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第六章 逃走
日の丸
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「サーシャ、今よ」
サーシャは第一砲塔のトリガーを握る。
第一砲塔の放ったレーザーが《ファイヤー・バード》に小さな傷を穿つ。
トリガーボタンを一度離してサーシャは教授の方を向く。
「このぐらいの傷でどうですか?」
「十分じゃ」
教授は通信機のマイクを握った。
「マーフィ君聞こえるかね。ワシじゃ。ハンス・ラインヘルガーじゃ。今、君の船に小さな傷を付けた。警告しておくが反転してワームホールに戻ろうなどとは考えない事じゃ。その傷を付けたままワームホールに入れば君の船は圧壊を免れん。悪い事は言わん。そのまま停船したまえ」
マーフィから返答がきた。
同時に映像も出る。
『これは、これは先生。ご心配痛み入ります。ですがご心配無用。私はもうワームホールから逃げる気もありません』
「なぜじゃ?」
『いえね。正直言って私も、このワームホールがどこに通じているのか分からなくて不安だったのですよ。もし、ロシアか日本の基地に通じていたら、即座に反転して逃げなきゃならないところでした。しかし、お笑い種ですな。出てみれば《楼蘭》ではないですか。これならワームホールから逃げる必要もない』
サーシャが通信を変わる。
「なんで《楼蘭》ならお笑い種なのよ? ここにはロシア艦隊も日本艦隊もいるのよ。国際警察もいるのよ」
『これは、これはサーシャ・アンドレーヴィッチ・イヴァノフ博士。もちろん各国の艦隊か駐留している事は存じておりますよ。ですが、あなた方の通報を受けたそれらの艦隊が動き出すまで時間がかかります。動き出した頃には、私はCFCの艦隊基地に逃げ込んだ後ですので手が出せませんよ』
あたしが通信を代わった。
「どこへ逃げたって無駄よ。こっちはあなたの犯罪の証拠を握ってるんだからね。あんたはそれが怖くてあたし達を追い回していたんじゃないの?」
『いやあ、ごもっともですよ。佐竹さん。こうなったら、私も覚悟を決めるしかないようですな』
「覚悟を決めるって、自首するってこと?」
『まさか。ほとぼりが冷めるまで辺境へ逃げるだけですよ』
「逃げられると思ってるの?」
『思ってますね。あなた方が今から当局に通報しても、当局が動き出すまではかなりの時間があります。逃げるには十分ですね』
「絶対に逃がさないわよ」
『なんとでも言いなさい。それより、あなた方こそさっさと《楼蘭》に逃げたほうがいいですよ。さっきから私はCFC私設艦隊を呼び出しています。もうすぐ艦隊が来ますよ』
どこまでも憎ったらしい奴だ!
『ん? どうした?』
映像の中でマーフィは部下から何かを話しかけられたが、声が聞き取れないようだ。
『ですから艦隊司令部とさっぱりつながらないんです』
今度は声が大きくてこっちにまで聞こえてきた。
向こうに何かトラブルがあったのかな?
今度は別の部下がマーフィに耳打ちする。
『ん? そうか、分かった』
マーフィはこっちを向く。
『いや、失礼しました。どうも通信が混乱しているようですな。ところで、もう艦隊が《楼蘭》を発進してこっちへ向かっているようです。逃げた方がいいですよ』
あたしは慧に視線を向けた。
「本当に来てるの?」
「来てることは来ているけど。これ見て」
慧は拡大映像を出した。
あれ?
