時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
46 / 55
第六章 逃走

どこまで行っても海ばかり

しおりを挟む
 地上から見たときは分からなかったが、この衛星の表面のほとんどは海だった。
 もちろん水ではなく液化メタンの海だ。
 海陸比は今のところ不明だが、さっきから衛星大気圏内を飛行している《リゲタネル》が陸地にさっぱり遭遇しないところ見ると海のほうが大きいようだ。
 しかし、これはある意味……
「幸運だったわね」
 悔しいがサーシャに皮肉を言われても、あたしはまったく反論できない。
 言われる事、ごもっとも。
 正直自分を叩きたいぐらいだわ。
 あたしの馬鹿!
 ここまでみんなを引っ張ってきておきながら、ワームホールの開いた場所がこの広大な衛星のどこなのかさっぱり分からないなんて。
 一応、地図は作ってあったが、それはあくまでもワームホール周辺とロケットを打上げた地点の周辺だけ。
 衛星全体の地図なんて作ってる暇はなかった。あの時打ち上げたプローブは天測用であって地上探査機能はなかった。
「なんで地上探査用のプローブを先に打ち上げなかったのよ?」
「しょうがないでしょう。あの時はバギーには積みきれなかったのよ」
「普通、天測より地上探査が先でしょ。まず、自分の足元を確かめなきゃだめじゃない」
「いいえ、天測が先。自分の現在位置を把握しなきゃだめでしょ」
「現に把握できてないじゃない」
「う、それは」
 反論したいが今はサーシャと喧嘩している場合じゃない。
 それでなくても、狭苦しい船に何日も押し込められているので四人ともいい加減フラストレーションが溜まっている。ここは我慢しないと。
 ところでなんで海が多くて幸運かというと、それだけ捜索する面積を減らせるからだ。
 あの時、ワームホールから南へ百キロいったところが赤道だった。そこからロケットを打ち上げたわけだが、その時の使った発射台がまだそこに残っているはず。
 赤道上の陸地で金属反応を探していけば見付かるはずだが、そのためには金属反応を捕えられる高度を低速で飛び続けなければならない。
 もし、この衛星が陸地ばかりだったら何日かかったことやら。
 海が多くて幸運というのはそういう事だった。とりあえず、海の上は探さなくてもいいので、高速で通り過ぎてもかまわない。
 それにしても、この海はどこまで続くんだろう? もう赤道を半周しているけど、まだ陸地にぶつからない。
 もしかすると一ヵ月半の間に海面上昇で陸地が全て沈んだのか?
 なんて妄想が湧いてきた時、ようやく陸地が見付かった。
「ねえ、これはどう?」
 サーシャは陸地を指差す。
「ううん。こんな小さな島じゃなかったな。少なくとも北に百キロは陸地があるはず」
「そう。じゃあ次いきましょう」
 《リゲタネル》は再び動き出した。
 次の陸地があったのはそこから西へ百キロいったところだった。
「これはどうかしら?」
「これかもしれない」
 その陸地は北へも南へも地平線の彼方まで続いていた。
 早速 《リゲタネル》は高度を下げ金属探知を開始した。
 それにしても気になるのはマーフィの動きだ。あきらめて帰ったとは思えない。
 しかし、この濃密な雲に覆われた衛星にいる《リゲタネル》を宇宙から見つけられるとは思えない。
 となると《ファイヤー・バード》もこの衛星の大気圏に下りて来て、あたし達を探してるのだろうか?
 しかし例え降りてきたとしても、この広い衛星を《ファイヤー・バード》一隻で闇雲に探し回っても、あたし達を見つけることはほとんど無理。
 奴の増援が第五惑星に近づいてるのは、この衛星に降りる前にやっておいた赤外線観測で分かっていた。しかし、それの到着は三十時間後。
 三十時間も奴は待ってるのだろうか?
 希望的観測を言うなら、奴はすでにこっちがワームホールを抜けてしまった後と、誤解していてくれればいいんだが。
「金属反応だ」 
 慧が叫ぶ。
 あたしは反応のあった辺りを拡大してみた。
 金属のやぐらのような物が見える。
 ただし横倒しになって。
「直接行って見てみるわ」
 あたしはFMDを外して席を立った。
「私も行くわ」
サーシャも席を立つ。
 あたし達は狭い通路を通ってエアロックへ向かう。
 エアロックの中で気密服に着替える。
 あたしは武器ロッカーを開け、レーザー銃を出し一丁をサーシャに渡す。
「そんなに危険なところなの?」
「ええ。決して、油断しないでね」
 エアロック内の増圧が終わりあたし達は外へ出る。
 氷りついた有機物の大地を踏みしめ、あたし達は金属やぐらに歩み寄った。
「どう?」
 屈みこんでやぐらに書いてあるマークを探す。
 あった! 宇宙省のマーク。
「間違えないわ。これよ」
 視線を前に戻す。
 え? サーシャ!? なんであたしに銃を向けるの!?
 いきなりサーシャはトリガーを引く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...