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第十一章
ブリーフィング(天竜過去編)
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「偵察隊からの報告によると、こっちへ向かってくる宇宙機の数は四十。その中の三十五は、君達が使っている宇宙機と同じタイプです。ただし、操作しているのは人工知能」
楊さんが作戦の説明を始めたのは、《朱雀》が発進してから二十分後の事。その説明が始まるまでの二十分の間、王と趙が喧嘩して、僕と眼鏡っ娘……柳 魅音が宥めるなどという事をやっていた。アーニャはその間、楊さんと操縦室に詰めていて、僕と柳だけでは抑えきれなくて、いよいよ殴り合いに発展しそうになったとき、ようやく楊さんが操縦室から出てきてくれた。
いったい喧嘩の原因は何だったのか?
柳魅音の話では、王は《天竜》内で配給食糧を届ける仕事をしていたらしい。
それが趙麗華の部屋に届けに来た時、いくらノックをしても返事すらなかったという。
仕方なくドアを開けたら、彼女は着替え中。
ノックをした。いやしていない。返事をした。いやしていない。これは事故だ。いや、着替え中と分かっていて覗いた。と、口論になったのだ。
どっちが悪いか正直分からないけど、この先大丈夫かな?
「楊さん。質問いいですか?」
王が手を上げた。
「王君どうぞ」
「俺達は宇宙機を操作するのは初めてです。宇宙機の性能が同じなのに、人工知能の操作する機体に勝てるのですか?」
「あら? 怖いの? 図体が大きいのに、気が小さいのね」
楊さんが答える前に、趙が揶揄してきて……本当、やめてほしいな。
「なんだと!? このアマ」
「やめなさい!」
楊さんに一喝されて、二人は押し黙る。
「王君。いい質問です。君の言う通り、素人がいきなり武器を渡されても、人工知能には勝てません。普通なら……」
普通なら?
「しかし、君達の脳にはブレインレターでこの宇宙機の操縦法を入力してあります。これは単なるマニュアルではありません。かつて、この宇宙機で戦ったエースパイロットの記憶です」
エースパイロット?
「私の父です」
アーニャはおずおずと言った。
「もちろん、私はコピー人間なので本来の親はいません。私のオリジナルの父が、エースパイロットだったのです。その父の記憶を、皆さんに受け継いでもらいました。だから、あなた達は人工知能なんかには負けません」
柳 魅音が手を上げた。
「レムも、アーニャさんのお父さんの記憶を解析して、対策を立てているのではないでしょうか?」
「それはありません」
「なぜ?」
「私達が電脳空間から出力された後、電脳空間に残っていた私達のデータは、レムに利用されない様にすべて削除しました」
その回答で、王も柳も納得したようだ。
楊さんが説明を再開した。
「問題は、四十機の中の五機です」
楊さん示したディスプレイには、シリンダー状の宇宙機が映っていた。
「この宇宙機は大出力のグレーザー砲が一門ある以外は、自衛用の小火器すらありません。グレーザー砲も核を利用しているため、一回使うと機体自体が蒸発してしまう武器です。ただし、その有効射程距離は五万キロ。私達の任務はこの五機を破壊する事。絶対にこの五機を《天竜》から五万キロ以内に近づけてはならない。五万キロ以内入られたら、私達は帰るところを失います。逆に言うなら、こいつら以外の三十五機は見逃しても構わない。と言っても、向こうがこっちを見逃してくれないでしょうね」
そこで楊さんは、コンローラーを操作した。
ディスプレイにタウ・セチの恒星系図が表示される。
その外惑星軌道の辺りが拡大された。
敵の宇宙機編隊が表示される。
「現在敵は、十五機の宇宙機を前衛にして、その後方六万キロにグレーザー砲機を含む後衛二十五機がいます。おそらく敵の作戦は、前衛十五機で《天竜》に先制攻撃をかけて、その間に、後衛部隊が接近しグレーザー砲で《天竜》を攻撃すると言ったものと思われます。その時になって、《天竜》から迎撃部隊が出ても、後衛を守っている二十機に行く手を阻まれます」
しかし、すでに《天竜》から迎撃部隊は発進している。
「私達の作戦は、前衛をやり過ごして後衛部隊を攻撃する事です。やり過ごした前衛は《天竜》の直掩機に任せます」
それから三十分ほど、細かい作戦の説明が続いた。できれば、作戦開始までずっと説明を続けていて欲しかった。説明時間が続いていれば、王と柳の喧嘩に巻き込まれないで済むのだから……
楊さんが作戦の説明を始めたのは、《朱雀》が発進してから二十分後の事。その説明が始まるまでの二十分の間、王と趙が喧嘩して、僕と眼鏡っ娘……柳 魅音が宥めるなどという事をやっていた。アーニャはその間、楊さんと操縦室に詰めていて、僕と柳だけでは抑えきれなくて、いよいよ殴り合いに発展しそうになったとき、ようやく楊さんが操縦室から出てきてくれた。
いったい喧嘩の原因は何だったのか?
