が目頭を押さえていた。

「泣かせるわね、芽依ちゃん。身を挺して好きな人を守ろうとするなんて」

 それを聞いていた矢部は不満顔になって舌打ちする。

「ち! なんで隊長ばかりモテるんだ。ずるいじゃないか」

 すると、古淵はバカにするような視線を向けた。

「そりゃあ、顔と性格が良いからでしょ」
 
 矢部が古淵をキッと睨む。

「古淵君。それじゃあ、まるで俺の顔と性格が悪いみたいに聞こえるのだけど……」
「ええ!? まさか、自覚していなかったのですか?」
「じ……自覚はしているけどね……本人に聞こえるように言うことないじゃないか」
「仕方ありません。僕は性格悪いから……まあ、矢納さんには負けますがね」
「まあ、性格の悪さであの人に勝てる人なんていないけどね」
「確かに、二百年も隊長の事を恨み続けたり、すぐに暴力振るったり、汚い言葉で人を恫喝したり」
「ああ言うのをサイコパスって言うんだね」

 横で男二人の会話を聞いていた成瀬真須美は、うんざりしたように口を挟んだ。

「二人とも、そういうのを五十歩百歩というのよ」
「はい。成瀬さん分かっていますよ。ちなみに、矢納さんが百歩で矢部さんが五十歩。僕は四十歩ですね」
「ちょっと待てぃ! 古淵君。どうして、君だけ俺より十歩少ない! ずるいじゃないか」
「僕は矢部さんと違って、自分の性格の悪さを自覚していますから。それに矢部さん。あなたのオリジナル体が二百年前にやった犯罪歴を見ましたよ」
「何のことかな?」
「JR多摩線の中で痴漢行為をやって何度も逮捕されているそうじゃないですか」
「昔の事を……」
「しかも女子高生に騒がれそうになったので、咄嗟に近くにいた人に罪を擦り付けた事があったそうですね。その人はパニックに陥って電車にひかれてお亡くなりなった。それなのに矢部さんは『騒ごうとした女子高生が悪い』とか言ったそうですね」
「それは……」
「まさに矢納さん顔負けの鬼畜です。僕も見ていてムカムカしましたよ。あの後、矢部さんは女子高生達にタコ殴りにされたそうですが、僕が現場にいたら、彼女たちと一緒にあなたを殴りたい気持ちでした」
「古淵君。コピーとオリジナルは別人だよ」
「性格は引き継いでいるのでしょ。現にこの惑星で再生されて機動服ロボットスーツ中隊に配属されてからも、芽衣ちゃんや橋本はしもとあきらさんに散々セクハラをやっていたじゃないですか」
「彼女たちがそんなに嫌がっているとは思わなかったんだ」
「嫌がるに決まっているでしょ! そんな事も分からないのですか? そう言えば、矢部さんは成瀬さんが柔道の有段者クロオビだと知っていたけど、それって自分が身を持って体験したからじゃないのですか?」
「う」

 口ごもった矢部に代わり、成瀬真須美が答える。

「そうよ。私に触ろうとしたので、五~六回投げ飛ばしてから腕ひしぎ十字固めをかけてやったわ。二度と私にスケベエな事をする気を起こさせないようにね」
「あの時以来、俺は成瀬さんに対しては二度とスケベエな事はする気はなくなりました」
「よろしい」

 それからしばらく、三人は再び無言になってディスプレイを注視していた。


☆      ☆      ☆      ☆      ☆
矢部のオリジナルが二百年前にやらかしたエピソードは『霊能者のお仕事』の『超常現象研究会』に出てきます。

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