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第九章

潜水艦用ハッチ(過去編)

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 何とか帝国軍は撃退したものの、その後もドローンが何度も来襲してきた。
 その度に、芽衣が迎撃に出撃するが、次第に芽衣にも、ロボットスーツにも疲労が蓄積していった。

 そして、明け方。

 七機編隊のドローンを迎撃して戻ってきた芽衣は、着脱装置のモニターを見てため息をつく。

「芽衣ちゃん。ロボットスーツはどう?」
「香子さん。後、一回か二回しか出撃できません。それと、左腕の増力機構ブーストシステムはダメになりました。部品がないと修理できません」
「カートリッジは、一杯あるというのに……」
「次にエラ・アレンスキーが来ても、まともに戦えるかどうか」
「困ったわね。ショットガンの弾も二十発しかないわ。レーザー銃の燃料も残り少ないし……」

 カルカシェルターの状況は、かなり悪化していた。
 昨夜の戦闘で多くの死傷者が出た上に銃弾も尽きかけている。
 次に帝国軍が攻めてきたら、バリケードを守るのは不可能。
 バリケードを放棄して、兵士たちはシェルター内に撤退した。
 敵がドームの出入り口を爆破して入ってきたら、ドームからシェルターまでの通路を決戦場にする事にしたのである。
 それはもう、作戦と言えるものではなかった。
 
 だが、朝になってからドローンの来襲は途絶えた。
 敵のドローンが尽きたのか? あるいは次の攻撃を用意しているのか?
 とにかく、カルカシェルターも一息つくことができた。

 状況が動き出したのは昼ごろ。
 仮眠を取っていた香子と芽衣は、インターホンで起こされた。
 寝ぼけ眼で応対した香子は、相手の言葉を聞いて一気に目が覚める。

「帝国軍が、裏口から攻めようとしている?」

 カルカシェルターの東側には運河がある。その運河に潜水艦の出入り口があった。
 帝国軍は昨日のうちに運河の水門を閉めて、運河を干上がらせていたのだ。
 そして今、潜水艦の出入り口付近に敵が集まっているのである。

「それじゃあ香子さん。昨夜の攻撃は運河から私たちの目を逸らすため?」
「それは、分からない。ただ、ドーム攻撃に失敗したときに備えて、運河の水門を閉めておいたのかもしれないわ」

 二人は身支度を整えて通路に出た。

「う」

 しかし、いくらも歩かないうちに、香子は眩暈を起こして倒れてしまった。

「香子さん! しっかりして!」

 過労だった。香子を病院に連れて行ったあと、芽衣は一人で運河の出入口に向かう。
 桜色のロボットスーツを装着して、長い通路を抜けると古びた小型潜水艦の停泊しているプールに出た。
 その周辺に、二十名ほどの兵士たちが待機している。

「すみません。遅くなりました」

 隊長が振り返る。

「来てくれたか、これを見てくれ」
 
 隊長の差し出したタブレットには、外部カメラの映像が映っていた。
 運河が干上がって、すっかりむき出しになってしまった潜水艦用ハッチの前に帝国兵が群がっている。

「何をやっているのです?」
「爆薬を仕掛けているんだ」
「でも……あれって、黒色火薬ですよね?」
「ああ。あの程度の黒色火薬だったら、あのハッチはびくともしない。だが、さっき帝国軍の無線を傍受して分かったのだが、奴らここから離れた場所に、プリンターを持ってきているらしい。黒色火薬がダメだったときは、プリンターでトリ・ニトロ・トルエンを作るように要請していた」
「ТNТですか」
「そんな物を使われたら、あんなハッチ一たまりもない」

 遠くから、爆音が聞こえてきた。
 ハッチは持ちこたえたようだ。

「隊長。奴ら、ТNТの製造を要請しました。二十分ほどで届くそうです」

 無線を傍受していた兵士の報告を聞いて、隊長はため息をついた。

「お前たち。もうすぐ、敵はハッチを爆破して入ってくる。そしたら戦闘開始だ。今まで、よく戦ってくれた。これが最後の戦いになる。俺達は恐らく全滅するだろう。逃げたい奴は、今のうちに逃げろ」

  逃げ出す者はいなかった。

「隊長さん」

 芽衣に声をかけられて、隊長は振り向く。

「ハッチが破られる前に、こっちから撃って出るわけに……」

 隊長はゆっくりと首を横にふる。

「ダメなんだ。弾薬が足りないんだよ。少ない弾薬で、効率よく敵を殺すには狭い通路に敵を引きずり込むしかないんだ」
「そうですか」

 芽衣は潜水艦の浮かんでいるプールに目を向けた。
 このプールの水面下に、運河に通じているトンネルの入り口がある。
 
「?」

 突然、ブールの中から潜水服姿の人物が上がってきた。
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