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第十一章

アーニャ・マレンコフ2(天竜過去編)

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「マトリョーシカですって!? マトリョーシカ号は無事だったの?」

 楊さんの質問に、アーニャは答えず、ただカッと目を見開いて上を上げていた。

「どうしたの? アーニャさん」

 アーニャは大きく震えだした。

「楊さん。アーニャさんの様子おかしいよ。医者を呼んだ方が……」
「そうね。医務室でも、彼女を探しているはずだから……」

 楊さんが上着のポケットから携帯を取り出した。
 突然、アーニャがその手を掴む。

「え?」
「奴が来る!」
「大丈夫よ。アーニャさん。ここは……」
「奴は、この船を……《天竜》を狙っている! 私は、それを伝えるため、ここまで来た」
「どういう事?」
「この船は……タウ・セチに入ったのね?」
「そうよ。昨夜ヘリオポーズを越えたばかりだけど……」
「奴は、地球の船がタウ・セチに近づいている事に気が付いていた。このまま近づいたら、奴はこの船を破壊する」
「なんですって?」
「私たちの仲間は、それを阻止するためにプリンターで肉体を得た。だけど、搭載艇を奪えないうちに、仲間はどんどん殺されて、最後に残った仲間が、私をカプセルに入れて送り出した。この船に、危機を伝えるために……」
「いったい、マトリョーシカで何があったの?」

 アーニャは頭を抱える。

「分からない! 私達、電脳空間サイバースペースで普通に暮らしていた。でも、突然、奴が現れて、みんなを飲み込んで……」
電脳空間サイバースペース……飲み込む……まさか?」
「楊さん。何か分かったの?」
「人格融合かもしれない」
「人格融合?」
「昔の電脳空間サイバースペースでは、たまにあったの。電脳空間サイバースペースで人格同士が融合してしまう事故が。たいていは二人か三人が融合する程度だけど、時には暴走して際限なく人格を融合していく事があるの」
「どうなるの? 人格が融合すると?」
「白龍君。多重人格という病気を知ってるかしら?」
「うん。一人の人間の中に多くの人の心ができちゃうとか……」
「まあ、そんなところね。一人の人間の脳に、何人もの人格が発生してしまう病気。これを治療することによって、脳内の複数の人格を融合していくの。これと同じことが電脳空間サイバースペースの中でも起きてしまうのよ」
「ええ!? 電脳空間サイバースペースの中で?」
「私達が使っている電脳空間サイバースペースの中では、何千人もの疑似人格が生活しているわね。これってコンピューターを人の脳に見立てるなら、多重人格の状態なのよ。初期の電脳空間サイバースペースでは、この人格同士が融合してしまう事故があったの。今は安全対策が取られているから、そんな事故は起きないのだけど……」
「でも、アーニャの船では、その……人格融合が起きてしまったのでしょ?」
「まあ、本当に人格融合か分からないけど、アーニャの話を聞く限りじゃその可能性が高い。そうだとするなら、融合されて生まれた統合人格があるはずだわ。レムというのがその統合人格かもね」
「でも、アーニャはどうして助かったの?」
「融合を免れた人格もいたのでしょう。とにかく、この事はすぐに船長に伝えないと」
 
 それからしばらくして、《天竜》の会議室では対策会議が開かれる事になった。
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