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第九章

雷神女(過去編)

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 エラの放った光球は、バリケードの内側にある見張り塔にさく裂した。
 見張り塔に立っていた二名のプシダー族が、黒焦げ死体となって落下する。

「うおおおお!」

 地表にいたプシダー族の戦士たちは、仲間の変わり果てた遺体を見て逆上し、地球人やナーモ族の制止を振り切り、バリケードから飛び出して行った。

「どりゃああああ!」

 五名のブシダー族戦士たちが、銛を構えてエラに向かって突進していく。

「バカめ」

 エラはニヤリと笑みを浮かべると、右掌を前に突き出した。
 掌が輝き、光球を解き放つ。
 
「グオオ!」

 先頭を走っていたブシダー族兵士は、エラまで三十メートルというところで光球を食らい黒焦げに……
 さらに、エラの背後から付いてきていた帝国兵たちがフリントロック銃を撃つ。

 残りのプシダー族は、その銃弾で撃ち倒されていった。

「撃て!」

 バリケードでライフル銃を構えていた地球人とナーモ族の兵士たちは、エラに向かって一斉に射撃を開始した。


「なに……これは?」

 ドームの上から双眼鏡で戦場を見ていた香子は、信じがたい光景を目の当たりにした。
 エラに向かっていく銃弾が、エラから数メートル手前で消えてしまうのだ。  
 どうやら、高温により一瞬にしてプラズマ化してしまっているらしい。
 発生したプラズマは、壁の様にエラの周囲を囲んでいた。
 後方の迫撃砲部隊が、エラに向かって砲撃を仕掛ける。
 しかし、エラの放つ光球によって、砲弾はことごとく撃墜されてしまった。
 さらに、エラの背後にいた兵士がロケット砲を発射。
 バリケードに大きな穴が空いた。
 その爆発でかなりの死傷者が出た。

「出鱈目だわ! あんなのどうやって、倒せばいいのよ」
「香子さん。レーザーなら、熱なんて関係ないね」
「待って! レーザーでも、あのプラズマの壁を突破できないわ」
「やってみなきゃ分からないね」

 レイホーはレーザー銃をエラに向けて撃つ。
 しかし、香子の言う通り、レーザーもプラズマ壁に阻まれた。

「あちゃあ! ダメだったか」
 
 ふいにエラが、ドーム上に視線を向けた。
 撃たれた事に、気が付いたのだ。
 右の掌を香子たちに向ける。

「レイホーさん。早く、エレベーターに……」
「はいな」

 二人はエレベーターに駆け込む。

 扉が閉まる寸前に、光球が手すりにぶつかり爆発した。
 閉まる扉の隙間から、僅かだか熱風が吹きこむ。

「あそこにいたら……アウトだったわ」
 
 香子はゼイゼイと、荒い息をしていた。
 その横でレイホーはエレベーターを操作している。

「レイホーさん。エレベーターは壊れていない?」
「大丈夫ね。このドーム、核攻撃を想定して作られた。あんなヘナチョコ攻撃効かないね」

 香子はクスっと笑った。

「こうなったら、芽衣ちゃんに戻って来てもらうしかないわ」
「でも……芽衣ちゃんは、ドローンと……」
「まだ、片付かないの?」
「それが、片付けても、片付けても、後からどんどんやってくるね」
「え?」

 レーダーの記録を見ると、敵のドローンは一機から二機ずつ小出しにやってきていた。

 十時の方からやって来た二機を落とすと、三時方向から一機現れ、それを落とすと九時の方向から一機という具合に。

「戦力の逐次投入? 一番の愚策だわ。敵は馬鹿なの? それとも……」

 香子は、数秒考えて通信機を取った。

「芽衣ちゃん! すぐにドームに戻ってきて! エラがやって来たわ。ドローンはあなたをドームから引き離すための囮よ」

 返事はなかった。通信機が壊れているから当然だ。
 しかし、レーダーの中で、芽衣を表す光点が進行方向を変えてこっちへ戻ってくる。

「でも、香子さん。芽衣ちゃんを呼び戻したら、ドローンもこっちへ来るね」
「ええ。だけど、ドローンの一機ぐらいなら私たちでも相手できる。でも、エラの相手は芽衣ちゃんじゃないとできない」
「しかし、芽衣ちゃんのロボットスーツでも、雷神女の攻撃は防げないね」
「大丈夫。芽衣ちゃんは卑怯に徹すると言っていたわ」
「卑怯?」

 レーダーを見ると、芽衣はすでにドーム上空に到着していた。
 ドローンも追いかけてきているが、芽衣からかなり引き離されたようだ。
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