251 / 848
第八章
楊 美雨
しおりを挟む
僕達が車から降りた時、楊 美雨の横にレイホーが寄って、何かを耳打ちしていた。
すると、楊 美雨は僕の方へ向き直る。
「そちらに怪我をしたを方がいるそうですね? こちらには医者がいるけど、必要かしら?」
「ぜひ、お願いします」
車の中に寝かせてあったダモンさんを、ストレッチャーに乗せた。ついでに、捕虜にしたダサエフも引き渡しておいた。
「カイトさん、あたしダモン様に付き添っていきますので、話を進めていて下さい」
ミールがストレッチャーと一緒に通路の奥へと消えていく。
それを見送っている僕に、楊 美雨が話しかけてきた。
「北村海斗君。久しぶりね」
「ども……」
僕の事を覚えていたのか。この人にとっては、かなり昔の事なのに……
「あれ? お母さん、このお兄さんと知り合いだったの?」
不思議そうな顔でレイホーが言う。どうやら、親子のようだ。
「レイホー。この人と、どこで知り合ったの?」
「カルカの郊外で、盗賊に襲われているところを助けてもらったね」
「そうだったの。お母さんは、昔この人にふられたのよ」
ブッ! そういう言い方しなくても……
「ええ!? だって歳の差が……」
「電脳空間での話よ。プリンターから出た時間が違うから、歳がこれだけ離れてしまったのよ」
「ああ! なるほど」
「北村海斗君。君はあの時と姿が変わらないわね。プリンターから出たのはいつ?」
「二ヶ月前です」
「そう。私はプリンターから出て、かれこれ三十年以上経つわ。交流会の時に、君と会っているはずだけど、覚えているかしら?」
「覚えています。と言っても、正確には僕は会っていません。僕は生データから作られたので、電脳空間で過ごした記憶はないのです。ただ、後から電脳空間の記憶を植え付けられたので、交流会であなたと会っている事は知っています」
「そう。私の夫も、あの交流会で《イサナ》の女の子にふられたの。お互いふられた者同士で結婚したのよ」
「そ……そうでしたか……」
てか、僕は別にふったわけでは……
「まあ、昔の話はさて置いて、さっそく頼みたい事があるの」
「なんでしょう?」
「プリンターがあったら、すぐに貸してほしいのだけど」
「プリンターならありますが、そんなに急いで何に使うのです?」
「私の夫が、病気なの。プリンターがあれば医療用ナノマシーンが作れるのだけど」
「そういう事は、早く言って下さい。すぐに用意します」
「急がなくていいわ。どのみち、夫は冷凍睡眠中。今から解凍しても、ナノマシーンが使える状態になるまでは六時間かかるの」
「そうでしたか」
だよね。でなかったら、こんなにのんびり構えているわけないか……
「あら? この子」
楊 美雨はミクの方に目を向けた。
「あなたも来ていたのね」
「え? あたしの事を、知っているの?」
「知っているわよ。交流会で私の夫となる男の子をふっていたのだから……」
「え? あたし、誰もふってなんか……」
あ!
「ひょっとして楊 美雨さんの夫って、白竜君のことでは……」
「そうよ。十歳年上の姉さん女房になってしまったけどね」
それを聞いてミクが慌てた。
「ちょっと待って! あたし白竜君をふっていないわよ!」
「ミク。『お友達でいましょう』は『お断りします』と同じ意味なのだよ」
「ええ!? どうして、その時教えてくれなかったのよ!」
「それを僕に言われても……でも、たぶん、電脳空間の僕も、ミクは断ったのだと判断してのだと思う」
僕は香子の方を向いた。
「香子も、教えてあげればよかったのに」
「そんな事言ったって、私だってミクちゃんがあの男の子をふったと思っていたし……それに私はあの時、それどころじゃなかったわ」
え?
