時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
49 / 55
第六章 逃走

気にしなくていいよ。ただの反陽子爆弾だから。

しおりを挟む
 メタンクラゲが今にも彼に襲いかかろうとしている。
 どうやら運は良くなかったみたいだ。
「助けて!!」
 彼は通信機を取り出したが、手を滑らして落としてしまう。
 拾おうしたが、その前に彼の身体が触手に絡め取られる。
「マーフィ部長助けてください!! バケモノです!! いやだ!! 死にたくない!!」
 ど……どうしよう? このままじゃあの人殺されちゃう。
「誰か助けてえ!! ママ!!」
 もう我慢できん!!
 あたしは隠れ場所から飛び出した。
「ちょっと美陽!! 何する気? そいつは敵なのよ」
 そんな事は分かってる。でも、あたしは人間であることをやめたくない!
 レーザーガンをメタンクラゲに撃ち込んだ。
「ピキィィ!!」
 メタンクラゲは悲鳴を上げて彼を放す。
 さらに神経中枢を撃ち抜いてトドメを刺す。
「あわわわ」
 腰を抜かしている彼に、あたしは手を差し出した。
「大丈夫? 一人で立てる?」
「あ……ありがとうございます」
 彼はよろよろと立ち上がる。
「うわわ!! また来た!!」
 そして彼は腰を抜かした。
 背後を見るとメタンクラゲの群がこっちへ向かってくる。
「明かりを消して! 奴らは光に引き寄せられるのよ」
 あたしは投光機を指差した。
「うわわ!」
 だめだ、完全に混乱している。
 そうしている間にサーシャが飛び込んできた。サーシャは投光機を蹴倒すと明かりが出なくなるまでレーザーガンを撃ち込む。
 スイッチで消せよ!
 群の方に目をやると慧が信号銃を構えて立っていた。
 群の反対側に向かって信号弾を発射する。
 眩い光源が空中に出現。
 メタンクラゲの群は光源へ向かっていった。
 なんとか助かったわね。
「ねえ、これ何かしら?」
 サーシャが装置を指差す。
 直径一メートル程の多面体がいくつも、装置を取り囲むように配置されている。なんだろう?
 慧は多面体を観察する。
「位相共役鏡だ!!」
 位相共役鏡って、たしかレーザー光線を元来た方向に反射する装置よね。じゃあ、もしグレーザー砲でこのあたりを攻撃していたら危なかったかも……
 もちろん、グレーザー砲を食らったらこの装置もあっという間に蒸発するけど、その前にレーザーの一部がこっちに跳ね返ってくる。
 グレーザー砲を使わなくて正解だったわ。
 さて……
「じゃあ始めましょうか」
 あたし達はそれぞれ待ち寄った部品を出し合った。あたしが用意した円筒形の容器には、さっき《リゲタネル》のトロイダルコイルからちょびっとだけ抜き取ってきたプラズマ状態の反陽子が強力な磁場で封じ込められている。それに慧の用意した電子装置とサーシャの持ってきた加熱装置を取り付ける。
 時間がくれば加熱装置が反物質容器の超伝導物資の一部を過熱し、超伝導転移温度以上に温度を上げてクエンチを起こさせる。
 そして磁場の支えを失った反陽子が容器の壁に触れて対消滅を起こす仕組みだ。
 抜き取ってきた反陽子の量から計算してその威力はTNT火薬十トン分。
 それを時空管破壊装置の下にセットする。
 最後に慧が時限装置をセットしているところへ彼が這い寄ってきた。
「あのう」
 作業中の慧に彼が話しかける。
「ん? なに?」
「その箱はなんですか?」
「ああ、気にしなくていいよ。ただの反陽子爆弾だから」
 おいおい。『ただの』って言うなよ。
「なあんだ。ただの反陽子爆……ええええ!?」
 あーあ、また腰を抜かしちゃった。
 ん? サーシャがあたしの肩を叩く。
「なに?」
 サーシャは腰を抜かしている彼を指差す。
「あれ、どうするのよ?」
「どうするって……そりゃあやっぱり」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...