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第十二章

「卑怯者」は最高のほめ言葉

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 《海龍》で何かあったのか?

「ミーチャ。何があった?」
『カイトさん。攻撃目標を教えて下さい』

 攻撃目標?

『映像を送ってくれるだけでいいです。僕は一度見た映像は忘れません』

 それは知っているけど、どうやって攻撃する? 

『ベジドラゴンの長老が加勢すると言っています。勇者カイトに恩返ししたいと……僕は今、エシャーに乗っています』

 そうだった! すぐ近くにベジドラゴンの群がいたんだった。

「分かった。ミーチャ。今、そっちの通信機に映像を送る。それを見て敵と味方を判断してくれ。それと、敵でもロータスから離れていく者は攻撃しなくていい。ロータスに向かってくる奴だけ叩いてくれ」
『わっかりました』

 そうだ。間違って、同士討ちするかもしれない。

「ソコロフさん。正規部隊に伝えて下さい。今から、ベジドラゴンの群が敵部隊に石を落として攻撃します。巻き込まれないように離れるようにと」
「分かったわ」
 
 レイラ・ソコロフが通信機を操作しているのを確認すると、僕は窓を開いた。

 上空はベジドラゴンの群が埋め尽くしている。

 双眼鏡で見ると、各ベジドラゴンは大きな石を持っていた。

 大人のベジドラゴンに混じって、頭に赤いリボンをつけた小さなベジドラゴンがいる。

 エシャーだ。

 そのエシャーにミーチャが跨がっている。

 ミーチャは背中にショットガンを背負い、腰には手榴弾をぶら下げていた。

 女の子みたいに可愛い顔しているけど、あの子も軍事訓練は受けていたんだったな。

 室内を振り返ってレイラ・ソコロフの方を見ると、ちょうど通信相手が出たところだった。

「アルクセイエフ。私です。これより、ベジドラゴンが加勢してくれる事になりました。命令違反者達に投石攻撃をかけますので、正規部隊は巻き込まれないよう後退して下さい。くれぐれもベジドラゴンを撃たないように、部下たちにも厳命するようにお願いします」

 通信機を切るのを待って、彼女に話しかけた。

「ソコロフさん。ゴロツキ連中には、なにか武器を供与していますか?」
「私は武器の供与はしないように指示しました」
「しかし、お孫さんのキーラがレーザー銃を無断で持ち出していました。武器の管理は大丈夫ですか?」
「耳に痛いですね。確かに小銃の一丁ぐらいは持ち出されているかもしれません」
「分かりました」

 ナンモ解放戦線正規部隊が使っている小銃は、自衛隊の八九式だったと思う。射程距離でショットガンはかなわない。

 通信機でミーチャを呼び出した。

「ミーチャ。こっちで君の姿を確認した。銃撃戦をするつもりか?」
『そうです。心配しないで下さい。僕だって銃ぐらい撃てます』
「敵は小銃を持っている可能性がある。射程距離でショットガンは負けている。くれぐれも銃撃戦をする高度に下がるな」
『そんな。せっかく、銃を持ってきたのに。僕にも戦わせて下さい』
「そんなに人殺しがしたいのか?」
『え?』
「君は軍事訓練を受けたが、実際に人を撃った事があるのか?」
『ありません』
「では、絶対に高度を下げるな」
『僕だって男です! 男らしく戦って、カイトさんの役に立ちたいのです』
「僕は男らしさとか、勇ましさなんてものは評価しない。指示に従えないなら、君にはカルカに戻って謹慎してもらう」
『そんな』
「手榴弾を持ってきているのだろう。攻撃がしたいのなら、敵の攻撃が届かない高さから、手榴弾を落として攻撃するんだ」
『それって……卑怯です』
「ミーチャよく聞け。戦いには、卑怯もへったくりもない。生き延びた者の勝ちだ」
『でもそんな戦い方したら……『卑怯者』と呼ばれてしまいます』
「言われて何が悪い。『卑怯者』は最高のほめ言葉だ」
『ほめ言葉なのですか?』
「ほめ言葉だ」

 少なくとも僕らの間では……

『分かりました。カイトさん。僕、男らしく卑怯に戦います』
「いや、男らしいに拘らなくても……」
『だって、男らしいところを見せないと、またミクさんに女の子の服を着せられてしまいます』

 う! これはミクが悪い。後できつく言っておこう。
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