「幼馴染の私を差し置いて、海斗のファーストキスを奪った女と口論中だったのだけど……その時の詳しい状況を聞きたい?」
いえ……遠慮しておきます……コワいから……
すると、楊 美雨は僕の方へ向き直る。
「そちらに怪我をしたを方がいるそうですね? こちらには医者がいるけど、必要かしら?」
「ぜひ、お願いします」
車の中に寝かせてあったダモンさんを、ストレッチャーに乗せた。ついでに、捕虜にしたダサエフも引き渡しておいた。
「カイトさん、あたしダモン様に付き添っていきますので、話を進めていて下さい」
ミールがストレッチャーと一緒に通路の奥へと消えていく。
それを見送っている僕に、楊 美雨が話しかけてきた。
「北村海斗君。久しぶりね」
「ども……」
僕の事を覚えていたのか。この人にとっては、かなり昔の事なのに……
「あれ? お母さん、このお兄さんと知り合いだったの?」
不思議そうな顔でレイホーが言う。どうやら、親子のようだ。
「レイホー。この人と、どこで知り合ったの?」
「カルカの郊外で、盗賊に襲われているところを助けてもらったね」
「そうだったの。お母さんは、昔この人にふられたのよ」
ブッ! そういう言い方しなくても……
「ええ!? だって歳の差が……」
「電脳空間での話よ。プリンターから出た時間が違うから、歳がこれだけ離れてしまったのよ」
「ああ! なるほど」
「北村海斗君。君はあの時と姿が変わらないわね。プリンターから出たのはいつ?」
「二ヶ月前です」
「そう。私はプリンターから出て、かれこれ三十年以上経つわ。交流会の時に、君と会っているはずだけど、覚えているかしら?」
「覚えています。と言っても、正確には僕は会っていません。僕は生データから作られたので、電脳空間で過ごした記憶はないのです。ただ、後から電脳空間の記憶を植え付けられたので、交流会であなたと会っている事は知っています」
「そう。私の夫も、あの交流会で《イサナ》の女の子にふられたの。お互いふられた者同士で結婚したのよ」
「そ……そうでしたか……」
てか、僕は別にふったわけでは……
「まあ、昔の話はさて置いて、さっそく頼みたい事があるの」
「なんでしょう?」
「プリンターがあったら、すぐに貸してほしいのだけど」
「プリンターならありますが、そんなに急いで何に使うのです?」
「私の夫が、病気なの。プリンターがあれば医療用ナノマシーンが作れるのだけど」
「そういう事は、早く言って下さい。すぐに用意します」
「急がなくていいわ。どのみち、夫は冷凍睡眠中。今から解凍しても、ナノマシーンが使える状態になるまでは六時間かかるの」
「そうでしたか」
だよね。でなかったら、こんなにのんびり構えているわけないか……
「あら? この子」
楊 美雨はミクの方に目を向けた。
「あなたも来ていたのね」
「え? あたしの事を、知っているの?」
「知っているわよ。交流会で私の夫となる男の子をふっていたのだから……」
「え? あたし、誰もふってなんか……」
あ!
「ひょっとして楊 美雨さんの夫って、白竜君のことでは……」
「そうよ。十歳年上の姉さん女房になってしまったけどね」
それを聞いてミクが慌てた。
「ちょっと待って! あたし白竜君をふっていないわよ!」
「ミク。『お友達でいましょう』は『お断りします』と同じ意味なのだよ」
「ええ!? どうして、その時教えてくれなかったのよ!」
「それを僕に言われても……でも、たぶん、電脳空間の僕も、ミクは断ったのだと判断してのだと思う」
僕は香子の方を向いた。
「香子も、教えてあげればよかったのに」
「そんな事言ったって、私だってミクちゃんがあの男の子をふったと思っていたし……それに私はあの時、それどころじゃなかったわ」
え?
「幼馴染の私を差し置いて、海斗のファーストキスを奪った女と口論中だったのだけど……その時の詳しい状況を聞きたい?」
いえ……遠慮しておきます……コワいから……
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる