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第五章 襲来
もう一つの時空穿孔船
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「サーシャ。変化はあった?」
サーシャが振り向く。
「奴らもキラー衛星を送り込んできたわ。ロシア側にいた円盤タイプは全滅。シリンダータイプがとうとうグレーザー砲を使って、なんとかキラー衛星も全滅したけど、次が来たら……」
「日本側のワームホールにいたキラー衛星は?」
「今、ロシア側の方に向かっているけど間に合うかどうか」
「いや、間に合うぞ」
「え?」
教授の指差す先で、ロシア側ワームホールが圧壊していた。
グレーザー砲の影響で時空管が壊れたんだ。
とにかく、これでしばらく時間が稼げそうね。
「船長。今のうちにチャフをつめたミサイルを向こうに送り込んだらどうだろう?」
教授の言うミサイルと言うのは、ステーションにあった無人貨物船を改造した物のことを言ってる。ここに来るときに一緒に来た大型貨物船に積んであるのだ。
さっきあたし達が惑星に降りたシャトルもあれに積んであったのだ。
ちなみにシャトルの方は、すでにロボットが分解して貨物船に積み戻してある。
「チャフを積めたミサイルなんかあったんですか?」
「ステーションにいるとき、ついでに作っておいた。役に立つかもしれんと思ってな」
「いえ、かなり役に立ちます。よく用意しておいてくれました」
あたしは早速ロボットに指示を出してミサイルをワームホールの外に運び出した。
もちろんワームホールの正面にいられては邪魔なので、ミサイルのAIに指示を与えて数秒間だけ加速させた。今は慣性航行でワームホールから少しずつ遠ざかっている。
「慧、反物質は?」
「あと少し。十分後には時空穿孔機が使える」
よし、十分持ちこたえれば……
「船長。ちょっと見てくれ」
教授がディスプレイを指差す。
「プローブが妙なビーコンをキャッチしたんじゃ」
「どのプローブです?」
「外惑星に向かった奴じゃ」
そういえば、そんな物もあったわね。
「微弱な電波なので、ここまで近づくまでキャッチできんかった」
「教授。申し訳ないですが、今は探査活動をしているときでは……」
「いや、分かっている。しかし、こんなところからビーコンが来るなんておかしいと思わんか? どうもプローブのような物から発している認識ビーコンのようじゃが」
「プローブ?」
「ああ。地球で使われているビーコンのようじゃ。ひょっとして。ワシらの他にも、この恒星系に誰かがいるのではないのか?」
「誰かって?」
そういえば、ロシアの基地が陥落前にキラー衛星を送り込んでいたけど、そのキラー衛星がただの嫌がらせとかヤケクソとかではなく、こっちへ来たロシア人が追撃を阻むために置いていったとしたら……
いや、だからと言ってあんな遠くの惑星になんの用があるんだろう?
あたしは外惑星の映像を拡大してみた。
木星のような縞模様の惑星を、土星よりも大きな輪が回っている。それは輪というより降着円盤といったレベルの規模だ。
「来たわ!!」
あたしの思考をサーシャの叫びが中断させる。
「ワームホール開いたわよ! あら?」
「どうしたの?」
「開いたと思ったら、すぐに閉じちゃった。これは?」
そこにはさっきまでいなかった宇宙船が存在していた。
これって、まさか?
「慧、あの船に一番近いプローブの映像を出して」
「了解」
映像が出た。
そこにいたのは《リゲタネル》とよく似た船だった。いや、形状だけではない。
船首には時空穿孔機が付いている。
「教授、これってどういう事です? なんで《リゲタネル》以外にも時空穿孔船があるんですか?」
「ううむ」
あたしの問いかけに教授は答えず、うなり声を上げる。
「美陽。船名が読み取れるわよ。《ファイヤー・バード》だって」
「《ファイヤー・バード》!?」
「知ってるの?」
「《楼蘭》でマーフィが乗っていた船が《ファイヤー・バード》だったわ」
「じゃあ、あの船にはマーフィが乗っているの?」
「マーフィじゃと」
さっきから黙って考え込んでいた教授がようやく口を開く。
「そうか、向こうにマーフィがいるなら、あれがあっても不思議はない」
「どういう事です?」
「時空穿孔船のアイデアは二十年前にワシが考えたものじゃ。マーフィもその時論文を見ていた。その時の資料をコピーして持っていたのじゃろ」
「二十年も前から?」
「ああ。しかし当時のエキゾチック物質の価格は現在の百倍はしていたので製造はあきらめたんじゃ」
「見て。キラー衛星が」
慧の指差す先で、キラー衛星が《ファイヤー・バード》に向かって猛然と加速を開始した。
頑張れキラー衛星!
負けるなキラー衛星!
勝たなくていいから、相打ちに持ち込んで。
残念ながらあたしの都合のいい願いは、天に届かなかったようだ。
《ファイヤー・バード》の発射した八発のミサイルは、キラー衛星群をあっさりと撃破してしまった
最後にはシリンダータイプがグレーザー砲を撃って残りのミサイルを破壊したが、さしものガンマ線レーザーもはるか射程外にいる《ファイヤー・バード》には届かなかった。キラー衛星を撃破した後も《ファイヤー・バード》は加速を続ける。
どこへ行く気だ?
やがて《ファイヤー・バード》は慣性航法に入った。その先にあるのは……
日本側のワームホール! あたし達の逃げ道を塞ぐ気だ。
「慧、時空穿孔機は?」
「まだ後一分」
「く!」
間に合わない。
《ファイヤー・バード》はミサイルを二発発射した。
いったい何発あるんだ?
