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第十二章
イヤだと言えるわけがない。イヤだけど……
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「カイト。コノ子ニハ、黄色」
「黄色だな」
エシャーの指示で、段ボール箱から黄色いリボンを選び出すと、僕は馬ほどの大きさのベジドラゴンの頭に蝶々結びで結びつけた。
続いてサインペンで『レタスへ、カイトより』とリボンに書き込む。
それが済むとレタスという名のベジドラゴンは、嬉しそうに羽ばたき空に舞い上がっていった。
これで七頭目。
僕の前には、まだ数十頭のベジドラゴンの女の子たちが並んでいる。
今からこの子たち全員にリボンを付けてサインをしなきゃならないのかと思うと気が遠くなりそうだ。
他の人に手伝ってもらいたいところだが、エシャーが言うには勇者カイト……つまり僕に付けてもらうことに価値があるらしい。
アイドル歌手じゃないっての……
とは言っても、この子たちの親が戦ってくれたおかげでゴロツキ集団から町を守れたのだから、こんな謝礼は安いものなのだが……
ベジドラゴンの石爆撃に恐れをなしてゴロツキ集団が逃げ出した後、エシャーが役所の庭に降りてきて『約束通リ、りぼんチョウダイ』と言ってきたのは一時間ほど前の事……
確かに今朝そんな約束をした。もちろん、約束を忘れたわけではない。
だが、僕はせいぜい二~三頭だと思っていた。
まさかこんなにやってくるとは……
何とか全員にリボン付けが終わるのに、それから一時間ほどかかった。
それが済むと、今度は役所で町長から感謝状の授与式。
休ませてくれよお!
「はあ~疲れた」
僕が《海龍》の甲板上でサマーベッドに横になった時には、日が暮れかかっていた。
「ご主人様。お疲れさまです。冷たいお飲物です」
「サンクス」
Pちゃんから受け取ったグラスを口に付けた。
グラスに入っていたのは無味無臭の炭酸水。
ゲロルシュタイナーに似た喉ごしはいいのだが……
「Pちゃん、こういう時はビールだろ」
確か、カルカでは紹興酒だけでなくビールも作っていたはずだが……
「申し訳ありません。ビールは積んでおりません」
そんなあ……
「はい、差し入れ」
アーニャがグラスの上でスキットルをふって、僅かに残っていたウイスキーを数滴垂らしてくれた。
アーニャさん。一瞬だが、貴女が女神に見えたよ。
「アーニャさん。ほとほどにしてくださいね。ご主人様には、まだ仕事が残っているのですから」
「Pちゃん。残りの仕事は明日に回そう。僕は明日できる事は今日はやらない主義だ」
「威張って言えることですか」
「まあまあ。カルカへの援軍要請の取り消し、消耗した弾薬の発注とかは私がやっておくので、北村君は面接をやってくれない」
「面接?」
「私たちの仲間になりたいという人がいたでしょ」
うわああああ! 忘れたかったのにいいいい!
エラ・アレンスキー……結局、こいつを同行させることになってしまったんだった。
「そもそも、アーニャさん! あんたがあの時に余計な口出ししたから……」
「それは悪かったと思っているわ。でもね、これはレイラ・ソコロフさんからも頼まれた事なのよ」
「なんで?」
「キラ・ガルキナさん。ミーチャ・アリエフ君は他のエラと深く関わっていたわね。この二人の目から見て、他のエラとシンクロしていないファーストエラがどう違うか観察してレポートを……」
朝顔の観察日記じゃあるまいし……
「却下」
「ちょっと北村君。いきなり却下って……そりゃあ君は司令官だけど……」
「二人がかわいそうだと思わないのですか?」
「かわいそう? なんで?」
「キラはエラからさんざんイビられていたのですよ。ミーチャに至っては、トラウマができるほどの虐待を受けていた。エラの姿を見ただけで、二人とも逃げ出しますよ」
できれば僕たって逃げたい。
「そうなの?」
「そうです」
「では仕方ないわね」
あきらめてくれたか。
「君と森田さん、それとカ・モ・ミールさんは三人のエラと戦ったわね」
「戦いましたが何か?」
「戦っているうちに、エラの人となりはある程度把握できたでしょ。あなたたち三人でファーストエラを観察して、他のエラの違いを見つけてレポートを出してくれないかしら?」
「だーかーらー、なんで僕らが、そんなレポート出さなきゃならないんですか!?」
「ソコロフさんの研究のためよ。コピー人間の同時複数再生によって、どんな悪影響が出るかを調べるため」
「そんなのソコロフさんがやればいいでしょ」
「ソコロフさんはファーストエラと面識があっても、他のエラを知らない。他のエラと直接会った君たちにしかできないわ」
「だけど……」
「これは必要な事なのよ。いずれ私たちはレムと戦うことになる。レムの傀儡にされてしまった人たちを救出するためのヒントが、エラを観察する事によって掴めるかもしれない」
う……
「それでもイヤだと言うの?」
イヤだと言えるわけがない。イヤだけど……
「エラは《水龍》に乗ってもらいます。キラとミーチャがいる《海龍》には絶対に来させない。それが最低限の条件です」
