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第十二章

策士

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「る……相模原さん」

 思わず下の名前(月菜るな)で呼びそうになってしまった。付き合っていた頃は、海斗と月菜で呼び合っていたが、別れた後はどう呼べばいいか判断に困る。
 まあ、向こうは『北村君』と呼んでいるのだから、こっちも『相模原さん』でいいだろう。

「相模原さん。港に艦隊がいなかった時点でおかしいと思わなかったの?」
「おかしいとは思っていたけど、偵察隊が装甲艦二隻を確認したと報告してきたので……それは北村君たちが乗ってきた船だったのね?」

 僕は無言で頷いた。

「私が偵察に行っていればよかったわね。それでも、様子がおかしいとは思っていたわ。そこで町役場に行けば何か情報が得られると思って行ったの。ところが役所に入った途端にあの娘に遭遇して……」

 そう言って相模原月菜はキラを指さした。

「エラが言うには帝国軍の分身魔法使いだそうだけど……だから、帝国艦隊は運河にでも入っていて、艦隊の主だった者はここにいると判断して、役場を占領する事にしたのよ。まあ、こっちの早とちりだったわけだけどね。こっちも聞きたいのだけど、帝国軍が逃げ出したのなら、なぜ彼女がここにいたの?」

 キラが僕たちの仲間になった経緯を話した。

「なるほど。キラ・ガルキナが帝国から亡命していたのを、エラは知らなかったのね」

 キラを防衛に残して来たことが、裏目になってしまったのか。ファーストエラはかなり前に軍を脱走していたので、その後キラがどうなったのか知らなかった。だから、役所の中でキラの姿を見て、帝国軍がここにいるという誤解を与えてしまったのだな。

「ねえ。結局これは同士討ちだったけど、これって偶然かしら?」

 どういう事だろう?

「どういう事です?」

 僕が思った事を、ミールが先に口にした。

「私たちも、北村君も、まんまと騙されて同士討ちをするはめになったのじゃないかしら?」

 何だって? 騙されたって、誰に?

「私たちはロータスの帝国軍を殲滅するのに、ナンモ解放戦線を過小評価させる策を打ったのよ。私たち相手に勝ち目がないと帝国軍が判断して、艦隊に逃げられたりしたら、船のない私たちは追いかけようがないからね。そのために町長をアジトに招待して統率の取れていないゴロツキ連中を見せたのよ」

 あれはワザとだったのか。

「じゃあ、ロータスとの同盟関係というのは?」
「あれは町長と会うための口実。本当の目的は、こっちの戦力を過小評価させて、ロータスにいる帝国軍を引きずり出すこと。帝国軍が出てきたら、このあたりで集めてきたゴロツキ連中をぶつけて適当に戦わせる。頃合いを見て、私たちは裏から回り込んで、エラ・アレンスキーの能力で帝国艦隊の木造船を焼き尽くして逃げ道を塞ぎ、その後は精鋭部隊を出して帝国軍を殲滅するはずだった」
「しかし、そこまで手の込んだ事をする必要があったのか?」
「相手がただの帝国軍なら必要ないわ。だけど、あの艦隊には成瀬真須美たち裏切り者がいる。あの人達をここで片づけておかないと、後々やっかいなことになるわ。だから、ここで逃げられないためにナンモ解放戦線をゴロツキの寄せ集め集団のように見せかけてロータスに向かったの」
「ところが、来てみたら帝国艦隊がどこにもいなかった?」
「そうなのよ。装甲艦が二隻いるという報告があったけど、装甲艦ではエラ・アレンスキーの能力でも沈められない」
「どの当たりで変だと気がついた?」
「ミールさんの分身体と遭遇した時。私はシーバ城でミールさんと会っているから、この人が帝国軍につくはずがないと分かっていたわ。だけど、サラが暴走するわ、エラはキラ・ガルキナを追いかけて行き連絡が取れなくなるわと、収集がつかなくなってきたのよ。ようやくの事で、地下核シェルターの入り口を見つけて、インターホンで通話したら、中にアーニャ・マレンコフさんがいるじゃない。ようやく、同士討ちをしていた事に気がついたわけ」
「なるほど。策士策に溺れるという奴だな」
「いいえ。私たちはもっと上手の策士の罠にはめられたのよ」
「どういう事だ? さっき僕たちが騙されたと言っていたけど、誰に?」
古淵こぶちよ」
「古淵……?」
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