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第十一章

キャビン2(天竜過去編)

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「白龍君」

 考えこんでいると、アーニャが顔を近づけてきた。

「わあ! 近い! 近い!」
「ごめんね。ちょっと確認したい事があったの」
「え?」
「私ね。カプセルで脱出した後、冷凍睡眠コールドスリープ状態に入ったの。知っているかしら? 冷凍睡眠コールドスリープ中は夢も見ないって」

 聞いた事はあるな。

「ああ。俺も一度冷凍睡眠コールドスリープした事があるが、夢なんか見なかったな」

 僕の代わりに王が答える。

「そう。私も夢は見ないと思っていた。でも、カプセルの中で眠ってしばらくしてから、自分が暗闇の中を漂っている事に気が付いたの。これは夢なのだなって思ったけど、一向に目覚める様子はない」
「幽体離脱?」

 と僕が言うと、アーニャは首を横にふった。

「もしそうなら、私はカプセル外の宇宙空間に出られたはず。でも、周囲には星もなかった。ただ、暗闇があるだけだったの。そんな暗闇の中でどのくらい過ごしたのか分からない。何年も経ったのか? あるいは一瞬だったのか? 時間の感覚がマヒしていたみたいだった。ある時、暗闇の向こうに小さな光が見えた」
「光?」
「ええ。私はその光に向かって行ったの。光はだんだん大きくなっていった。そしたら、その光の中に男の子がいるのが見えたの」

 なんだって!? それじゃあ!

「私は『助けて』と叫びながら、男の子にしがみ付いたわ。そして気がついたら《天竜》の医療室にいた。その時の男の子の顔が、白龍君にそっくりだった」

 やっぱり。

 僕はアーニャに自分の見た夢の話をした。

「そんな不思議な事があるのか?」

 王はなぜか、嬉しそうな顔をしている。

「いや……俺そういう話が好きでな。そのせいでオカルトオタクと言われているけど……」
「シンクロニシティね」

 その声は背後から。

 振り向くと楊さんがそこにいた。 

「楊さん。いつから聞いていたのです?」
「かなり、最初から。白龍君とアーニャの間にあったのはシンクロニシティという現象だと思う。今は詳しいことを言っている時間はないけど」

 楊さんは閉っているカーテンを指差した。

「ところで、この向こうで、二人は何をしているの?」
「その……」

 僕は経緯を話した。

「なるほど」

 楊さんは少し考えてから、王の方を向く。

「王君。あなた、騒ぎが起きる前、二人との関係はどうだったの?」
「どうって? 普通でしたよ」
「配給食を二人に届けていた時のあなたへの態度はどうでした?」
「二人というより、いつも柳 魅音だけが配給を二人分受け取っていました。趙 麗華はさっぱり顔を出さないで、騒ぎのあった時初めて顔を見ました」
「柳 魅音が配給を受け取る時の態度はどうでした?」
「どうって? とても、良かったですよ。いつもにっこりと微笑んで、俺に向かって『いつもありがとうございます』って」
「そうですか。だいたい分かりました」

 楊さんはカーテンの隙間から呼びかけた。

「趙麗華さん。楊です。入りますよ」

 楊さんがカーテンの向こうに行ってから、数分後、趙 麗華自らカーテンを開いた。

 楊さん何を話したのだろう?

「勘違いしないでよ。《天竜》に戻るまでだからね。それまで一緒に戦ってあげるけど……」

 そう言っている趙麗華の顔は引きつっていた。

 それからしばらくして《朱雀》は戦闘予定宙域に到着した。
 僕達は全員、BMIを装着しして宇宙機とシンクロする。
 さっきまで、キャビンの中にいた僕はシンクロすると同時に宇宙空間にいた。
 もちろん、これは宇宙機から送られてきたデータを元にした仮想現実バーチャルリアリティで、僕の肉体は今でも 朱雀のキャビン内にいる。
 周囲を見回すと、王、趙、柳、アーニャの姿があった。
 本来ならそこに球体宇宙機があるはずなのだが、ここでは操縦者の姿がアバターとして表示されているのだ。

 姿は見えないが、楊さんの声が聞こえてきた。

「それでは皆さん。作戦空域に向かって下さい」

 僕達は一斉に敵に向かって加速を開始した。
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