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第十一章
長い戦いの始まり(天竜過去編)
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ここにいる馬 美玲は幽霊ではなかった。
アーニャ、趙 麗華、柳 魅音ら三人の手によって、すでに救出されていたのだ。
ちなみに、この三人はまだ機体にリンクしたままGシートで横になっている。まだ、残りの玄武隊の人達を《朱雀》へ運んでいるのだ。
以上の事を、僕は唯一リンクしていなかった王から説明された。
「心配かけてごめんね。章君」
馬 美玲は僕の手を握って詫びた。
「ううん。生きていてよかったよ」
僕がそう言った時、女の子達が機体とのリンクを切った事を告げる電子音が鳴った。
一分ほどで三人とも起き上がるだろう。
三人が起き上がる前に、キャビンの扉が開いて楊さんに連れられた玄武隊の残りメンバーが入ってきた。
「楊さん。どうして、教えてくれなかったのです?」
「ごめん、白龍君。救助はすでに終わっているのが分かったのは、君が飛び出していった後なのよ。途中ですれ違う時に気が付くと思っていたのだけど……」
「わりい。俺が話しかけちまったものだから、見落としてしまったようだな」
振り返ると、王が頭を掻いていた。
「白龍君の動きを見ていると、気が付かないで《玄武》に到着してしまったようだから。このままだと、妙な誤解をして心の傷になりかねないと思って急遽呼び戻したのよ」
「しかし、いったいどうやって助かったのです? キャビンには大穴が開いていたし」
「あの穴は私が開けました」
声の方を振り向くと、柳 魅音がGシートの上で起き上がっていた。
「レーザーで、キャビンに脱出口を空けたのです」
「でも、そんな事をしたらキャビンの空気が一気に抜けて……」
「その前に、皆さんのGシートの保護カバーを閉めてもらったのです」
「え?」
「あ! 保護カバーって知らないですね。この船のGシートについている機能です」
それはさっき調べたけど……
「私が最初に機体を落とされてキャビンに戻った時、皆さんの様子を見て妙に思ったのですよ。皆さんGシートの上で無防備な状態になっているじゃないですか。こんなところを襲われたりしたら一たまりもありません。何か、オペレーターを保護する機能があるかもしれないと思って、探したら保護カバーがあったのです。さらに調べたら、保護カバーを閉めると完全に密閉されて、Gシートごと脱出カプセルになるのです」
「そんな機能があったの?」
僕は揚さんの方を向いた。
「ごめん。この船も宇宙機も、アーニャの持ってきたデータから作ったばかりなので、私もすべての機能を把握していないのよ」
なるほど。家電を買っても、自分にとって必要のない機能の事は覚えないからね。でも……
「これって救命具ですよね。覚えていないとまずいのでは?」
「確かにそうだけど……救命用の脱出カプセルは別にあるから。まさか、Gシートがそのまま脱出カプセルになるなんて思わなかったわ」
僕は柳 魅音の方へ向き直った。
「じゃあ、それを玄武隊の人達に伝えたの?」
「ええ、こちらの方に……」
柳 魅音は一人の少年を指差した。少年と言っても、僕よりずっと年上。高校生ぐらいだ。
「この人に、保護カバーの閉め方を伝えたのです」
少年が説明を変わった。
「せっかく教えてもらったけど、キャビン内が真っ暗だったので苦労したよ。だけど調べたら、コントローラーに非常灯の機能があることが分かって、その明かりを頼りに、みんなのBMIを切りながら、保護カバーを閉めて回ったんだ」
だから、馬 美玲のリンクが急に切れたのか。
柳 魅音が説明を続けた。
「その後はレーザーでキャビンまでの穴を空けて、マニピュレーターを差し込んで、Gシートを一つ一つ回収したのです。それを麗華とアーニャさんが交代で《朱雀》に運んでもらいました」
柳 魅音がそう言い終わった時、趙 麗華のGシートの保護カバーがバシュッ! と開く。
中から出てきた彼女の顔は涙で濡れていた。
ふと、僕の方を見て言う。
「なによ、章君。男のくせに、涙なんか流して、格好悪い」
「女だったら、いいのか?」
「女だってよくないわ」
その時、Gシートから起きあがって髪を整えていたアーニャが、持っていた鏡を無言で趙 麗華に見せた。
「こ……これは、目にゴミが入っただけよ」
「奇遇だな。僕もだよ」
「そうなの? 玄武隊の人達が死んだと早とちりして、泣いていたかと思ったわ」
泣いて悪いか!
「あらあら。救助作業しながら、号泣していたのは誰だったかしら?」
「アーニャ! 泣いていたのはアバターであって、本体の私は泣いてないわよ」
いやいや、アバターは本人の感情をそのまま表現するんだから……
ていうか、なんでこの人はこんな強がりを言うんだ?
パン!
