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第十章
水中ドローン
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「未確認潜水物体だって? 向こうも、潜水艦を出してきたのか?」
僕の問いかけに、ロンロンは少し間を置いて答える。
『いえ。どうやら、水中ドローンの様です』
水中ドローン。潜水艦ではなかったわけだが、これって安心すべきか?
『レイホー様。いかがいたします?』
「ロンロン。やり過ごせる確率は?」
『八十五%です』
「では、やり過ごすね」
『了解しました』
ミールが不思議そうな顔で質問する。
「やっつけないのですか?」
「やっつけるのは簡単。でも、奴の目的は私達を見つける事。こっちから攻撃して、ワザワザ居場所を教えてやることないね」
「でも、見つかっても、やっつけてしまえば……」
説明に困ったレイホーに変わって、僕が説明を引き継いだ。
「ミール。あのドローンは、君が使っている分身のような物と考えてくれ」
「はあ?」
「君もよく分身を偵察に使うだろ。その分身が隠れていた敵に攻撃されてやられたとしたらどうする? 分身がやられても、ミール本人は無事で、隠れていた敵も見つけたわけだが」
「もちろん、他の分身を総動員して、隠れ場所から出てきた敵を攻撃します。ああ! あのドローンを攻撃したら、それを操っている者に、こっちの居場所がばれてしまうわけですね」
「そう。その後でアスロックラ……対潜水艦兵器で攻撃されてしまうんだ」
そんな事を話しているうちに、《水龍》は運河の底に着底した。そのままポンプを使って、船体に泥を被せて偽装する。
作業が済むと、レイホーが振り向いた。
「みんな、これから敵をやり過ごすね。その間、音を出しちゃだめね」
潜水艦戦を描いた映画や漫画でよくあるシーンだな。
しかし、これってどの程度の音がダメなんだろう?
息ぐらいはいいとして、クシャミだと見つかるだろうか?
スプーンの落ちた音で、敵に発見されたなんて映画で見たけど……
「ああ! でも、この部屋はかなり防音されているから、よほど大きな音じゃなきゃ大丈夫ね」
そっか。スプーンを落としたぐらいなら平気なんだな。
「だから、みんな。オナラは我慢しなくていいからね」
ブホ! レイホー! 可愛い顔して、なんつう事言うんだ! この娘は……
「レイホーさん! そういう事は」
芽衣ちゃんがレイホーに詰め寄る。
「あれ? どうしたの? 芽衣ちゃん。真っ赤な顔して? オナラなら我慢しなくてもいいよ。敵に聞かれないから」
「敵に聞かれなくても、北村さんに聞かれちゃうでしょ!」
芽衣ちゃん! ここでそんな大声は……
「大丈夫、大丈夫。美男美女はオナラしないというのは迷信だから」
「人前でやるのが、問題なのです!」
トントン。僕は二人の肩を叩いた。
芽衣ちゃんとレイホーが振り向く。
「どうしました?」「どうしたね?」
僕は人差し指を立てて鼻に当てた。
「しー。敵に聞かれる」
二人は慌てて口を手で押さえた。
「レイホーさん。実際のところ、どのぐらい音だったら敵に聞かれるの?」
「さっきの芽衣ちゃんの叫び声は危なかったね。でも、オナラぐらいならいいよ」
芽衣ちゃんが、レイホーに詰め寄る。
「まだ、言いますか! もっと上品な例えできないのですか!」
「芽衣ちゃん。大声はダメね」
ガーン!
突然、銅鑼の音が響き渡った。
モニターを見ると、またロンロンが銅鑼を叩いている。
「この音は!?」
『ご安心を。この銅鑼の音は、指向性スピーカーを使っているので、皆さんにしか聞こえません。それより、敵がいよいよ近づいて来ましたので、静粛にお願いします』
船内は静寂に包まれた。息遣い以外聞こえてこない。
ロンロンが、《水龍》の現在位置と近づいてくる水中ドローンの位置をモニター上に光点で表示してくれた。
後、五分ですれ違う。
もし、ドローンが川底の泥の盛り上がりを訝しんでピンガーを打ってきたら……
発見されて、《マカロフ》からアスロックランチャーを発射されて、僕らは木端微塵に……
全員が息を飲んで光点の動きを見守った。
やがて、水中ドローンは僕らに気づくことなく通り過ぎる。
水中カメラの映像を見ると、一瞬だけドローンらしき物体が通り過ぎるのが映っていた。
『ドローンはやり過ごしました。これより発進します』
全員から安堵の息が漏れる。《水龍》は再び動き出した。
その時、微かな振動が伝わってくる。
『レイホー様。ちょっと、不味い事になりました』
「ロンロン。不味い事ってなにね?」
レイホーの質問に、ロンロンに気まずそうに答える。
『ケーブルにぶつかっちゃいました。テヘペロ』
さっきの振動はそれか。しかし、なんのケーブルだ?
「なんのケーブルね?」
『さっきの水中のドローンです。AI自立型と思っていましたが、有線誘導だったようだったようですね』
「ちょっと! それにぶつかったって事は、敵に見つかった?」
『いえ。ケーブルに触れたぐらいでは、現在位置を特定されることはありません。ただ……』
「ただ、なに?」
『さっきの水中ドローン。ケーブルに、何かが接触した事に気が付いたでしょうね』
という事は、引き返してくる?
