上 下
287 / 848
第十章

急速浮上

しおりを挟む
 潜望鏡が敵艦隊の姿を捉えたのは、走り始めて十分後のこと。
 しかし、木造帆船ばかりで《マカロフ》の姿は見えない。木造帆船の群れに遮られているようだ。

「姿が見えなくても平気ね。スクリュー音は、ばっちり聞こえているね」

 レイホーが僕の方を振り向く。

「魚雷を撃ったらすぐに浮上するね。お兄さんと芽衣ちゃんは、外で飛び出す準備をしておくね」
「分かった。ありがとう。レイホー」

 僕と芽衣ちゃんは、ロボットスーツのバイザーを閉じる。

「ミール。ミク。僕らが攪乱するから、本体の方を頼むよ」
「任せて下さい。カイトさん」「任せて! お兄ちゃん」

 レイホーが、正面モニター向き直る。

「ロンロン。魚雷発射管一番二番三番オープン」
『了解。四番はいかがします?』
「四番は、後ろから着いてくる痴漢退治に残しておくね」

 痴漢!?

「さっきの水中ドローンか。もう追いついて来た?」
「さっきから、スクリュー音がどんどん近づいてくるね。片付けておかないと厄介ね」
「しかし、後ろに、魚雷は撃てないだろう?」
「お兄さん、大丈夫。方法はあるね。そのために船を軽くしたいから、お兄さんと、芽衣ちゃんが飛び出した後でやるね」

 続いてレイホーは、ミールとミクに視線を向ける。

「あんた達は席について、しっかりシートベルト絞めるね」
「はい……ええっと……ミクちゃん、このシートベルトどうやるのですか?」
「これはね」

 ミクが手伝って、ミールのシートベルトを締める。

「二人とも、目を回さないようにね」

 レイホー、何をやる気だ?

「ロンロン。魚雷発射用意」
『了解しました。目標はすべて《マカロフ》でよろしいですね?』
「当然。雑魚の木造帆船に魚雷なんてもったいないね」
「レイホーさん。この魚雷で《マカロフ》を沈められないの?」

 ミクが不思議そうな顔で質問した。

「ミクちゃん、それは無理。こんな小型魚雷じゃ《マカロフ》の装甲は破れないね。でも、向こうにはそれが分からないから、魚雷がくれば回避運動ぐらいはしてくれる。その隙に浮上して、お兄さんと芽衣ちゃんが出撃するね」
「そっか。じゃあ、《マカロフ》はあたしとミールちゃんで、やっつけるしかないんだね」
「ミク。言っておくが、沈めなくていいぞ。レーザー砲とアスロックランチャーさえ潰せばいいんだから」
「うん。分かった。みんな壊しちゃえばいいのね」
「だから……」

 人の話を聞け! と、僕が言いかけた時、レイホーの号令が轟いた。

「魚雷発射! 《水龍》急速浮上!」

 いかん! もう出撃だ。

「芽衣ちゃん行くよ」
「はい」
「イナーシャルコントロール0G」

 重力を打ち消して、僕と芽衣ちゃんは司令塔を登っていった。
 ハッチの下でしばらく待機。
 水面から出たら、下からの操作でハッチを開く事になっていた。
 その待ち時間数秒が一時間に感じられる。
 ロボットスーツの通信機から、レイホーの声が聞こえてきた。

『水面に出た! ハッチ開くね!』

 ハッチが開いた。

 木造帆船で埋め尽くされた水面に、僕と芽衣ちゃんは飛び出していく。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

マスターブルー~完全版~

しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。 お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。 ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、 兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、 反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と 空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。

処理中です...