揚さんが手を打って注目を集めた。
「はい。喧嘩は《天竜》に帰ってから、ゆっくりやりましょうね。まだ、《青竜》と《白虎》の生存者も探すのだから、休憩が済んだからすぐに行ってもらうわよ」
数分後、僕達は再び宇宙に飛び出した。
しかし、《青竜》は一瞬にして蒸発したらしく、欠片すら残っていなかった。《白虎》は何とか船の形をとどめていたが、キャビンには大穴があいていて、中の空気は一瞬にして抜けてしまったようだ。
一つだけ保護カバーを閉めていたGシートがあり救助できた。
その後、僕達は泣きながら死体を回収することに……
こうして、十二名の仲間を失い、僕達の最初の戦いは終わった。
だが、この戦いは始まりに過ぎなかったのだ。
これから続く、長い戦いの……
アーニャ、趙 麗華、柳 魅音ら三人の手によって、すでに救出されていたのだ。
ちなみに、この三人はまだ機体にリンクしたままGシートで横になっている。まだ、残りの玄武隊の人達を《朱雀》へ運んでいるのだ。
以上の事を、僕は唯一リンクしていなかった王から説明された。
「心配かけてごめんね。章君」
馬 美玲は僕の手を握って詫びた。
「ううん。生きていてよかったよ」
僕がそう言った時、女の子達が機体とのリンクを切った事を告げる電子音が鳴った。
一分ほどで三人とも起き上がるだろう。
三人が起き上がる前に、キャビンの扉が開いて楊さんに連れられた玄武隊の残りメンバーが入ってきた。
「楊さん。どうして、教えてくれなかったのです?」
「ごめん、白龍君。救助はすでに終わっているのが分かったのは、君が飛び出していった後なのよ。途中ですれ違う時に気が付くと思っていたのだけど……」
「わりい。俺が話しかけちまったものだから、見落としてしまったようだな」
振り返ると、王が頭を掻いていた。
「白龍君の動きを見ていると、気が付かないで《玄武》に到着してしまったようだから。このままだと、妙な誤解をして心の傷になりかねないと思って急遽呼び戻したのよ」
「しかし、いったいどうやって助かったのです? キャビンには大穴が開いていたし」
「あの穴は私が開けました」
声の方を振り向くと、柳 魅音がGシートの上で起き上がっていた。
「レーザーで、キャビンに脱出口を空けたのです」
「でも、そんな事をしたらキャビンの空気が一気に抜けて……」
「その前に、皆さんのGシートの保護カバーを閉めてもらったのです」
「え?」
「あ! 保護カバーって知らないですね。この船のGシートについている機能です」
それはさっき調べたけど……
「私が最初に機体を落とされてキャビンに戻った時、皆さんの様子を見て妙に思ったのですよ。皆さんGシートの上で無防備な状態になっているじゃないですか。こんなところを襲われたりしたら一たまりもありません。何か、オペレーターを保護する機能があるかもしれないと思って、探したら保護カバーがあったのです。さらに調べたら、保護カバーを閉めると完全に密閉されて、Gシートごと脱出カプセルになるのです」
「そんな機能があったの?」
僕は揚さんの方を向いた。
「ごめん。この船も宇宙機も、アーニャの持ってきたデータから作ったばかりなので、私もすべての機能を把握していないのよ」
なるほど。家電を買っても、自分にとって必要のない機能の事は覚えないからね。でも……
「これって救命具ですよね。覚えていないとまずいのでは?」
「確かにそうだけど……救命用の脱出カプセルは別にあるから。まさか、Gシートがそのまま脱出カプセルになるなんて思わなかったわ」
僕は柳 魅音の方へ向き直った。
「じゃあ、それを玄武隊の人達に伝えたの?」
「ええ、こちらの方に……」
柳 魅音は一人の少年を指差した。少年と言っても、僕よりずっと年上。高校生ぐらいだ。
「この人に、保護カバーの閉め方を伝えたのです」
少年が説明を変わった。
「せっかく教えてもらったけど、キャビン内が真っ暗だったので苦労したよ。だけど調べたら、コントローラーに非常灯の機能があることが分かって、その明かりを頼りに、みんなのBMIを切りながら、保護カバーを閉めて回ったんだ」
だから、馬 美玲のリンクが急に切れたのか。
柳 魅音が説明を続けた。
「その後はレーザーでキャビンまでの穴を空けて、マニピュレーターを差し込んで、Gシートを一つ一つ回収したのです。それを麗華とアーニャさんが交代で《朱雀》に運んでもらいました」
柳 魅音がそう言い終わった時、趙 麗華のGシートの保護カバーがバシュッ! と開く。
中から出てきた彼女の顔は涙で濡れていた。
ふと、僕の方を見て言う。
「なによ、章君。男のくせに、涙なんか流して、格好悪い」
「女だったら、いいのか?」
「女だってよくないわ」
その時、Gシートから起きあがって髪を整えていたアーニャが、持っていた鏡を無言で趙 麗華に見せた。
「こ……これは、目にゴミが入っただけよ」
「奇遇だな。僕もだよ」
「そうなの? 玄武隊の人達が死んだと早とちりして、泣いていたかと思ったわ」
泣いて悪いか!
「あらあら。救助作業しながら、号泣していたのは誰だったかしら?」
「アーニャ! 泣いていたのはアバターであって、本体の私は泣いてないわよ」
いやいや、アバターは本人の感情をそのまま表現するんだから……
ていうか、なんでこの人はこんな強がりを言うんだ?
パン!
揚さんが手を打って注目を集めた。
「はい。喧嘩は《天竜》に帰ってから、ゆっくりやりましょうね。まだ、《青竜》と《白虎》の生存者も探すのだから、休憩が済んだからすぐに行ってもらうわよ」
数分後、僕達は再び宇宙に飛び出した。
しかし、《青竜》は一瞬にして蒸発したらしく、欠片すら残っていなかった。《白虎》は何とか船の形をとどめていたが、キャビンには大穴があいていて、中の空気は一瞬にして抜けてしまったようだ。
一つだけ保護カバーを閉めていたGシートがあり救助できた。
その後、僕達は泣きながら死体を回収することに……
こうして、十二名の仲間を失い、僕達の最初の戦いは終わった。
だが、この戦いは始まりに過ぎなかったのだ。
これから続く、長い戦いの……
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