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第十二章

元カノ

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「さ……相模原さん!? なぜ、ここに……」

 芽依ちゃんもかなり驚いている。

「私はリトル東京軍事顧問と同行してきたのよ。通訳としてね」

 軍事顧問? では、やはりナンモ解放戦線はリトル東京の指示で動いていたのか?

「いろいろと誤解があったみたいだけど、リトル東京では帝国軍がカルカに向かっている事を知って救援を出すことにしたのよ。だけど、戦力が足りない。だから、ナンモ解 放戦線を支援してカルカ救援に向かうはずだったのよ」

 だった?

「ところが、カルカが撃退に成功したのか、帝国軍がロータスに敗走してきているじゃない。こっちもせっかく戦力を集めたのだし、敗走してくる帝国軍にとどめを刺してやろうとロータスに向かったわけ。まさか、一足先に逃げられて、私たちがカルカ軍と戦っていたなんて思わなかったわよ。てっきり、ロボットスーツは裏切り者の矢部と古淵だと思っていたわ」
「で……でも、私たちの動きは、母船に逐一知らせていたはずですよ」

 それを聞いた相模原月菜は渋そうな顔をしてエラを指さす。

「母船との通信が途絶えたのはこの人のせいよ」

 エラのせい?

「一台しかない、衛星通信機をこの人が壊すから……」
「私が悪いのではない! 私が近づいただけで壊れるポンコツが悪い」

 なるほど。何かの事情でエラが高周波磁場を発生させてしまい、その範囲内に通信機があったという事か。

「ところで森田さん。地下でアーニャ・マレンコフさんに聞いたのだけど、北村君が来ているそうね。再生されたの?」
「再生しましたけど」
「どこにいるの?」

 実は相模原月菜の姿を見た瞬間、僕は条件反射で庭木の陰に隠れてしまったのだ。

 それでさっきから庭木の陰から様子を伺っているのだが……

 え? なんで出ていかないかって……

 だってなあ……元カノの前に出るなんて気まずいじゃん。

 今更どんな顔して会えばいいか分からんし……

「さあ? さっきまでここにいましたが……」
「会わせて」
「今更会って、どうするというのですか?」

 なんか……芽依ちゃんの口調がいつになく辛辣だな……

「どうするって……私が北村君に会っちゃいけないの?」
「相模原さん。高校時代に北村さんをふったのですよね。今更会ってどうするというのですか?」
「そ……そんな昔のこと……」
「昔じゃありません。今回再生された北村さんは、生データから再生された人なのです」
「え? どういう事?」
「つまり、北村さんが二十三歳の時に取られたデータそのものから再生されたのです。だから、電脳空間サイバースペースで相模原さんと再会した記憶がありません」
「でも、二十三歳なら高校時代に私とつきあった記憶はあるのよね?」
「ありますよ。でも、相模原さんの記憶では、それは電脳空間サイバースペースを含めて二百年前ですよね。北村さんに取っては数年前の事です。昔じゃありません」
「だ……だけど……」
「それに、北村さんが今の相模原さんに会ったら、ショックを受けると思うのです」

 え? いや、会っても別にショックは受けないが……気まずいけれど……

「なんで私と会うとショックなのよ?」
「私の口からそれを言うのはちょっと……ご自分で考えて下さい」
「はあ?」
「だって、北村さんが知っている相模原さんって、女子高生の頃ですよね」
「何が言いたいのよ?」
「私は別に……相模原さんがデータを取られた歳が二十五だとか、惑星上で再生されてから何年経つかとか……そんな失礼な事を言うつもりはありませんが……」

 いや、言っているだろ! 思い切り……

「ああ! そう! ようするに、北村君にとってファーストキスの相手が、こんなオバさんになったのを見たらショックを受ける。そう言いたいのね」
「オバさんだなんて、そんな失礼な事を思ってもいませんし……」
「いや、思っているでしょ。だいたい何よ。あんただって、再生されて五年は経つはずよ」
「はい。私、十七の時にデータを取りましたから、五年経過して北村さんのちょうど一つ下ですね」
「ぐぬぬ……は! そういう事ね」
「どうかしました?」
「森田さん。あなた、香取さんの腰巾着のように振る舞っていたけど、あなたこそ香取さんから北村君を奪おうと狙っていたのでしょう」
「そ……そんな事ありません」

 いかん! やめさせないと……しかし、どうやって……

 ミールとPちゃんだけでも大変なのに……

 あれ? 足が動かない。

 しまった! 両足の増力機構ブーストシステムだけでなく補助機構アシストシステムまで死んでいる。肝心な時に……

 
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