『レイホー様。いかがします? やり過ごしますか?』
「もう、やり過ごしている時間なんかないね! 全速先進!」
『ラジャー』
《水龍》は、最大速度で敵艦隊に向かっていった。
僕の問いかけに、ロンロンは少し間を置いて答える。
『いえ。どうやら、水中ドローンの様です』
水中ドローン。潜水艦ではなかったわけだが、これって安心すべきか?
『レイホー様。いかがいたします?』
「ロンロン。やり過ごせる確率は?」
『八十五%です』
「では、やり過ごすね」
『了解しました』
ミールが不思議そうな顔で質問する。
「やっつけないのですか?」
「やっつけるのは簡単。でも、奴の目的は私達を見つける事。こっちから攻撃して、ワザワザ居場所を教えてやることないね」
「でも、見つかっても、やっつけてしまえば……」
説明に困ったレイホーに変わって、僕が説明を引き継いだ。
「ミール。あのドローンは、君が使っている分身のような物と考えてくれ」
「はあ?」
「君もよく分身を偵察に使うだろ。その分身が隠れていた敵に攻撃されてやられたとしたらどうする? 分身がやられても、ミール本人は無事で、隠れていた敵も見つけたわけだが」
「もちろん、他の分身を総動員して、隠れ場所から出てきた敵を攻撃します。ああ! あのドローンを攻撃したら、それを操っている者に、こっちの居場所がばれてしまうわけですね」
「そう。その後でアスロックラ……対潜水艦兵器で攻撃されてしまうんだ」
そんな事を話しているうちに、《水龍》は運河の底に着底した。そのままポンプを使って、船体に泥を被せて偽装する。
作業が済むと、レイホーが振り向いた。
「みんな、これから敵をやり過ごすね。その間、音を出しちゃだめね」
潜水艦戦を描いた映画や漫画でよくあるシーンだな。
しかし、これってどの程度の音がダメなんだろう?
息ぐらいはいいとして、クシャミだと見つかるだろうか?
スプーンの落ちた音で、敵に発見されたなんて映画で見たけど……
「ああ! でも、この部屋はかなり防音されているから、よほど大きな音じゃなきゃ大丈夫ね」
そっか。スプーンを落としたぐらいなら平気なんだな。
「だから、みんな。オナラは我慢しなくていいからね」
ブホ! レイホー! 可愛い顔して、なんつう事言うんだ! この娘は……
「レイホーさん! そういう事は」
芽衣ちゃんがレイホーに詰め寄る。
「あれ? どうしたの? 芽衣ちゃん。真っ赤な顔して? オナラなら我慢しなくてもいいよ。敵に聞かれないから」
「敵に聞かれなくても、北村さんに聞かれちゃうでしょ!」
芽衣ちゃん! ここでそんな大声は……
「大丈夫、大丈夫。美男美女はオナラしないというのは迷信だから」
「人前でやるのが、問題なのです!」
トントン。僕は二人の肩を叩いた。
芽衣ちゃんとレイホーが振り向く。
「どうしました?」「どうしたね?」
僕は人差し指を立てて鼻に当てた。
「しー。敵に聞かれる」
二人は慌てて口を手で押さえた。
「レイホーさん。実際のところ、どのぐらい音だったら敵に聞かれるの?」
「さっきの芽衣ちゃんの叫び声は危なかったね。でも、オナラぐらいならいいよ」
芽衣ちゃんが、レイホーに詰め寄る。
「まだ、言いますか! もっと上品な例えできないのですか!」
「芽衣ちゃん。大声はダメね」
ガーン!
突然、銅鑼の音が響き渡った。
モニターを見ると、またロンロンが銅鑼を叩いている。
「この音は!?」
『ご安心を。この銅鑼の音は、指向性スピーカーを使っているので、皆さんにしか聞こえません。それより、敵がいよいよ近づいて来ましたので、静粛にお願いします』
船内は静寂に包まれた。息遣い以外聞こえてこない。
ロンロンが、《水龍》の現在位置と近づいてくる水中ドローンの位置をモニター上に光点で表示してくれた。
後、五分ですれ違う。
もし、ドローンが川底の泥の盛り上がりを訝しんでピンガーを打ってきたら……
発見されて、《マカロフ》からアスロックランチャーを発射されて、僕らは木端微塵に……
全員が息を飲んで光点の動きを見守った。
やがて、水中ドローンは僕らに気づくことなく通り過ぎる。
水中カメラの映像を見ると、一瞬だけドローンらしき物体が通り過ぎるのが映っていた。
『ドローンはやり過ごしました。これより発進します』
全員から安堵の息が漏れる。《水龍》は再び動き出した。
その時、微かな振動が伝わってくる。
『レイホー様。ちょっと、不味い事になりました』
「ロンロン。不味い事ってなにね?」
レイホーの質問に、ロンロンに気まずそうに答える。
『ケーブルにぶつかっちゃいました。テヘペロ』
さっきの振動はそれか。しかし、なんのケーブルだ?
「なんのケーブルね?」
『さっきの水中のドローンです。AI自立型と思っていましたが、有線誘導だったようだったようですね』
「ちょっと! それにぶつかったって事は、敵に見つかった?」
『いえ。ケーブルに触れたぐらいでは、現在位置を特定されることはありません。ただ……』
「ただ、なに?」
『さっきの水中ドローン。ケーブルに、何かが接触した事に気が付いたでしょうね』
という事は、引き返してくる?
『レイホー様。いかがします? やり過ごしますか?』
「もう、やり過ごしている時間なんかないね! 全速先進!」
『ラジャー』
《水龍》は、最大速度で敵艦隊に向かっていった。
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