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第十二章

ロックオン

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「なあ、芽依ちゃん。ちょっと気になったのだが……」

 町役場に戻る途中、運河上空にさしかかったところで僕は沸き上がってきた疑惑を口にした。

「何でしょう?」
「レイラ・ソコロフの孫娘がリトル東京まで行って、レーザー銃の供与まで受けた。これは、ナンモ解放戦線には、リトル東京の後ろ盾があるという事ではないのかな?」
「その可能性はあります。私がリトル東京にいた頃も、亡命帝国人を受け入れていましたし、その中には反帝国組織に所属していた人たちもいました」
「では、このロータス攻めは、リトル東京からの指示という事は考えられないだろうか?」
「それは……」

 芽依ちゃんは口ごもる。

 あ! いけない。リトル東京の最高指導者って、芽依ちゃんのお父さん。

「いや、すまん。芽依ちゃんのお父さんがそんな事を指示したのかと言っているのではなくて……」
「分かっています。北村さん。それに……父は今、市長ではありませんから……もし、そういう指示をした人がいたとしても父ではありません」
「え? そうだったの?」
「はい。三年前の選挙で負けていますから……」

 選挙で決めていたのか……しかし、リトル東京自体、母船《イサナ》の指示を受けているのでは?

「選挙に負けたのは、私のせいですけど……」
「え? なんで?」
「私なんかが……ウグイス嬢をやるから……」

 あ! なんとなく、想像がつく。ウグイス嬢を引き受けたはいいけど、どもって何も言えなかったんだな。

 でも、それは船長が悪い。

 娘がコミュ障だという事は知っているのに、ウグイス嬢なんかさせるから……

 それと、そんな事で選挙に負けるはずがない。理由は他にあるはず。

 通信が入ったのはそんな事を考えている時……

 通信相手はアーニャ・マレンコフ。

『北村君。こっちは良いから、西の橋の守りに回ってもらえないかしら?』
「どうしたのです?」
『今、役所内で戦闘中なのだけど、敵にはエラ・アレンスキーの他に分身魔法使いがいるのよ。対抗するためにミールさんも西の橋を守っていた分身を消して、こっちで分身を出したのだけど……』
「では、西の橋の守りは?」
『ドローンで食い止めているけど、そろそろ弾薬が尽きるわ』
「分かりました。西の橋は僕達で守ります。それと、アーニャさん。役所に攻め込んだ者達の中にレイラ・ソコロフがいるはずです」
『やはり、そうだったのね。今のところ、向こうからは何も言ってこないけど、頃合いを見て講和を呼びかけてみるわ』

 通信を切った。

 横を見ると、芽依ちゃんが無言で僕の方を見つめている。

 ロボットスーツで顔の表情は分からないけど『なんでアーニャさんの指示に従うのですか!』と言いたいのかな?

「あのさ……芽依ちゃん……」
「西の橋を守るのですね」

 まあ、通信内容は聞かれていたのだから……

「いや、今のは、アーニャさんに命令されたのではなくて……意見具申を受けたのであって……」
「分かっています」

 芽依ちゃんはそのままクルっと向きを変えて、西の橋の方へ向かっていった。

 僕が後から追いかける。

「芽依ちゃん。やっぱり、不満なのかな?」
「い……いえ……そんな事ありません。私こそ、さっきは変な事を言ってすみません」
「いいんだよ。そんな事……」
「北村さんが誰の指示を受けてもいいです。でも、私だけは北村さんから指示されていたいのです」

 え? 何を言っているんだ? この子……

「前の北村さんは、香子さんを選びました。今の北村さんは、ミールさんを選んだのですね」
「え……ええっと……」
「でも、ロボットスーツを纏って戦っている間だけは、北村さんは……私だけの……」

 芽依ちゃんの言い掛けた言葉は、突然鳴り響いた警報に遮られた。

 これは……?

「北村さん! ロックオンされました」

 ロックオン? ミサイルか? 対空砲? やはりリトル東京からの供与品か?
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