柳魅音の話では、王は《天竜》内で配給食糧を届ける仕事をしていたらしい。
それが趙麗華の部屋に届けに来た時、いくらノックをしても返事すらなかったという。
仕方なくドアを開けたら、彼女は着替え中。
ノックをした。いやしていない。返事をした。いやしていない。これは事故だ。いや、着替え中と分かっていて覗いた。と、口論になったのだ。
どっちが悪いか正直分からないけど、この先大丈夫かな?
「楊さん。質問いいですか?」
王が手を上げた。
「王君どうぞ」
「俺達は宇宙機を操作するのは初めてです。宇宙機の性能が同じなのに、人工知能の操作する機体に勝てるのですか?」
「あら? 怖いの? 図体が大きいのに、気が小さいのね」
楊さんが答える前に、趙が揶揄してきて……本当、やめてほしいな。
「なんだと!? このアマ」
「やめなさい!」
楊さんに一喝されて、二人は押し黙る。
「王君。いい質問です。君の言う通り、素人がいきなり武器を渡されても、人工知能には勝てません。普通なら……」
普通なら?
「しかし、君達の脳にはブレインレターでこの宇宙機の操縦法を入力してあります。これは単なるマニュアルではありません。かつて、この宇宙機で戦ったエースパイロットの記憶です」
エースパイロット?
「私の父です」
アーニャはおずおずと言った。
「もちろん、私はコピー人間なので本来の親はいません。私のオリジナルの父が、エースパイロットだったのです。その父の記憶を、皆さんに受け継いでもらいました。だから、あなた達は人工知能なんかには負けません」
柳 魅音が手を上げた。
「レムも、アーニャさんのお父さんの記憶を解析して、対策を立てているのではないでしょうか?」
「それはありません」
「なぜ?」
「私達が電脳空間から出力された後、電脳空間に残っていた私達のデータは、レムに利用されない様にすべて削除しました」
その回答で、王も柳も納得したようだ。
楊さんが説明を再開した。
「問題は、四十機の中の五機です」
楊さん示したディスプレイには、シリンダー状の宇宙機が映っていた。
「この宇宙機は大出力のグレーザー砲が一門ある以外は、自衛用の小火器すらありません。グレーザー砲も核を利用しているため、一回使うと機体自体が蒸発してしまう武器です。ただし、その有効射程距離は五万キロ。私達の任務はこの五機を破壊する事。絶対にこの五機を《天竜》から五万キロ以内に近づけてはならない。五万キロ以内入られたら、私達は帰るところを失います。逆に言うなら、こいつら以外の三十五機は見逃しても構わない。と言っても、向こうがこっちを見逃してくれないでしょうね」
そこで楊さんは、コンローラーを操作した。
ディスプレイにタウ・セチの恒星系図が表示される。
その外惑星軌道の辺りが拡大された。
敵の宇宙機編隊が表示される。
「現在敵は、十五機の宇宙機を前衛にして、その後方六万キロにグレーザー砲機を含む後衛二十五機がいます。おそらく敵の作戦は、前衛十五機で《天竜》に先制攻撃をかけて、その間に、後衛部隊が接近しグレーザー砲で《天竜》を攻撃すると言ったものと思われます。その時になって、《天竜》から迎撃部隊が出ても、後衛を守っている二十機に行く手を阻まれます」
しかし、すでに《天竜》から迎撃部隊は発進している。
「私達の作戦は、前衛をやり過ごして後衛部隊を攻撃する事です。やり過ごした前衛は《天竜》の直掩機に任せます」
それから三十分ほど、細かい作戦の説明が続いた。できれば、作戦開始までずっと説明を続けていて欲しかった。説明時間が続いていれば、王と柳の喧嘩に巻き込まれないで済むのだから……
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