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第十一章

太陽圏(ヘリオポーズ)祭 (天竜過去編)

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「あれは三十年前。《天竜》がタウ・セチ恒星系の太陽圏ヘリオスフィアを通過した直後の事。《天竜》のみんなは、太陽圏ヘリオポーズ祭に浮かれていた。そんな時に、救難信号をキャッチしたのだよ」

 病床にいる男性は、過去の経緯を僕達に語り始めた。

(チャン 白龍パイロン視点)

 観測ドームから見える光景は、一面の星空。大気がないから、瞬く事もない。
 さっきからそんな星空を見つめているが、僕の目当ての光は見あたらない。
 懐から写真を取り出して眺めた。
 その写真の中で、浴衣姿の可愛い女の子が微笑んでいる。
 
 綾小路あやのこうじ 未来みくちゃん。今頃どうしているのかな?

 いくら遅れたとは言っても、《イサナ》だって、そろそろ減速を始めるはず。プラズマコア対消滅エンジンの輝きが見えたっていいと思うけどなあ。いや、光は届いているのかもしれない。でも、無数の星の光に紛れているのかな?

 宇宙は広すぎるんだよ。

「はあ。無限に広がる大宇宙か」
 
 何気ない呟きを、隣で星空を眺めていたお姉さんは聞き逃してくれなかった。

「どうした? 白龍パイロン君」
「な……なんでもないです。……太陽は、どっちかなと……」

  馬鹿だった。闇雲に空を探すのではなくて、太陽を探せばよかったんだ。《イサナ》はそっちにいるはずだから。

「太陽なら、あれよ」

 このお姉さん、ヤン 美雨メイユイが指さす先には、小さい黄色い星があった。
 十二光年先にある、僕らの故郷。

 太陽……しかし、近くに《イサナ》らしき光は見えない。また光が届かないのかな?

「僕達、あんな小さな星から来たのですね」
「ホームシック?」
「違います」
「ん? これは」
「あ!」 と言う間もなく、僕が持っていた写真を揚さんに取られてしまった。

「未来ちゃんの写真か。もう、あきらめたらどう? 君はふられたのだよ」
「ま……まだ、ふられたと決まったわけじゃ」
「いやいや。『お友達でいましょう』は、『お断りします』と同じ意味だよ。君はふられたのだ」
「自分だって、逆ナンしようとしてふられたくせに」
 
 あ! しまった!

 と、思う間もなく、揚さんにヘッドロックをかけられてしまった。

「私の傷を抉るとはいい度胸だ」
「先に僕の傷を抉ったくせに」

 揚さんのヘッドロックはますます強くなる。

 いや、マジに痛い。手加減してよ!

「やめてよ! 揚さん! 痛いよ!」
「どうだ。まいったか」
「やめて! ここは電脳空間サイバースペースじゃないんだよ!」

 楊さんの手が緩んだ。やっぱり、肉体を持った事を忘れていたな。

「ゴメン、ゴメン。今の私達って、生身だったのよね」
「もう……」

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