「マーフィさん」
『何か?』
「CFC艦隊のマークって五色の五芒星でしたよね?」
『そうですが、なにか?』
「あの艦隊のマーク、日の丸だけど」
『なに?』
マーフィの顔が硬直した。
おそらくマーフィはレーダーで接近する船団がいるのを見て味方だと勘違いしたのだろう。ところが接近中の船団は味方ではなかった。
「実はあたしも、ワームホールを出た直後に通信を送ったのよね。マーフィという痴漢に追われているから助けてって」
『な! 痴漢とはひどい』
「美陽! 船団から通信が」
「つないで」
ディスプレイに現れたのは五十代半ばの温和な顔つきのおじさんだった。
おじさんはあたしに向かって敬礼する。
『こちらは日本国航空宇宙保安庁巡視船 《ミズホ》です。宇宙省の佐竹調査官殿でありますか?』
そう、こっちに向かっていたのはCFC艦隊ではなく、保安庁の巡視船団だったのだ。
サーシャは第一砲塔のトリガーを握る。
第一砲塔の放ったレーザーが《ファイヤー・バード》に小さな傷を穿つ。
トリガーボタンを一度離してサーシャは教授の方を向く。
「このぐらいの傷でどうですか?」
「十分じゃ」
教授は通信機のマイクを握った。
「マーフィ君聞こえるかね。ワシじゃ。ハンス・ラインヘルガーじゃ。今、君の船に小さな傷を付けた。警告しておくが反転してワームホールに戻ろうなどとは考えない事じゃ。その傷を付けたままワームホールに入れば君の船は圧壊を免れん。悪い事は言わん。そのまま停船したまえ」
マーフィから返答がきた。
同時に映像も出る。
『これは、これは先生。ご心配痛み入ります。ですがご心配無用。私はもうワームホールから逃げる気もありません』
「なぜじゃ?」
『いえね。正直言って私も、このワームホールがどこに通じているのか分からなくて不安だったのですよ。もし、ロシアか日本の基地に通じていたら、即座に反転して逃げなきゃならないところでした。しかし、お笑い種ですな。出てみれば《楼蘭》ではないですか。これならワームホールから逃げる必要もない』
サーシャが通信を変わる。
「なんで《楼蘭》ならお笑い種なのよ? ここにはロシア艦隊も日本艦隊もいるのよ。国際警察もいるのよ」
『これは、これはサーシャ・アンドレーヴィッチ・イヴァノフ博士。もちろん各国の艦隊か駐留している事は存じておりますよ。ですが、あなた方の通報を受けたそれらの艦隊が動き出すまで時間がかかります。動き出した頃には、私はCFCの艦隊基地に逃げ込んだ後ですので手が出せませんよ』
あたしが通信を代わった。
「どこへ逃げたって無駄よ。こっちはあなたの犯罪の証拠を握ってるんだからね。あんたはそれが怖くてあたし達を追い回していたんじゃないの?」
『いやあ、ごもっともですよ。佐竹さん。こうなったら、私も覚悟を決めるしかないようですな』
「覚悟を決めるって、自首するってこと?」
『まさか。ほとぼりが冷めるまで辺境へ逃げるだけですよ』
「逃げられると思ってるの?」
『思ってますね。あなた方が今から当局に通報しても、当局が動き出すまではかなりの時間があります。逃げるには十分ですね』
「絶対に逃がさないわよ」
『なんとでも言いなさい。それより、あなた方こそさっさと《楼蘭》に逃げたほうがいいですよ。さっきから私はCFC私設艦隊を呼び出しています。もうすぐ艦隊が来ますよ』
どこまでも憎ったらしい奴だ!
『ん? どうした?』
映像の中でマーフィは部下から何かを話しかけられたが、声が聞き取れないようだ。
『ですから艦隊司令部とさっぱりつながらないんです』
今度は声が大きくてこっちにまで聞こえてきた。
向こうに何かトラブルがあったのかな?
今度は別の部下がマーフィに耳打ちする。
『ん? そうか、分かった』
マーフィはこっちを向く。
『いや、失礼しました。どうも通信が混乱しているようですな。ところで、もう艦隊が《楼蘭》を発進してこっちへ向かっているようです。逃げた方がいいですよ』
あたしは慧に視線を向けた。
「本当に来てるの?」
「来てることは来ているけど。これ見て」
慧は拡大映像を出した。
あれ?
「マーフィさん」
『何か?』
「CFC艦隊のマークって五色の五芒星でしたよね?」
『そうですが、なにか?』
「あの艦隊のマーク、日の丸だけど」
『なに?』
マーフィの顔が硬直した。
おそらくマーフィはレーダーで接近する船団がいるのを見て味方だと勘違いしたのだろう。ところが接近中の船団は味方ではなかった。
「実はあたしも、ワームホールを出た直後に通信を送ったのよね。マーフィという痴漢に追われているから助けてって」
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