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第十一章

英雄(天竜過去編)

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 予備機にリンクすると、僕はまた宇宙空間にいた。
 
「よう! チャン。やっと来たな」

 声の方を向くと、ワンのアバターが手を振っている。王の声に気が付いた他の朱雀隊の女の子達も、僕の方をふり向いて手を振った。

「みんな! 英雄が帰ってきたぞ」

 周囲からどよめきが聞こえる。
 今、気がついたけど、僕はいつの間にか、朱雀隊だけでなく青龍隊、白虎隊、玄武隊の全メンバー十九人のアバターに取り囲まれ拍手されていた。
 なるほど、さっきまで通信を制限していたから、遠くにいる部隊のアバターとは接触できなかったけど、制限を解除したらこういう事もできるのか。

 て、感心している場合じゃない。英雄って誰?

「章。何きょろきょろしているんだよ。おまえのことだよ」
「え? 僕がなんで?」
「レーザー機を、撃破しただろ」
「だってあれは……みんなで協力したから……僕一人の手柄なんかじゃ……」

 突然、チョウ 麗華リーホワにヘッドロックをかけられた。仮想現実バーチャルリアリティなので痛みはないけど、なんのつもりだ?

「殊勝な心がけね。でもね、章君。戦場では英雄がいた方が、士気が上がるのよ。潔く、英雄に祭り上げられなさい」
「そんなあ。だったら、趙さんが英雄になればいいでしょ」
「う……まあ、私が英雄になるのは当然のことかもしれないけど、諸般の事情で今回は君に譲ってあげる」

 なんなんだ? 諸般の事情って……

 ボワーン!

 突然、銅鑼の音が鳴った。
 いつの間にか、銅鑼を持っているヤンさんが僕達の頭上にいた。いや、宇宙空間に上下はないけど。

「はい。静粛に。英雄を称えたいのは分かるけど、作戦開始まで時間がないわ。みんな所定の位置について」

 全員散って行った。

「章君」

 リーウ 魅音ミオンに呼び止められた。

「なに? わ!」

 急に彼女が僕の腕にしがみ付いてきた。

「お願い! しばらくこうさせていて! これ以上みんなに迷惑かけられないから」
「なんの話!?」

 ていうか、これでは僕が迷惑なんだけど……これじゃあ今度は僕が趙 麗華に嫉妬されて……

 うわわ! 趙 麗華がこっち見ている……コワい……

「あら? 魅音、英雄君の事が好きになったの?」

 あれ? そんな嫉妬している様子はないな。

「そうなの。章君って可愛いし……」
「ふうん。そう」

 趙 麗華が僕の耳元に口を寄せた。

「上手くやりなさいよ。魅音は私の大切な友達だから、泣かせたら許さないわよ」

 え? 嫉妬しないの? なんで?

「ごめんね。章君。迷惑かけて。《イサナ》の彼女に誤解されるような事になったら、私からちゃんと説明するから許してね」

 いや、ミクちゃんとは、まだそんな仲になれていないのだけど……

「いや……その……どういう事なの? 柳さん」
「麗華は、私と王さんの事を誤解しているのよ」

 それは知っているけど……

「私ね、王さんは良い人だと思うけど、好みの人じゃないの。王さんも別に私に対して恋愛感情を持っているわけじゃないから」
「そうなの? でも……柳さんと僕がこういう事をすると……」
「大丈夫。章君は麗華の好みじゃないから」
「そうなの」

 べ……別に、好かれたいなんて思ってないからな。

「麗華は、太った人が好みなの」

 太った人? え? え? え? という事は……趙 麗華は同性愛レズビアンなんかじゃなくて……デブ専?

「じゃあ、彼女は王が好きなの?」

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