《リゲタネル》と同種の船なら、そんなに多量のミサイルが積めるとは思えないけど……
「美陽! 時空穿孔機準備できたよ」
慧がそういったときには、ミサイルはワームホールの寸前まで来ていた。
「もう遅いわ」
「え?」
さっきまでプローブが受信していたマーカーのビーコンが途絶えた。マーカーそのものは壊れていないが、ミサイルでビーコン発信機が破壊されたのだ。
これでは向こうに行っても《楼蘭》へのワームホールを開けない。
あたし達の逃げ道は断たれた。
サーシャが振り向く。
「奴らもキラー衛星を送り込んできたわ。ロシア側にいた円盤タイプは全滅。シリンダータイプがとうとうグレーザー砲を使って、なんとかキラー衛星も全滅したけど、次が来たら……」
「日本側のワームホールにいたキラー衛星は?」
「今、ロシア側の方に向かっているけど間に合うかどうか」
「いや、間に合うぞ」
「え?」
教授の指差す先で、ロシア側ワームホールが圧壊していた。
グレーザー砲の影響で時空管が壊れたんだ。
とにかく、これでしばらく時間が稼げそうね。
「船長。今のうちにチャフをつめたミサイルを向こうに送り込んだらどうだろう?」
教授の言うミサイルと言うのは、ステーションにあった無人貨物船を改造した物のことを言ってる。ここに来るときに一緒に来た大型貨物船に積んであるのだ。
さっきあたし達が惑星に降りたシャトルもあれに積んであったのだ。
ちなみにシャトルの方は、すでにロボットが分解して貨物船に積み戻してある。
「チャフを積めたミサイルなんかあったんですか?」
「ステーションにいるとき、ついでに作っておいた。役に立つかもしれんと思ってな」
「いえ、かなり役に立ちます。よく用意しておいてくれました」
あたしは早速ロボットに指示を出してミサイルをワームホールの外に運び出した。
もちろんワームホールの正面にいられては邪魔なので、ミサイルのAIに指示を与えて数秒間だけ加速させた。今は慣性航行でワームホールから少しずつ遠ざかっている。
「慧、反物質は?」
「あと少し。十分後には時空穿孔機が使える」
よし、十分持ちこたえれば……
「船長。ちょっと見てくれ」
教授がディスプレイを指差す。
「プローブが妙なビーコンをキャッチしたんじゃ」
「どのプローブです?」
「外惑星に向かった奴じゃ」
そういえば、そんな物もあったわね。
「微弱な電波なので、ここまで近づくまでキャッチできんかった」
「教授。申し訳ないですが、今は探査活動をしているときでは……」
「いや、分かっている。しかし、こんなところからビーコンが来るなんておかしいと思わんか? どうもプローブのような物から発している認識ビーコンのようじゃが」
「プローブ?」
「ああ。地球で使われているビーコンのようじゃ。ひょっとして。ワシらの他にも、この恒星系に誰かがいるのではないのか?」
「誰かって?」
そういえば、ロシアの基地が陥落前にキラー衛星を送り込んでいたけど、そのキラー衛星がただの嫌がらせとかヤケクソとかではなく、こっちへ来たロシア人が追撃を阻むために置いていったとしたら……
いや、だからと言ってあんな遠くの惑星になんの用があるんだろう?
あたしは外惑星の映像を拡大してみた。
木星のような縞模様の惑星を、土星よりも大きな輪が回っている。それは輪というより降着円盤といったレベルの規模だ。
「来たわ!!」
あたしの思考をサーシャの叫びが中断させる。
「ワームホール開いたわよ! あら?」
「どうしたの?」
「開いたと思ったら、すぐに閉じちゃった。これは?」
そこにはさっきまでいなかった宇宙船が存在していた。
これって、まさか?
「慧、あの船に一番近いプローブの映像を出して」
「了解」
映像が出た。
そこにいたのは《リゲタネル》とよく似た船だった。いや、形状だけではない。
船首には時空穿孔機が付いている。
「教授、これってどういう事です? なんで《リゲタネル》以外にも時空穿孔船があるんですか?」
「ううむ」
あたしの問いかけに教授は答えず、うなり声を上げる。
「美陽。船名が読み取れるわよ。《ファイヤー・バード》だって」
「《ファイヤー・バード》!?」
「知ってるの?」
「《楼蘭》でマーフィが乗っていた船が《ファイヤー・バード》だったわ」
「じゃあ、あの船にはマーフィが乗っているの?」
「マーフィじゃと」
さっきから黙って考え込んでいた教授がようやく口を開く。
「そうか、向こうにマーフィがいるなら、あれがあっても不思議はない」
「どういう事です?」
「時空穿孔船のアイデアは二十年前にワシが考えたものじゃ。マーフィもその時論文を見ていた。その時の資料をコピーして持っていたのじゃろ」
「二十年も前から?」
「ああ。しかし当時のエキゾチック物質の価格は現在の百倍はしていたので製造はあきらめたんじゃ」
「見て。キラー衛星が」
慧の指差す先で、キラー衛星が《ファイヤー・バード》に向かって猛然と加速を開始した。
頑張れキラー衛星!
負けるなキラー衛星!
勝たなくていいから、相打ちに持ち込んで。
残念ながらあたしの都合のいい願いは、天に届かなかったようだ。
《ファイヤー・バード》の発射した八発のミサイルは、キラー衛星群をあっさりと撃破してしまった
最後にはシリンダータイプがグレーザー砲を撃って残りのミサイルを破壊したが、さしものガンマ線レーザーもはるか射程外にいる《ファイヤー・バード》には届かなかった。キラー衛星を撃破した後も《ファイヤー・バード》は加速を続ける。
どこへ行く気だ?
やがて《ファイヤー・バード》は慣性航法に入った。その先にあるのは……
日本側のワームホール! あたし達の逃げ道を塞ぐ気だ。
「慧、時空穿孔機は?」
「まだ後一分」
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