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第十一章

消えたGシート(天竜過去編)

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 これで三機目の宇宙機だな。僕はフル加速で《玄武》へ向っていく。
 中間地点で反転。減速を始めた時、僕の横にワンのアバターが現れた。

「章。奴らは片付けた。しかし、俺の機体も相打ちでやられた。《朱雀》に予備機は残っているか?」
「四機残っているよ」
「分かった。じゃあ俺も戻って予備機を起動させてくる……と……再接続に三分かかるんだったな? あれ何とかならないか? 予備のシートをからリンクするとか」

 考える事同じだな……

「無理。予備のシートから繋いでも、コンピューターに見破られる」
「なんで、分かる?」
「さっき、僕がやったから」
「なんだ、お前もやっていたのか」
「しかも、楊さんに見つかって怒られた。死んだら悲しむ人がいるんだぞって」
「そっか。俺が死んでも、悲しむ奴なんかいないけどな」
「いるよ」
「は?」
「君の事を、好きな女の子がいるらしい」
「バカ言うな。こんなデブを好きになる女なんているわけないだろう」

 世の中には、デブ専という人もいるのだよ。
 
「しょうがない。このまま戻るわ」

 王のアバターが消えた。

 程なくして僕は《玄武》に辿り着く。
 《朱雀》と同じデータから出力されたのだから、船体の形状は同じのはず。
 だけど、もう別の船じゃないか? て思えるぐらいに壊れていた。
 シリンダー状船体の後部は原型を留めていたけど、船首はほぼ消滅していた。
 操縦室のあるあたりは完全に無くなっている。
 レーザーを浴びて溶けてしまった……いや、真空では液体は存在できないんだっけ?
 船首部分は一瞬にして気体になってしまったのだろう。
 船体に近づいてみると、キャビンに続く通路がむき出しになっている。
 しかし、入り口の扉は辛うじて持ち堪えたようだ。
 機体を扉に前に静止させた。
 通信を試みるが応答がない。
 扉に開いている小さな穴から、ファイバースコープを差し込んでみた。
 
 なんだ? これは……

 Gシートが無い! どういう事だ?

 気圧もほぼゼロパスカル。空気は完全に抜けている。
 Gシートのあった当たりに、大きな穴が開いていた。
 穴は宇宙空間まで続いている。
 爆発かなにかでこんな穴が開いて、Gシートごと外に吸い出されたのだろうか?

 なんてこった。もっと早くくれば間に合ったかもしれないのに……

 三分制限が恨めしい……

「白龍君」

 通信機から楊さんの声。

「リンクを切って《朱雀》へ戻って。機体の回収は後でいいわ」
「楊さん? 何かあったのですか?」
「説明は後」

 僕は機体とのリンクを切った。

 五感が回復したとき、僕はGシートの上で涙を流していた。

「章君! どうしたの? どっか痛いの」

 瞼を開くと、マー 美玲メイリンが心配そうに僕を覗きこんでいる。

「助けられなかった」
「誰を?」
「《玄武》の人達を……馬 美玲を助けられ………………え?」

 なんで? 《朱雀》のキャビンに馬 美玲が?
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