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第十章
救助2
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「キラ」
三人の亡骸を抱えて岸へ戻り、キラを呼び出した。
「キラ。帝国軍は遺体を持ち帰らないで火葬するそうだが、弔いはしないのか?」
正直、弔いなんて無意味かもしれない。そもそも、そういう事をするなら戦闘で直接殺した敵兵も弔うべきじゃないか?
自分でも、矛盾しているのは分かっていた。自己満足だというのも分かっている。
分かっているが……この女の子達は、丁寧に弔ってやりたい。
そう思ってキラに尋ねてみたのだが……
「火葬する前に、弔いの儀式はするが……」
「この人達を、弔ってやってくれないか」
「私に神官の代わりを務めろというなら、無理だぞ。葬儀には参加したことはあるが、いつも目立たない隅っこで欠伸を噛み殺していたんだ。神官がどんな事を言っていたかなんて、覚える前に耳にすら入っていない」
「そうか……」
まあ……それを攻める気になれないな。
僕だって、葬儀に出た事はあるが、僧侶の唱える読経なんて、何を言っているのかさっぱり分からないし……
「北村さん!」
芽衣ちゃんの声の方に目を向けた。
運河の水面上を桜色のロボットスーツが滑るようにこっちへ向ってくる。
「この人、まだ息があります」
芽衣ちゃんの腕には、女性兵士が抱かれていた。
この娘も……砲兵隊の……
一人だけでも、生き残っていたのか。
「サーシャさん」
そう言って、ミーチャが横たわっている女性兵士の傍らに歩み寄ってきた。
「ミーチャ。知っている人なのか?」
「はい。同じ孤児院にいた人です。頭が良くて、高等学校へ進学していたのですが、軍隊に徴用されて……今回のカルカ侵攻部隊に配属されて、僕と再会しました」
見かけ通り女子高生か。なにも、こんな女の子まで、徴用しなくても……
その時、サーシャがゆっくりと目を開いた。半身を起こして周囲を見回す。その視線が、僕に向いた時……
「きゃあああ!」
傷つくな。何も人の顔を見るなり、悲鳴を上げなくても……あ! ロボットスーツを着たままでは確かに怖いか。
「サーシャさん! サーシャさん! この人は悪い人じゃありません」
ミーチャが宥めに入る。
「ミーチャ!」
サーシャがミーチャを抱きしめた。
「ちょっと! サーシャさん! 苦しいです」
まあ、彼女が落ち着くまで、しばらくそうさせておこう。
「ミーチャ」
ん? なんだ? キラ……引きつった笑みを浮かべて……
「その人は、頭を打っているかもしれない。すぐに病院に運ぼう」
え? 頭なんか打っている様子はないが……
キラの背後から、もう一人キラが担架を持って現れた。分身体? 新しい憑代はまだ作っていなかったはずだが……
「キラ。憑代はどうしたんだ?」
「最初の分身が消えた場所に落ちていた」
そのまま二人のキラは、サーシャをミーチャから引き離して、担架に載せて去っていく。
残されたミーチャは、キョトンとした顔でそれを見送っていた。
「困ったものですね」
その様子を見ていたミールが、頭を押さえながら言う。
「修行中は、恋愛禁止と言ったはずなのに……」
「恋愛って、キラが誰に?」
「分かりませんか?」
「え? ミーチャに?」
ミールは頷く。
「そうです。今の、どう見ても焼もちですよ」
キラって、ショタコンだったのか。
「お兄ちゃん」
ミクが近くに降りる。
「上流見に行ったけど、もう流されている人いなかった」
「そうか」
シェルターへ引き上げようと考えた時、Pちゃんから呼び止められた。
三人の亡骸を抱えて岸へ戻り、キラを呼び出した。
「キラ。帝国軍は遺体を持ち帰らないで火葬するそうだが、弔いはしないのか?」
正直、弔いなんて無意味かもしれない。そもそも、そういう事をするなら戦闘で直接殺した敵兵も弔うべきじゃないか?
自分でも、矛盾しているのは分かっていた。自己満足だというのも分かっている。
分かっているが……この女の子達は、丁寧に弔ってやりたい。
そう思ってキラに尋ねてみたのだが……
「火葬する前に、弔いの儀式はするが……」
「この人達を、弔ってやってくれないか」
「私に神官の代わりを務めろというなら、無理だぞ。葬儀には参加したことはあるが、いつも目立たない隅っこで欠伸を噛み殺していたんだ。神官がどんな事を言っていたかなんて、覚える前に耳にすら入っていない」
「そうか……」
まあ……それを攻める気になれないな。
僕だって、葬儀に出た事はあるが、僧侶の唱える読経なんて、何を言っているのかさっぱり分からないし……
「北村さん!」
芽衣ちゃんの声の方に目を向けた。
運河の水面上を桜色のロボットスーツが滑るようにこっちへ向ってくる。
「この人、まだ息があります」
芽衣ちゃんの腕には、女性兵士が抱かれていた。
この娘も……砲兵隊の……
一人だけでも、生き残っていたのか。
「サーシャさん」
そう言って、ミーチャが横たわっている女性兵士の傍らに歩み寄ってきた。
「ミーチャ。知っている人なのか?」
「はい。同じ孤児院にいた人です。頭が良くて、高等学校へ進学していたのですが、軍隊に徴用されて……今回のカルカ侵攻部隊に配属されて、僕と再会しました」
見かけ通り女子高生か。なにも、こんな女の子まで、徴用しなくても……
その時、サーシャがゆっくりと目を開いた。半身を起こして周囲を見回す。その視線が、僕に向いた時……
「きゃあああ!」
傷つくな。何も人の顔を見るなり、悲鳴を上げなくても……あ! ロボットスーツを着たままでは確かに怖いか。
「サーシャさん! サーシャさん! この人は悪い人じゃありません」
ミーチャが宥めに入る。
「ミーチャ!」
サーシャがミーチャを抱きしめた。
「ちょっと! サーシャさん! 苦しいです」
まあ、彼女が落ち着くまで、しばらくそうさせておこう。
「ミーチャ」
ん? なんだ? キラ……引きつった笑みを浮かべて……
「その人は、頭を打っているかもしれない。すぐに病院に運ぼう」
え? 頭なんか打っている様子はないが……
キラの背後から、もう一人キラが担架を持って現れた。分身体? 新しい憑代はまだ作っていなかったはずだが……
「キラ。憑代はどうしたんだ?」
「最初の分身が消えた場所に落ちていた」
そのまま二人のキラは、サーシャをミーチャから引き離して、担架に載せて去っていく。
残されたミーチャは、キョトンとした顔でそれを見送っていた。
「困ったものですね」
その様子を見ていたミールが、頭を押さえながら言う。
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「恋愛って、キラが誰に?」
「分かりませんか?」
「え? ミーチャに?」
ミールは頷く。
「そうです。今の、どう見ても焼もちですよ」
キラって、ショタコンだったのか。
「お兄ちゃん」
ミクが近くに降りる。
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