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第十二章

芽衣ちゃんの新兵器?

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 チラっと芽依ちゃんの方を見るが、桜色のロボットスーツの中でどんな表情をしているか読みとれない。読みとれないが、その機体が小刻みに震えているところ見ると、かなり怒っているな。

「ヤベはそっちの金色の方だな」

 そう言って、エラは僕を指さした。

「違う! 僕は矢部ではない!」「その森田の娘というのは私です!」
「ははははは。そんな見え透いた嘘を誰が信じるか。帝国軍の中で、ロボットスーツを使っている奴が他にいるものか」
「だーかーらー、帝国艦隊は昨夜のうちに逃げたんだって……」
「苦しい嘘だな」
「嘘じゃない。おまえだって、船で乗り付けたのだから見ているだろう。港に帝国艦隊がいないところを」
「大方、運河にでも隠したのだろう。それに、装甲艦が二隻いるのを確認している」

 装甲艦? そうか《水龍》《海龍》の事だな。

「バイルシュタイン艦隊に、装甲艦が二隻いる情報は掴んでいる。木造船だけ隠して、装甲艦を隠し忘れたのだろう。頭隠して尻隠さずとはこのことだな」

 装甲艦が二隻いる事は伝わっているが、その艦種や形状は伝わっていないのか。中途半端な情報だな。

「あのなあ……ん?」

 不意に芽依ちゃんが僕の肩を叩いた。

 なんだ?

「北村さん。翻訳機切って下さい」

 エラに聞かれないように、日本語で会話しようというのか。

「どうしたんだい? 芽依ちゃん」
「北村さん。このまま誤解は解かないでおきましょう」
「え? なんで」
「誤解が解けたら、今度はあいつを仲間に入れなきゃならなくなりますよ。いいのですか?」

 芽依ちゃんも同じ事を考えていたか。

「誤解が解けたら戦えなくなりますよ。誤解している間に始末しましょう」

 いや、それは……ちょっと腹黒くないか?

「ナンモ解放戦線の人たちだって、変な人たちを仲間に引き入れてしまったために後で苦労して、こんな小細工をする羽目になったのですよ。そうなってもいいのですか?」

 それは……嫌だ。

 エラは敵に回すと恐ろしいが、味方にすると面倒な奴。

 帝国軍も実際苦労していたし……

 よし! ここは誤解されたままでいよう。

 そもそも、さっきから僕は『矢部ではない』と言っているのに信じなかったこいつが悪い。

「エラ・アレンスキー。どうあっても僕を矢部だと言い張る気だな」
「言い張るも何もおまえは矢部だろ」

 よし! 誤解は解けそうにないな。

「違うというのなら、そのヘルメットを外して素顔を見せてみろ」

 え? いや、素顔を見られたら、誤解が解けてしまうし……

「お断りします」

 僕に代わって芽依ちゃんが答えた。

「そんな事を言って、ヘルメットを外した途端に、私達を攻撃する気でしょ!」
「なに! 貴様! このエラ・アレンスキーが、そんなケチな事をするような女に見えるというのか!?」
「見えます!」

 間髪を入れずに芽依ちゃんの言ったセリフを聞いて、エラは怒りに顔を歪ませた。

「ぐぬぬぬ………………貴様………………鋭い読みだ」

 図星だったんかい!

「まあいい。どの道に貴様等とは戦う事に……ん?」

 どうしたのだろう? 不意にエラは怪訝な表情を浮かべ、芽依ちゃんを指さした。

「そこの桃色のロボットスーツ。おまえ、なんか声が女みたいだぞ」

 今頃気づくなよ!

「ヤベと一緒に行動しているコブチという奴は男と聞いていたが……」

 いかん! 誤解が解けてしまう。

「こ……これは、ですね。今朝から私、風邪を引いていて、声の調子がおかしいのです」

 いや、芽依ちゃん……その言い訳は苦しい。

「いや……風邪を引いたら、ふつう声が低くならないか?」
「日本人は声が高くなるのです」
「そうなのか?」
「そうなのです」

 エラば、しばし考え込んだ。

 さすがにこんな嘘には騙されないだろうな。

「ううむ。日本人は風邪を引くと声が高くなるものなのか」

 信じたのか?

「よし、覚えておこう」

 いや、嘘だから忘れて……

「まあいい。どっちにしてもおまえ等と戦う事になるのだ」

 エラが右腕を、前に突き出した。

 その掌が輝く。

 来るか! プラズマボール。

 僕は腰に吊しておいた電磁石弾を握りしめた。

 今回は一つしか用意していなかったが……

「北村さん。ここは私に任せて下さい」
「芽依ちゃん」
「対エラ用の新兵器を用意してきました」

 新兵器!?
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