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第十二章

黙れ、変態!

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 町長の執務室の中では、一人の男が縛り倒されている以外には誰もいなかった。

 ミールの話では、この男は敵の斥侯だそうだ。

 町長室の様子を探りにきたところを捕まえて、分身体を作り『町長室は、みんな逃げ出して誰もいなくなっていた』と報告に行かせた。

 そのおかげでしばらく時間が稼げたのだが、程なくして分身体が見破られてしまったそうだ。

 ミールとキラは、その前にオボロに乗って脱出していた。町長達がここから逃げ出したのはその直後なのだろう。

 とりあえず、見回したところエラも敵兵もまだここまで来ていない。

「芽依ちゃん。今のうちに家具を積み上げて入り口を塞ごう」
「はい」

 町長の執務机、本棚、食器棚など重そうな家具を入り口に積み上げているうちに、バルコニーにオボロが降りてキラが町長室に入ってきた。

「キラ。今のうちに脱出口を」
「分かっている」

 キラが入り込んだのはマントルピース(のような物)の中。

 なるほど。あの中に脱出口が……

 これじゃあ、確かにロボットスーツごと入れない。

「脱出口は閉じた」

 キラがマントルピースから出てきたとき、積み上げておいた家具が轟音とともに吹っ飛んだ。

 ついに来たか。

「キラ! 逃げろ」

 キラはバルコニーに出て、オボロに飛び乗った。

 オボロはそのまま上昇していく。

 振り返ると、もうもうたる粉塵の向こうに人影が見えた。

 粉塵が徐々に収まっていき、その中から猟奇的な笑みを浮かべたエラ・アレンスキーの姿が……

「ほう。ロボットスーツか」

 エラは妙にうれしそうな顔をする。

 強敵に出会えて喜んでいるのか?

「という事は、貴様が変態野郎だな」

 ムカ! そりゃあ地球にいたころは猫耳娘のエロ画像をパソコンに集めまくって、Pちゃんから変態ケモナー呼ばわりされているが、こいつにだけは言われたくない。

「誰が変態だ! この変態!」
「なにい!? 自分が変態のくせに、私を変態呼ばわりするか!」
「黙れ、変態! 少年兵を電撃で虐待して喜んでいるド変態のくせに」
「あれは私の崇高な趣味だ。というか、なぜおまえが私の趣味を知っている?」
「おまえ、自分のコピーがいる事を知らないのか?」

 コピーと聞いたエラは不快そうな顔をした。

「あいつらの事か……」

 他のコピーを嫌っているようだな。

「私のコピーどもが、それをやっている現場を見たのか?」
「そうだが……」
「あいつら、私と同じコピーのくせに、いつも私を仲間外れにしおる。気に入らん」

 そうか。こいつだけ、シンクロできないのだった。

「挙げ句の果てに、自分達の悪事の責任をすべて私に押しつけて、私だけ軍法会議にかけられる事になってしまった。七人いるから、一人ぐらいいなくなってもいいとか言って」

 これも一種のイジメだな。ちょっと可哀相な……

「だから、私は軍を脱走して帝国に復讐する事にした」

 え?

「帝国に復讐するにしても、私一人では無理だ。だから、私は仲間を求めていた」

 という事は、こいつとは味方になれる? しかし……こんな奴、味方にしたくないなあ……

「味方にするなら、最強の反帝国勢力リトル東京に限る。だが、私のコピーが、リトル東京に大きな損害を与えたらしい。このまま行っても、受け入れてもらえそうにない。どうしたものか? と悩んでいるところへおまえ達が私の目の前に現れた。これぞ天の導き」

 へ?

「なんで、これが天の導きになるのですか?」

 芽依ちゃんの質問に、エラは高笑いで答える。

「ははははははははははは! リトル東京の裏切り者にして、そこの有力者であるモリタ氏の娘に散々イヤラシイ事をしていた変態男。ヤベを成敗して、その首を持ち帰れば、きっとリトル東京も快く私を迎えてくれるに違いない」
 
 だあ! こいつも勘違いしている。ていうか、矢部の奴どんたけ非道い事をやったんだよ!? 

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