上 下
438 / 842
第十二章

意外と頑丈な建物

しおりを挟む
 役所上空には、金色の竜が滞空している。

 ミクの式神オボロだ。漢字では『朧』と書くらしい。

 まあ、それはいいとして……

 近づくとオボロにミクとミール、キラの三人が並んで跨っている。

 ミクが僕たちに気がついて手をふった。

「お兄ちゃん! あのオバン、役所から出てこようとしないんだよ。建物壊していい?」

 慌てて首を横に振った。

「だめだめ!」
「ぶう」
「それより、中の様子は分かるかい?」

 さっきから通信機で呼びかけているが、Pちゃんもアーニャも応答がない。無事だといいのだが……

 キラが僕の方を振り向いた。

「今、私の分身が、アーニャさんと接触した」
「アーニャさんは無事か?」
「無事だ。町長室から、緊急脱出口に入ったと言っている。そこから、長いシューターで地下に入ったら、通信機がつながらなくなってしまったらしい。Pちゃんもそこにいる」

 二人とも無事だったか。

「町長の話では、この地下室は三十年前にカルカの技師が作った部屋で、どんな攻撃にも耐えられるそうだ」

 カルカの技師……つまり《天竜》から降りてきた地球人だな。おそらくその地下室は核シェルターのような物だろう。頑丈なのはいいが、電波まで遮ってしまったのか。まあ、これならエラの攻撃にも耐えられるだろう。  

「ただ、問題が……町長室の入り口が完全に閉じていない。私の分身が入れたのは、そこが開いていたからなのだが……」
「シェルター内から、操作できないのか?」
「本来なら操作できるし、町長も閉じていると思っていたようだ。私が入ってきたことで、入り口が閉じていない事が分かって大騒ぎになっている」

 古いシステムだからな……

 しかし、この入り口をエラに見つけられたら……

「ミク。町長室のバルコニーに降りてくれ」
「うん、お兄ちゃん」

 ミールが僕の方を振り向いた。

「待って下さい。町長室に敵兵が向かっています。今部屋に入ると鉢合わせに……」

 まずいな……

「今から、あたしの分身を、足止めに向かわせます。でも、長くはもちませんよ」
「よし。ミールが時間を稼いでくれている間に僕と芽依ちゃんで、町長室に入って入り口を閉じよう」
「待ってくれ。カイト殿。入り口はかなり狭いところに隠されている。ロボットスーツを着用したままでは近づけないぞ。私が直接行って閉じた方がいい」

 しかし、それではキラが危険だが……いや、躊躇していたら入り口をエラに見つけられてしまう。

「分かった。では内部の安全を確保したら、ミクはキラをバルコニーに下ろしてくれ」
「お兄ちゃん不味いよ! エラの奴も町長室に向かっている」
「なに?」
「アクロがまたやられちゃった。やっぱり、巨大化しないと勝てないよ。建物少しだけ壊していい?」

 しかたない。

「少しだけだぞ」
「うん」

 ミクは懐から新たな憑代を取り出して投げた。

 憑代は鬼に変化し、バルコニーに降りる。

 壁を殴りつけてブチ破ろうとしたが……

 直後にミクの顔がひきつった。

 アクロに殴りつけられた役所の壁にはヒビ一つ入っていない。意外と頑丈な建物だな……感心している場合じゃない。

 鉄板すらぶち抜くアクロの怪力が通じないなんて……

「ダメ。壊せない。役所の壁、アクロの怪力でも壊せないよ」

 そういえば、シェルターは三十年前にカルカの技師が作ったと言っていたが、この役所の建物自体そうなのじゃないのだろうか?

「キラ。町長に聞いてくれ。この建物の素材は?」
「分かった」

 キラはしばらく目を瞑る。分身の操作に意識を集中しているのだろう。

 やがて目を開いた。

「町長は知らなかったが、アーニャさんが知っていた。なんでも、この建物自体が三十年前にカルカの技師が建造したもので、壁材にはモノクリスタルカーボンファイバーいうとう物で強化した陶器を使っていると言っているが……それで意味は分かるか?」

 単結晶炭素繊維モノクリスタルカーボンフィバー強化セラミック!? 大気圏突入でも、キツネ色の焦げ目しかつかないと言われている頑丈な素材だ。

 それを聞いてミクも驚いていた。

「それ、アクロの怪力でも無理だよ」

 しかし、さっきはアーニャの銃撃で天井に穴が……そうか。あの天井板は後から追加された物。本体は貫通しないと分かっていたから、アーニャも天井に向けて撃ったのだな。

 芽依ちゃんが僕の方を振り向いた。

「こっちから入るのではなくて、エラ・アレンスキーさんをバルコニーにおびき出してはどうでしょう?」
 
 なるほど。もちろん、囮役は僕と芽依ちゃんがやるとして……

「ミク。アクロはバルコニーで待機させていてくれ」
「うん。あのオバンが外へ飛び出して来たら、やっつけるんだね」
「そうだ。頼んだよ」
「任せて」

 上空にオボロを待機させたまま、僕と芽依ちゃんはバルコニーから室内に突入した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

基本中の基本

黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。 もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。

アンチ・ラプラス

朝田勝
SF
確率を操る力「アンチ・ラプラス」に目覚めた青年・反町蒼佑。普段は平凡な気象観測士として働く彼だが、ある日、極端に低い確率の奇跡や偶然を意図的に引き起こす力を得る。しかし、その力の代償は大きく、現実に「歪み」を生じさせる危険なものだった。暴走する力、迫る脅威、巻き込まれる仲間たち――。自分の力の重さに苦悩しながらも、蒼佑は「確率の奇跡」を操り、己の道を切り開こうとする。日常と非日常が交錯する、確率操作サスペンス・アクション開幕!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...