「いいわ」
こうしてエラNo.1は僕たちの仲間に加わることになった。
「黄色だな」
エシャーの指示で、段ボール箱から黄色いリボンを選び出すと、僕は馬ほどの大きさのベジドラゴンの頭に蝶々結びで結びつけた。
続いてサインペンで『レタスへ、カイトより』とリボンに書き込む。
それが済むとレタスという名のベジドラゴンは、嬉しそうに羽ばたき空に舞い上がっていった。
これで七頭目。
僕の前には、まだ数十頭のベジドラゴンの女の子たちが並んでいる。
今からこの子たち全員にリボンを付けてサインをしなきゃならないのかと思うと気が遠くなりそうだ。
他の人に手伝ってもらいたいところだが、エシャーが言うには勇者カイト……つまり僕に付けてもらうことに価値があるらしい。
アイドル歌手じゃないっての……
とは言っても、この子たちの親が戦ってくれたおかげでゴロツキ集団から町を守れたのだから、こんな謝礼は安いものなのだが……
ベジドラゴンの石爆撃に恐れをなしてゴロツキ集団が逃げ出した後、エシャーが役所の庭に降りてきて『約束通リ、りぼんチョウダイ』と言ってきたのは一時間ほど前の事……
確かに今朝そんな約束をした。もちろん、約束を忘れたわけではない。
だが、僕はせいぜい二~三頭だと思っていた。
まさかこんなにやってくるとは……
何とか全員にリボン付けが終わるのに、それから一時間ほどかかった。
それが済むと、今度は役所で町長から感謝状の授与式。
休ませてくれよお!
「はあ~疲れた」
僕が《海龍》の甲板上でサマーベッドに横になった時には、日が暮れかかっていた。
「ご主人様。お疲れさまです。冷たいお飲物です」
「サンクス」
Pちゃんから受け取ったグラスを口に付けた。
グラスに入っていたのは無味無臭の炭酸水。
ゲロルシュタイナーに似た喉ごしはいいのだが……
「Pちゃん、こういう時はビールだろ」
確か、カルカでは紹興酒だけでなくビールも作っていたはずだが……
「申し訳ありません。ビールは積んでおりません」
そんなあ……
「はい、差し入れ」
アーニャがグラスの上でスキットルをふって、僅かに残っていたウイスキーを数滴垂らしてくれた。
アーニャさん。一瞬だが、貴女が女神に見えたよ。
「アーニャさん。ほとほどにしてくださいね。ご主人様には、まだ仕事が残っているのですから」
「Pちゃん。残りの仕事は明日に回そう。僕は明日できる事は今日はやらない主義だ」
「威張って言えることですか」
「まあまあ。カルカへの援軍要請の取り消し、消耗した弾薬の発注とかは私がやっておくので、北村君は面接をやってくれない」
「面接?」
「私たちの仲間になりたいという人がいたでしょ」
うわああああ! 忘れたかったのにいいいい!
エラ・アレンスキー……結局、こいつを同行させることになってしまったんだった。
「そもそも、アーニャさん! あんたがあの時に余計な口出ししたから……」
「それは悪かったと思っているわ。でもね、これはレイラ・ソコロフさんからも頼まれた事なのよ」
「なんで?」
「キラ・ガルキナさん。ミーチャ・アリエフ君は他のエラと深く関わっていたわね。この二人の目から見て、他のエラとシンクロしていないファーストエラがどう違うか観察してレポートを……」
朝顔の観察日記じゃあるまいし……
「却下」
「ちょっと北村君。いきなり却下って……そりゃあ君は司令官だけど……」
「二人がかわいそうだと思わないのですか?」
「かわいそう? なんで?」
「キラはエラからさんざんイビられていたのですよ。ミーチャに至っては、トラウマができるほどの虐待を受けていた。エラの姿を見ただけで、二人とも逃げ出しますよ」
できれば僕たって逃げたい。
「そうなの?」
「そうです」
「では仕方ないわね」
あきらめてくれたか。
「君と森田さん、それとカ・モ・ミールさんは三人のエラと戦ったわね」
「戦いましたが何か?」
「戦っているうちに、エラの人となりはある程度把握できたでしょ。あなたたち三人でファーストエラを観察して、他のエラの違いを見つけてレポートを出してくれないかしら?」
「だーかーらー、なんで僕らが、そんなレポート出さなきゃならないんですか!?」
「ソコロフさんの研究のためよ。コピー人間の同時複数再生によって、どんな悪影響が出るかを調べるため」
「そんなのソコロフさんがやればいいでしょ」
「ソコロフさんはファーストエラと面識があっても、他のエラを知らない。他のエラと直接会った君たちにしかできないわ」
「だけど……」
「これは必要な事なのよ。いずれ私たちはレムと戦うことになる。レムの傀儡にされてしまった人たちを救出するためのヒントが、エラを観察する事によって掴めるかもしれない」
う……
「それでもイヤだと言うの?」
イヤだと言えるわけがない。イヤだけど……
「エラは《水龍》に乗ってもらいます。キラとミーチャがいる《海龍》には絶対に来させない。それが最低限の条件です」
「いいわ」
こうしてエラNo.1は僕たちの仲間に加わることになった。
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