時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
43 / 55
第六章 逃走

第五惑星

しおりを挟む
 ワームホールを出発して六日後。
 ようやくあたし達は第五惑星に到着した。
 第五惑星は巨大な木星型惑星ガスジャイアント。その周囲には五十以上に及ぶ衛星が周回し、巨大な輪を持っていた。
 推進剤を節約するため、《リゲタネル》は、バリュートを開いて第五惑星の大気圏上層部を掠めてエアーブレーキをかけた。
 そうして十分に減速を終えたとき、敵は現れた。
 現れたのは教授の予想通り無人偵察艇。

 減速を終えてブースターを切り離したその機体は全長三十メートル、直径二メートルのシリンダー状。
 その形状をカタログと照合したところ一致する機体が見つかった。
 CFCがの私設宇宙軍がよく使っているSR76型無人偵察艇。
 その機体体積のほとんどはエンジンと推進剤タンク。武装は二十メガワット化学ケミカルレーザー砲。
 武装は大したことないが、問題は……
 サーシャの撃ったグレーザー砲は氷塊に隠れていた無人戦闘艇を氷塊ごと蒸発させた。
 これで七機目。
 問題は数がちょっと多かったことだ。低武装とはいっても十機も来られてはちょっとやっかい。おかげでかなりの時間を浪費してしまった。
 七機目の敵を倒した後《リゲタネル》は直ちにリングの中に隠れる。さっきまで《リゲタネル》のいたあたりに浮いていた氷の塊が蒸発する。戦闘艇からの攻撃だ。
 それにしても何もないところで襲われたら危なかった。咄嗟に第五惑星のリングの中に隠れたのは正解だったようだ。
 この戦闘艇の最大の強みはスピード。だが、小さな岩や氷が無数に漂っているリングの中ではその強みが生かせない。
 あたし達は岩や氷を、時には羊飼い衛星を盾にとって逃げ回り、戦闘艇を一機ずつ各個撃破していった。
「船長。時間がかかりすぎじゃ」
 あたしは少し苛立ち気味に教授をにらみつけた。
「分かってます」
「いや、別に非難しているわけではない。恐らくこの戦闘艇は時間稼ぎだと思うんじゃ」
 それも分かっているって。
 この惑星系に巨大な赤外線源が近づいてきているのは分かっていた。間違えなくマーフィの《ファイヤー・バード》だ。
 ブースターと推進剤タンクをありったけ付けて追いかけて来たに違いない。それでも追いつけそうにないので、先に戦闘艇を送り込んであたし達の足止めにしているんだろう。
 目的地は目と鼻の先だというのに。
「あの戦闘艇、大気圏突入能力はなさそうじゃ。この際、思い切ってリングから出てあそこへ逃げ込んでみないか」
 教授の指差す先にそれはあった。
 宇宙空間に浮かぶ縞模様の大地のように見えるリング。そのリングによって下半分を隠されているオレンジ色の巨大な衛星。
 そこがあたし達の目的地だ。
 そう。一ヵ月半前にあたしと栗原さんがメタンクラゲに追い回された衛星。
 あの時はメタンクラゲに追い回されて天測をする余裕もなく逃げ出した。そのために衛星の位置を特定できなかったが、まさかこんなところにあったなんて。
 ワームホールはどこにつながるか予想できない。しかし、何かの法則性があるのかもしれない。
 ある人の説によれば、ワームホールを最初に観測した人の思いがつながる場所を決定するという。もちろん根拠のない俗説だ。
 でも、あたしはその説が正しいような気がしてきた。
 猫の惑星につながったワームホールも、メタンクラゲの衛星につながったワームホールも、最初にファイバースコープで観測したのはあたしだった。
 二つのワームホールが同じ恒星系につながったのはあたしの思いが作用したからだろうか?
 あるいは……
 あたしは小箱を開きトロトン・ナツメにもらった桃色水晶を眺めた。
「ねえ、サーシャ」
「なに?」
「この恒星系につながったロシア側のワームホールは、誰が最初にファイバースコープで観測したの?」
「私だけど。なにか?」
「ごめん。なんでもないの」
「変なの」
 助けを求める猫達の切実な思いが、あたしとサーシャをこの恒星系に呼び寄せたのだろうか?
 でも、だとするとなぜカペラには……いや、つながるわけがないんだ。
 あたしは相手町に帰りたいと思いながらも、心の底で相手町の惨状を見るのを恐れていた。その恐れが、今までカペラへのワームホールを開けなかった? 
 では今回開けたのはなぜ?
 今回はキラー衛星に追われ、あたしは死を覚悟した。その時あたしは相手町に戻りたい、死ぬ前にもう一度見たいと切実に思った。
 その思いが、恐れに打ち勝ってワームホールをカペラにつなげた?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

天使

平 一
SF
〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!?〟 異星人との接触を描く『降りてきた天使』を、再び改稿・改題しました。 次の作品に感動し、書きました。 イラスト: 『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898 『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286 『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772 『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307 動画: 『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1 奇想譚から文明論まで湧き出すような、 素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。 神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。 特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。 しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、 様々な厄災も自己責任となりつつあります。 どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、 自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。 不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。 豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。 情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。 人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、 人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、 全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。 日本には、『泣いた赤鬼』という物語もあります。 その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。 後には漫画『デビルマン』やSF『幼年期の終わり』を読んで、 人類文明の未来についても考えるようにもなりました。 そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。 ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、 エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...