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第十二章
レイラ・ソコロフの思惑
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僕の説明を聞いても、フランツ・アレクセイエフはすぐに信じられなかったようだ。まあ無理もない。
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘ではない」
「では、顔を見せてもらおう。俺はヤベとコブチの顔を知っている」
「あの二人と、会ったことがあるのか?」
「俺はかなり長い間リトル東京で過ごしたからな。裏切る前の奴らと面識がある」
僕はバイザーを開いた。
「こんな顔だったか?」
「いや……違う。こんなハンサムじゃなかったな」
お世辞言っても何も出ないぞ。
「もう一人の方は?」
芽依ちゃんは、アレクセイエフを捕まえていた手を離してバイザーを開いた。
「矢部さんじゃありません。そもそも、私は女です」
「あんたは!?」
アレクセイエフは芽依ちゃんの顔を見て驚く。
芽依ちゃんとも面識があるのか?
「私のことご存じですか?」
「ああ……いや、人違いかな? 三年前にリトル東京で選挙があったときに、あんたによく似た……」
唐突に芽依ちゃんはアレクセイエフの胸倉を掴んだ。
「その人は別人です!」
「え? いや……俺はまだなにも……」
「別人です!」
「そ……そうなの?」
「別人です!」
ウグイス嬢は、芽依ちゃんにとって忘れたい黒歴史のようだ。
「とくかく、僕たちがリトル東京の者だという事は理解してもらえただろうか?」
「それは分かったが、俺の一存で全軍に停戦させる事はできない」
とは言ったものの、アレクセイエフはここにいる部隊の隊長だったらしく、自分の部下達に戦いをやめさせることはできた。
「西の橋に押し寄せている部隊にも、停戦に応じるように伝えてもらえないだろうか?」
「いや……それは無理だ」
「しかし、そうなると僕たちの手で殲滅しなければならなくなるのだが……」
「ああ。それは一向にかまわん。大いにやってくれ」
「は?」
アレクセイエフは慌てて言い直した。
「あ……いや……彼らとは連絡が取れないのだ。だが、彼らを町に入れるわけにはいかない。仕方ないから君の手で殲滅してくれ。仕方ないから……」
こいつ……まさか?
周囲を見回すと、アレクセイエフの部下達は今までのゴロツキ兵士と違い統制が取れているように見える。
さっきの砲兵陣地の兵士達も統制が取れていた。
つまりこいつらは、レイラ・ソコロフ直属の部隊か?
「これは返そう」
僕はロケットランチャーを差し出した。
アレクセイエフは意外そうな顔で受け取る。
「いいのか?」
「君を信用する事にした。ただし、信頼を裏切って後ろから撃ったら、どうなるか分かっているな?」
「分かっているさ。リトル東京を敵には回したくない」
「ところで、君。誘導弾の残弾はどのぐらいある?」
「ん? 二十発ほどだが……」
やはりそういう事か。それだけの残弾があるのにドローンは攻撃しなかった。
その思惑は……
「芽依ちゃん。行こう」
「はい」
僕たちは西の橋に向かって飛び立った。
時々振り向いたが、後ろから撃ってくる様子はない。
「北村さん。なんかおかしくないですか? あのフランツ・アレクセイエフという人、まるで私達の手で味方を殲滅させたがっているような……」
「やはり、芽依ちゃんも気がついたか」
「どういう事でしょう?」
レイラ・ソコロフはナンモ解放戦線を再結成しようとしてかつての仲間に呼びかけた。その結果五千の大軍が集まったわけだが……かつての仲間だけでなく、とんでもない連中まで来てしまった。
盗賊などゴロツキどもが……
ゴロツキどもにとって『打倒帝国』とか『打倒レム神』とかはどうでもいい。ただ、戦闘のどさくさに紛れて略奪をしたいだけ。
レイラ・ソコロフも、集まってきたゴロツキどもを追い返すわけにもいかず扱いかねていた。
ロータスの町長から見ても統率のとれていない武装集団では帝国軍と戦っても勝ち目はないという事は、レイラ・ソコロフ自身も分かっていたはず。
そこで、レイラ・ソコロフはロータス攻めを思いついた。ロータスに帝国軍がいる間にゴロツキどもを最前線に出してロータスを攻撃して、帝国軍の手で厄介な味方を始末させるという思惑だったのだ。
まあ、僕の推測だが……
「でも、北村さん。それならロータスではなくて、帝国軍の要塞でも攻撃すれば……」
「芽衣ちゃん。要塞攻めでは、ゴロツキ連中は最前線ではなく安全な後方に陣取るよ。ナンモ解放戦線の正規部隊が敗れた時は、さっさと逃げられるようにね。だけど、ロータスは商人の町。防御はそんなに固くないし、莫大な富を抱えている。欲に目の眩んだゴロツキどもは、我先に略奪しようとして、言われなくても最前線に出てくるはずだ」
眼下を見下ろすと、その欲に目の眩んだゴロツキどもがロータス防衛隊と激戦を繰り広げていた。
今にも橋を渡ってしまいそうな勢いだがそうはさせない。
僕達は激戦の真っただ中に降下した。
「嘘じゃないだろうな?」
「嘘ではない」
「では、顔を見せてもらおう。俺はヤベとコブチの顔を知っている」
「あの二人と、会ったことがあるのか?」
「俺はかなり長い間リトル東京で過ごしたからな。裏切る前の奴らと面識がある」
僕はバイザーを開いた。
「こんな顔だったか?」
「いや……違う。こんなハンサムじゃなかったな」
お世辞言っても何も出ないぞ。
「もう一人の方は?」
芽依ちゃんは、アレクセイエフを捕まえていた手を離してバイザーを開いた。
「矢部さんじゃありません。そもそも、私は女です」
「あんたは!?」
アレクセイエフは芽依ちゃんの顔を見て驚く。
芽依ちゃんとも面識があるのか?
