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第十二章

見たけど、見なかったことにしよう。

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 潜水艦《海龍》を出た僕達は、そのままシェルター内の会議室に向かった。
 会議室に行くと、キラとミーチャが先に来ている。
 部屋に入ってきた僕達にキラが手を振ったが、ミーチャの方は机に向かって一心不乱に何かを書いていた。絵のようだな。

「キラ。何か分かったかい?」
「ああ。ミーチャ、絵はそのぐらいでいい。みんなに見せて」
「はい」

 ミーチャは立ち上がって、僕らに画用紙を見せた。
 そこに描かれているのは、一隻の船。
 上手いものだな。細部まで描きこまれている。ミーチャにこんな才能があったんだ。
 だけど、水しぶきまで、描かなくていいのに……

「わあ、ミーチャ上手! 今度はあたしの似顔絵描いて」
「え?」

 ミクに催促されて、ミーチャの顔が少し引きつった。
 どうも、ミーチャはミクが苦手みたいだ。無理もない。この前、女装させられたからな……

「ミク、会議が終わってからね」
「うん。そうするよ」

 僕達は、長テーブルを囲んで席に着いた。

「それで、ミーチャ。その船はなに?」
「はい。帝国海軍の中にいた鉄の船です。船名は《アクラ》」

 装甲艦か。という事は、これが成瀬真須美の乗艦?

「僕は《マカロフ》に乗っていて、並走している《アクラ》を見ていたのですが、《アクラ》にはサーシャさんが乗っていたのです」
「サーシャさん? 君の孤児院の先輩だったね」
「はい。それでさっきサーシャさんに聞いたのですが、《アクラ》の船内にプリンターがあるのを見たというのです」

 やはりそうか。

「《アクラ》には日本人はいたかい?」
「はい。ナルセさんと、ヤナさんと、それと後二人」

 矢部と古淵だな。やはり乗っていたか。

「矢部と古淵という名前じゃなかったかな?」
「そうです。それと、その……ヤベという人が……サーシャさんに……エッチな事を……」

 こんなところまで来てセクハラを……病気だな……

「私も、リトル東京にいた時は、矢部さんには散々やられましたから……」

 芽衣ちゃんが思い切り嫌そうな顔をした。

「分かった。ミーチャ、キラありがとう」

 僕はミールの方に顔を向けた。

「ミールは、何か分かったかい?」
「はーい。ダサエフを尋問したところ、リトル東京から盗まれたマテリアルカートリッジは、内海にある孤島に運び込まれたそうです」
「孤島?」
「ええ。島の名前はベイス島と言っていました」
「ベイス島の位置は分かるかい?」
「そこまではダサエフも知らないようです」

 どこにある島か分からないけど、《アクラ》の中にレアメタルカートリッジがあればその島には行かなくて済む。
 なかった時は、成瀬真須美たちから島の位置を聞き出すしかないな。知っていればだが……

「わかった。ありがとうミール」

 Pちゃんの方を向いた。

「逃走中の帝国艦隊の位置は分かったかい?」
「現在《イサナ》の方で探してくれています。しばし、お待ちを」

 Pちゃんがそう言い終わった時、扉が開き香子が入ってきた。

「香子。寝てなくて大丈夫か?」
「大丈夫よ。海斗。ちょっと疲れただけだから。それより、さっき《イサナ》から通信があったわ。その時にあんたに見せてほしいと、データが送られてきたわよ。衛星写真の様だけど……」

 香子は芽衣ちゃんにデータカードを渡した。
 受け取った芽衣ちゃんは、Pちゃんの頭からアンテナを外してデータカードを差し込む。

「それでは、P0371。映像を映して下さい」
「はい。芽衣様」

 室内照明を暗くしてから、Pちゃんは壁にレーザーを照射してプロジェクションマッピングを映し出した。
 そこに映ったのは……え?

 裸の男たちが絡み合っている漫画……

 いかん!

「見るなあ!」

 映像を見入っているミクとミールの目を僕は慌てて手で塞いだ。

「カイトさん。なぜ目隠しをするんですか?」「お兄ちゃん。いいところなのに……」
「ダメだ! これは18歳未満閲覧禁止!」

 映像を見て茫然としていた香子は、ハッと我に返った。

「キャー! カード間違えたあ!」

 香子は、Pちゃんの頭からカードを乱暴に抜き取った。

「香子様。そのように乱暴にカードを抜き取っては、中のデータが壊れてしまいます」
「いいのよ。こんなデータ消えちゃって……て言うか、消して! 消滅させて! 積み荷を燃やして!」

 香子は乱暴にカードを床に叩きつけてから、別のカードを差し込んだ。

「か……海斗! 誤解しないでね。このカードは私のじゃないのよ。相模原さんが、シーバ城を脱出する時に忘れていった物だから……」
「香子……その……僕は何も見なかったから……」

 見たけど、見なかったことにしよう。それが平和のためだ。
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