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第十二章

精神異常

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 レイラ・ソコロフ……いったいこの人は何を知っているというのだ?

「まず、最初に言っておきましょう。私はコピー人間です」

 なんとなくそんな気はしていたが、やはりそうだったのか。

「私のオリジナルがデータを取られたのは二一〇〇年。私が二十五歳の時です。この惑星で再生されてからすでに四十年が経過しており、今年で六十四になります」

 一年サバ読んだな。

「ここにいる方達の中で、コピー人間の方がいましたら手を上げていただけますか」

 僕と芽依ちゃん、アーニャが手を上げた。ちなみにミクは今、戦闘中でここにいない。

「あなた方がデータを取られた年を西暦で言って下さい」

 まず、アーニャが答えた。

「私は二〇九二年です」

 続いて僕と芽依ちゃんが答える。

「二〇XX年です」
「私も北村さんと同じ年にデータを取られました」
「では、アーニャさんがデータを取られた年には、すでに工業製品を作るプリンターはありましたね?」
「ええ」

 レイラ・ソコロフは僕の方を向いた。

「あなたの時代にも三次元プリンターはあったと思いますが、それは三次元CADのデータ通りの形状にプラスチックを成形するだけの装置ではなかったですか?」
「そうです。プラスチックの粉末を吹き付けて、形を作っていくものです」
「なるほど。現在のように、電離した原子を吹き付けて製品を作れるプリンターが作られるようになったのは二十一世紀の後半からです。それでも内部に流体のある物はできないので、生体は当然作れません。機械などもプリントした後に潤滑油を後から注入して使っていました」

 それは、今僕らが使っているプリンターと同じだな。

「最初のプリンターでは生体どころか、料理もまともに作れなかったのです。ビスケットなど固形物はできましたが、内部に流体のある料理は一度冷凍してからデータを取って、プリンターで出力してから解凍していました。アーニャさんの時代には、料理用のプリンターがあったと思いますが……」
「マメシバフードプリンターですね。私の家にもありましたよ」

 マメシバ? 豆芝? 日本メーカーかな?

「フードプリンターが出てから数年後、同じ豆芝社から生体を出力できるプリンターが開発されました。しかし、それで出力するのは専ら動物だけで、人間を出力することは法律上許されませんでした」

 当然だろうな。ただ、人間を出力する事自体は可能なのだろう。

「状況が変わったのは二十二世紀に入ってからです。この時代に入って、系外惑星へ亜光速宇宙船を送り出すようになったのですが、生きている人間を乗せるのは困難でした。そこで生体出力可能なプリンターを積んで、現地で人間を出力する事にしたのです」

 その当たりの事は、この前にアーニャに聞いたな。

「ところがここで大きな問題が起きたのです。アルファ・ケンタウリ恒星系やバーナード恒星系で再生したコピー人間たちの中に精神に異常をきたす者が続出したのです」

 精神に異常?

「最初は、不慣れな異星の地に送り込まれた事によるストレスが原因と思われていました。しかし、やがて精神異常を起こす者達に共通点が見つかったのです」

 共通点? もしかして、それが……

「同一人物の同時複数再生。それを行ったコピー人間が精神に異常をきたしていたのです」

 それが、同時複数再生を禁止している本当の理由だったのか。
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