「私のことご存じですか?」
「ああ……いや、人違いかな? 三年前にリトル東京で選挙があったときに、あんたによく似た……」
唐突に芽依ちゃんはアレクセイエフの胸倉を掴んだ。
「その人は別人です!」
「え? いや……俺はまだなにも……」
「別人です!」
「そ……そうなの?」
「別人です!」
ウグイス嬢は、芽依ちゃんにとって忘れたい黒歴史のようだ。
「とくかく、僕たちがリトル東京の者だという事は理解してもらえただろうか?」
「それは分かったが、俺の一存で全軍に停戦させる事はできない」
とは言ったものの、アレクセイエフはここにいる部隊の隊長だったらしく、自分の部下達に戦いをやめさせることはできた。
「西の橋に押し寄せている部隊にも、停戦に応じるように伝えてもらえないだろうか?」
「いや……それは無理だ」
「しかし、そうなると僕たちの手で殲滅しなければならなくなるのだが……」
「ああ。それは一向にかまわん。大いにやってくれ」
「は?」
アレクセイエフは慌てて言い直した。
「あ……いや……彼らとは連絡が取れないのだ。だが、彼らを町に入れるわけにはいかない。仕方ないから君の手で殲滅してくれ。仕方ないから……」
こいつ……まさか?
周囲を見回すと、アレクセイエフの部下達は今までのゴロツキ兵士と違い統制が取れているように見える。
さっきの砲兵陣地の兵士達も統制が取れていた。
つまりこいつらは、レイラ・ソコロフ直属の部隊か?
「これは返そう」
僕はロケットランチャーを差し出した。
アレクセイエフは意外そうな顔で受け取る。
「いいのか?」
「君を信用する事にした。ただし、信頼を裏切って後ろから撃ったら、どうなるか分かっているな?」
「分かっているさ。リトル東京を敵には回したくない」
「ところで、君。誘導弾の残弾はどのぐらいある?」
「ん? 二十発ほどだが……」
やはりそういう事か。それだけの残弾があるのにドローンは攻撃しなかった。
その思惑は……
「芽依ちゃん。行こう」
「はい」
僕たちは西の橋に向かって飛び立った。
時々振り向いたが、後ろから撃ってくる様子はない。
「北村さん。なんかおかしくないですか? あのフランツ・アレクセイエフという人、まるで私達の手で味方を殲滅させたがっているような……」
「やはり、芽依ちゃんも気がついたか」
「どういう事でしょう?」
レイラ・ソコロフはナンモ解放戦線を再結成しようとしてかつての仲間に呼びかけた。その結果五千の大軍が集まったわけだが……かつての仲間だけでなく、とんでもない連中まで来てしまった。
盗賊などゴロツキどもが……
ゴロツキどもにとって『打倒帝国』とか『打倒レム神』とかはどうでもいい。ただ、戦闘のどさくさに紛れて略奪をしたいだけ。
レイラ・ソコロフも、集まってきたゴロツキどもを追い返すわけにもいかず扱いかねていた。
ロータスの町長から見ても統率のとれていない武装集団では帝国軍と戦っても勝ち目はないという事は、レイラ・ソコロフ自身も分かっていたはず。
そこで、レイラ・ソコロフはロータス攻めを思いついた。ロータスに帝国軍がいる間にゴロツキどもを最前線に出してロータスを攻撃して、帝国軍の手で厄介な味方を始末させるという思惑だったのだ。
まあ、僕の推測だが……
「でも、北村さん。それならロータスではなくて、帝国軍の要塞でも攻撃すれば……」
「芽衣ちゃん。要塞攻めでは、ゴロツキ連中は最前線ではなく安全な後方に陣取るよ。ナンモ解放戦線の正規部隊が敗れた時は、さっさと逃げられるようにね。だけど、ロータスは商人の町。防御はそんなに固くないし、莫大な富を抱えている。欲に目の眩んだゴロツキどもは、我先に略奪しようとして、言われなくても最前線に出てくるはずだ」
眼下を見下ろすと、その欲に目の眩んだゴロツキどもがロータス防衛隊と激戦を繰り広げていた。
今にも橋を渡ってしまいそうな勢いだがそうはさせない。
僕達は激戦の真っただ中に降下した。
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