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第十章

エラ ナンバー7

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「芽衣ちゃん! 大丈夫か!?」
「腕を掠めただけです。心配ありません」

 桜色のロボットスーツの二の腕に、擦ったような痕があったが、貫通はしていない。
 それを確認すると、僕はショットガンをドローンに向けた。
 だが、僕が撃つよりも先に、ドローンは艦橋ブリッジの影に隠れる。
 空中に上がって追いかけたが、ドローンは巧みに船体を盾にしてこっちの攻撃を躱していた。

 こうなったら……

「芽衣ちゃん。こっちへ」
「はい?」
 
 船内へ入る扉から、僕たちは《マカロフ》船内に侵入し扉を閉めた。

「ドローンでは、扉を開けて船内まで追いかけてくることはできない」
「なるほど」
「このまま、船内からエラの足元へ移動しよう」
「はい」

 バイザーのディスプレーに船内マップを表示した。
 三十年前に鹵獲した同型艦のものだが、《マカロフ》もほぼ同じ構造をしている。

「ブースト!」

 途中で出会う兵士を殴り飛ばしながら、僕らは進んだ。
 ただし女性兵士は見逃……

「うりゃあ! ブースト!」

 芽衣ちゃんが、見逃そうとしなかった。

「北村さん」

 バイザーに隠れて分からないが、芽衣ちゃんがひきつった笑みを浮かべているような気がする。

「北村さんが、女の子を殴りたくないという気持ちは分かりました。だから、女性兵士は、私が代わりに殴り飛ばしますね」
「そ……そう……ありがとう」

 なんか、僕に殴り飛ばされた男性兵士より、芽衣ちゃんに殴り飛ばされた女性兵士の方が、重傷を負っているような気がするのだが……
 
 ミールから通信が入ったのは、行程半ばを過ぎて、船内食堂のようなところに入った時。幸い、食事をしている兵士は一人もいなかった。

『カイトさん。エラが船内に入りました』
「え? 奴も船内に?」
「北村さん! 拙いです! 船内でエラ・アレンスキーと遭遇としては」

 芽衣ちゃんそう言った時、反対側の扉が開き、僕たちは青エラと鉢合わせになった。

「見つけた」

 そう言うなり、エラはプラズマボールを放ってくる。
 咄嗟に、僕は手近にあったテーブルをエラに向かって投げつけた。
 空中でブラズマボールとテーブルが衝突して爆発する。
 爆炎が晴れてから現れたエラは、猟奇的な笑みを僕たちに向けていた。

「さっきはナンバー6が、世話になったな」

 どうやら、さっき倒した赤エラがナンバー6らしい。最初に僕らが遭遇したのがナンバー5。昔ダモンさんが倒したエラが8。

「あんたのナンバーは幾つだ?」
 
 僕の問いにエラは律儀に答えた。

「私はナンバー7。幸運の7だよ」

 問答無用でブラズマボールを放ってくるかと思ったが、あんがいこいつもお喋り好きだな。

「おまえ達、よく私の死角に気が付いたな」
「あんたの能力が高周波磁場だと分かれば、そんな事はすぐに分かる。あんたこそ、自分に死角がある事は知っていたのか?」
「以前から、自分の頭上が危ないとという事は、本能的に知っていた。理由は分からなかったが、そこにいる女……」

 エラは芽衣ちゃんを指差す。

「モリタ・メイと言ったな。お前が電磁誘導について教えてくれたおかげで、その理由がようやく分かった。回転する磁場の中心軸だけは、銃弾を防げないという事を。教えてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。それでは私達は先を急ぎますので……」
「同じ手は二度も食わんぞ。モリタ・メイ」
「クッ……シンクロニシティというのは、本当なのですね」
「本当さ。だから、ドームを攻めた夜、お前におちょくられた事は覚えている。いや、知っているというべきかな。もっとも、ここで同じ手は使えまい」

 その事にも気が付いていたか。ここでは天井が邪魔で、死角を突けないということも……

「お前達の立派なスーツが、装甲で覆われたこの天井を、一瞬でぶち抜けるだけの力を持っているというなら話は別だが、さすがにそれは無理だろう」

 無理だな。

「ナンバー6が倒されたビジョンが伝わってきた時、なんとかお前達を船内に誘い込めないものかと考えていたのだが、ヤナのドローンに追い立てられて、お前たちの方から船内に逃げ込んでくれた。まさに私は幸運だったよ」

 そう言ってエラは、輝きを帯びた掌を僕たちに向けた。

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