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第十二章

なし崩し

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 戦いは、なし崩し的に始まった。

 最初はデポーラ・モロゾフの近くに陣地を構えていた部隊が、銃声を聞いて進撃を開始したのだが、ほとんどの部隊はすぐには動かなかった。

 どうやら、ろくに進撃の合図も決めていなかったようだ。

 だから、銃声を聞いて進撃の合図と早合点した部隊だけが動き出した訳だが、そうでない部隊は様子を見て動こうとしない。

 その様子を僕たちはドローンから送られてくる映像で見ていた。

 銃を撃ったデポーラ本人の様子を見ると……

『ちっ』

 ドローンの集音機が、デポーラの舌打ちを拾っていた。

『ここまで、馬鹿な連中だったとはね。たかが鉄砲一発で、突っ走るとは……』
『アネゴ。どうします? 動き出したのは、アルダーノフの部隊ですよ。このままだと、奴らにめぼしいお宝を全部盗られて……』
『安心しな。向こうにはリトル東京がついているんだろ。先に突っ込んだアルダーノフの奴らは、恐らく全滅するだろうね。あの馬鹿がどんなやられ方をするか見てから、あたいらは動くんだ』

 なんて奴だ……だけど……

 僕はミクの方を向いた。

「エラ・アレンスキーは、あいつの陣地にいるはずだ」

 動こうが動くまいがエラがいる以上、おまえの陣地は真っ先に叩くのだよ。

「ミク。やってくれるか?」

 ミクは懐から人型を取り出す。

「任せて。お兄ちゃん。あのおばん、ギッタンギッタンにしてやるから」

 そう言って、部屋から出ようとしたミクの腕を、ミールが掴んだ。

「待って! ミクちゃん」
「なあに? ミールちゃん」
「エラはミクちゃんにあげるから、デポーラはあたしにちょうだい」
「ううん……どうしようかな? そうだ! 賞金の五割をあたしに……」
「ええ! 一割に負けてくれない?」
「じゃあ四割」
「二割」
「三割」

 どうでもいいが、さっさと行かんか!

「じゃあ、オボロにミールちゃんの分身ニ体乗せてあげるから、運賃含めて二割五分という事で」
「商談成立」

 ミクはバルコニーに出てオボロを出した。

 突然現れた金色の竜に、ロータスの議員達は驚く。

 一方、ミールは室内で結跏趺坐けっかふざして分身体をニ体作り出した。

「それじゃあ、お兄ちゃん。行ってくるね」

 ミールの分身体とミクを乗せて、オボロは空へ飛び立つ。

 さてと……

 僕はアーニャの方を振り返った。

「戦いは偶発的に始まってしまったけど、まだ和平を諦めたわけではありません」
「そう。では、なぜあの子達を行かせたの?」
「エラ・アレンスキーの存在が彼らを強気にしているようです。ならば、奴を真っ先に討ち取った方が、向こうも和平提案に乗ってくると思います」
「確かに。でも、そのためには一刻も早く、レイラ・ソコロフの本陣を突き止めないと……」

 しかし、ドローンの数を増やして捜索したが、レイラ・ソコロフの本陣は見つからない。

 敵の動きも気になるし……

「Pちゃん。映像を全体図に切り替えて」
「はい」

 ロータス全体の航空映像に切り替わった。衛星写真に見えるが、実際は高空に浮かべた複数のドローンの映像を繋ぎ合わせた映像。

 これによると、ロータスの町は東側に大河マオ川が流れ、三方は運河に囲まれていた。

 そして、南と北と西にそれぞれ一つずつ大きな橋が架かっている。

 ロータスの守備隊はその三つの橋を守っていた。

「動いている部隊を赤い丸で囲って」
「はい。ご主人様」

 七つの赤い丸が現れた。

 赤い丸が現れたのはロータスの西側。ゆっくりと西の橋に向かっている。

 南と北は動きがない。

 西の橋で戦闘が始まるまで、十分ほどしか余裕がなさそうだ。

 僕は町長の方を向いた。

「西の橋の守備兵力はどのくらいですか?」
「百名ほどです」
「十分後には、総勢三百の部隊が押し寄せます。何分ぐらい持ちこたえますか?」
「三十分ももてば良いほうかと……」

 という事は……アーニャの方を向いた。

「レイラ・ソコロフを探している余裕はなさそうです。まずは敵の第一陣を潰しに行くので、ここの指揮をお願いできますか?」
「ええ。いいわ」

 ミクからの通信が入ったのはそのとき。

『お兄ちゃん。デポーラの陣地にプラズマボール撃ち込んだけど、エラの奴出てこないよ』

 意外と慎重な奴だな。

「よし分かった。ちょっと待っていろ」

 僕はミールの方を向いた。

「ミール。分身体を戦闘モードにして降下させて。テントに突入してエラをおびき出すんだ」
「はーい。エラが出てきたら、ミクちゃんに任せればいいのですね?」
「そう。デポーラの部下は殲滅していい」
「わっかりました」
 
 ミールが回復薬を飲み込む。

 そうしている間に、西の橋で戦闘が始まってしまった。

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