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第十二章
ロータスの酒場2
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町長は船長に挨拶してから席についた。
『初めまして。私はロータスの町長ステビアと申します。帝国軍の方は、奴隷を欲しておられると聞きましたが』
『そうだ。しかし、町長のあんたまでこの話に?』
『実はロータスで奴隷が不足しているのには、他にも理由があります』
『理由? 我々が買い占めたからではないのか?』
『それもありますが、町として奴隷を極秘で集めていたのです』
『極秘で……戦争か?』
『そうです。ただし、戦闘奴隷を集めていることは、なるべく知られたくありませんので、このことは内密にお願いします』
『いいだろう。それで、敵は?』
『盗賊団です。東の荒野に散らばっていた盗賊達が、最近大きな集団にまとまり、数千人規模の大盗賊団となっているのです。それで、様子を探ったところ、奴らはロータスの町に攻め込むつもりのようです』
『なんと! それで戦力を集めていたのか』
町長はこくりと頷いた。
『そのような状況で、奴隷が不足しているのです。ですが、もし帝国軍の戦力で盗賊団を蹴散らして頂けるのなら、我々が集めた奴隷は格安でお譲りいたしますが、いかがでしょう?』
『ううむ』
船長は考え込んだ。
『もちろん、あなたの権限で決められないのは分かっています。ですから、上の方に話を付けていただけないでしょうか?』
『わかった。いいだろう』
話がまとまりかけたその時、二人の帝国兵が店に駆け込んできた。
帝国兵が店内を見回し、船長の姿を見つけると駆け寄って耳打ちした。
さすがに耳打ちするような小声だと集音機では拾えないな。
『なに! そんなバカな』
船長は驚いているようだが、何があったのだろう?
『おまえも知っているだろう。今回の遠征にはエラ・アレンスキーも加わっていて、大活躍したのだ。それが、軍を脱走してロータス市内で、我が軍兵士から財布を強奪しただと?』
あ! さっき僕らのやったことか……
『自分もそれは知っているのですが、町中に散っている帝国軍兵士達を見つけたら、そのように伝えるようにと……』
『エラ・アレンスキーは《マカロフ》に乗っていたはずだ。おおかた、救命ボートで脱出して、今頃になってロータスにたどり着いたのではないのか?』
エラが複数いるという事を帝国内で知っているのは極一部だけ。一介の船長ごときでは知らないのだな。艦隊の上層部は知っているようだが……
『あの、すみません』
町長が口を挟んできた。
『町長。すまんが、今取り込んでいるので……』
『取り込み中は分かりますが、今のお話に出てきたエラ・アレンスキーという人についてお話したい事が……』
『なに?』
『四日ほど前ですけど……ロータス近くの村が、盗賊団に襲われる事件があったのですが、その時に雷魔法を使う女が盗賊団の中にいたのです』
なに!?
『その女は、エラ・アレンスキーと名乗っていたのですが……』
あいつ……盗賊団に入っていたのか。
『馬鹿な! 四日前なら、エラ・アレンスキーはカルカで戦っていたはずだ』
『しかし、そう名乗っていたのです』
『エラ・アレンスキーが、二人いるとでも言うのか?』
実は、八人いたのだよ。今でも四人残っている。
『む! そうか! その盗賊団の中にいたという女は、きっとニセ者だ。この周辺の人間が本人の顔を知らないのをいいことに帝国軍の英雄の名前を騙っているに違いない。だとするとこの街に現れた奴も……本物はやはり《マカロフ》と運命を共にして殉職したのか。惜しい人を亡くしたものだ』
全然惜しくないのですけど……
ああ! 教えてやりたい。本当の事を彼らに……
「カイトさん」
ミールが僕の耳元に囁いた。
「好都合ですね。このまま、帝国軍と盗賊団が戦えば、その隙にあたし達は《アクラ》からカートリッジを取り返せます」
確かに好都合だが……果たしてそう上手くいくかな?
『初めまして。私はロータスの町長ステビアと申します。帝国軍の方は、奴隷を欲しておられると聞きましたが』
『そうだ。しかし、町長のあんたまでこの話に?』
『実はロータスで奴隷が不足しているのには、他にも理由があります』
『理由? 我々が買い占めたからではないのか?』
『それもありますが、町として奴隷を極秘で集めていたのです』
『極秘で……戦争か?』
『そうです。ただし、戦闘奴隷を集めていることは、なるべく知られたくありませんので、このことは内密にお願いします』
『いいだろう。それで、敵は?』
『盗賊団です。東の荒野に散らばっていた盗賊達が、最近大きな集団にまとまり、数千人規模の大盗賊団となっているのです。それで、様子を探ったところ、奴らはロータスの町に攻め込むつもりのようです』
『なんと! それで戦力を集めていたのか』
町長はこくりと頷いた。
『そのような状況で、奴隷が不足しているのです。ですが、もし帝国軍の戦力で盗賊団を蹴散らして頂けるのなら、我々が集めた奴隷は格安でお譲りいたしますが、いかがでしょう?』
『ううむ』
船長は考え込んだ。
『もちろん、あなたの権限で決められないのは分かっています。ですから、上の方に話を付けていただけないでしょうか?』
『わかった。いいだろう』
話がまとまりかけたその時、二人の帝国兵が店に駆け込んできた。
帝国兵が店内を見回し、船長の姿を見つけると駆け寄って耳打ちした。
さすがに耳打ちするような小声だと集音機では拾えないな。
『なに! そんなバカな』
船長は驚いているようだが、何があったのだろう?
『おまえも知っているだろう。今回の遠征にはエラ・アレンスキーも加わっていて、大活躍したのだ。それが、軍を脱走してロータス市内で、我が軍兵士から財布を強奪しただと?』
あ! さっき僕らのやったことか……
『自分もそれは知っているのですが、町中に散っている帝国軍兵士達を見つけたら、そのように伝えるようにと……』
『エラ・アレンスキーは《マカロフ》に乗っていたはずだ。おおかた、救命ボートで脱出して、今頃になってロータスにたどり着いたのではないのか?』
エラが複数いるという事を帝国内で知っているのは極一部だけ。一介の船長ごときでは知らないのだな。艦隊の上層部は知っているようだが……
『あの、すみません』
町長が口を挟んできた。
『町長。すまんが、今取り込んでいるので……』
『取り込み中は分かりますが、今のお話に出てきたエラ・アレンスキーという人についてお話したい事が……』
『なに?』
『四日ほど前ですけど……ロータス近くの村が、盗賊団に襲われる事件があったのですが、その時に雷魔法を使う女が盗賊団の中にいたのです』
なに!?
『その女は、エラ・アレンスキーと名乗っていたのですが……』
あいつ……盗賊団に入っていたのか。
『馬鹿な! 四日前なら、エラ・アレンスキーはカルカで戦っていたはずだ』
『しかし、そう名乗っていたのです』
『エラ・アレンスキーが、二人いるとでも言うのか?』
実は、八人いたのだよ。今でも四人残っている。
『む! そうか! その盗賊団の中にいたという女は、きっとニセ者だ。この周辺の人間が本人の顔を知らないのをいいことに帝国軍の英雄の名前を騙っているに違いない。だとするとこの街に現れた奴も……本物はやはり《マカロフ》と運命を共にして殉職したのか。惜しい人を亡くしたものだ』
全然惜しくないのですけど……
ああ! 教えてやりたい。本当の事を彼らに……
「カイトさん」
ミールが僕の耳元に囁いた。
「好都合ですね。このまま、帝国軍と盗賊団が戦えば、その隙にあたし達は《アクラ》からカートリッジを取り返せます」
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