時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
32 / 55
第五章 襲来

もう一つの時空穿孔船

しおりを挟む
「サーシャ。変化はあった?」
 サーシャが振り向く。
「奴らもキラー衛星を送り込んできたわ。ロシア側にいた円盤タイプは全滅。シリンダータイプがとうとうグレーザー砲を使って、なんとかキラー衛星も全滅したけど、次が来たら……」
「日本側のワームホールにいたキラー衛星は?」
「今、ロシア側の方に向かっているけど間に合うかどうか」
「いや、間に合うぞ」
「え?」
 教授の指差す先で、ロシア側ワームホールが圧壊していた。
 グレーザー砲の影響で時空管が壊れたんだ。
 とにかく、これでしばらく時間が稼げそうね。
「船長。今のうちにチャフをつめたミサイルを向こうに送り込んだらどうだろう?」
 教授の言うミサイルと言うのは、ステーションにあった無人貨物船を改造した物のことを言ってる。ここに来るときに一緒に来た大型貨物船に積んであるのだ。
 さっきあたし達が惑星に降りたシャトルもあれに積んであったのだ。
 ちなみにシャトルの方は、すでにロボットが分解して貨物船に積み戻してある。
「チャフを積めたミサイルなんかあったんですか?」
「ステーションにいるとき、ついでに作っておいた。役に立つかもしれんと思ってな」
「いえ、かなり役に立ちます。よく用意しておいてくれました」
 あたしは早速ロボットに指示を出してミサイルをワームホールの外に運び出した。
 もちろんワームホールの正面にいられては邪魔なので、ミサイルのAIに指示を与えて数秒間だけ加速させた。今は慣性航行でワームホールから少しずつ遠ざかっている。
「慧、反物質は?」
「あと少し。十分後には時空穿孔機が使える」
 よし、十分持ちこたえれば……
「船長。ちょっと見てくれ」
 教授がディスプレイを指差す。
「プローブが妙なビーコンをキャッチしたんじゃ」
「どのプローブです?」
「外惑星に向かった奴じゃ」
 そういえば、そんな物もあったわね。
「微弱な電波なので、ここまで近づくまでキャッチできんかった」
「教授。申し訳ないですが、今は探査活動をしているときでは……」
「いや、分かっている。しかし、こんなところからビーコンが来るなんておかしいと思わんか? どうもプローブのような物から発している認識ビーコンのようじゃが」
「プローブ?」
「ああ。地球で使われているビーコンのようじゃ。ひょっとして。ワシらの他にも、この恒星系に誰かがいるのではないのか?」
「誰かって?」
 そういえば、ロシアの基地が陥落前にキラー衛星を送り込んでいたけど、そのキラー衛星がただの嫌がらせとかヤケクソとかではなく、こっちへ来たロシア人が追撃を阻むために置いていったとしたら……
 いや、だからと言ってあんな遠くの惑星になんの用があるんだろう?
 あたしは外惑星の映像を拡大してみた。
 木星のような縞模様の惑星を、土星よりも大きな輪が回っている。それは輪というより降着円盤といったレベルの規模だ。
「来たわ!!」
 あたしの思考をサーシャの叫びが中断させる。
「ワームホール開いたわよ! あら?」
「どうしたの?」
「開いたと思ったら、すぐに閉じちゃった。これは?」
 そこにはさっきまでいなかった宇宙船が存在していた。
 これって、まさか?
「慧、あの船に一番近いプローブの映像を出して」
「了解」
 映像が出た。
 そこにいたのは《リゲタネル》とよく似た船だった。いや、形状だけではない。
 船首には時空穿孔機が付いている。
「教授、これってどういう事です? なんで《リゲタネル》以外にも時空穿孔船があるんですか?」
「ううむ」
 あたしの問いかけに教授は答えず、うなり声を上げる。
「美陽。船名が読み取れるわよ。《ファイヤー・バード》だって」
「《ファイヤー・バード》!?」
「知ってるの?」
「《楼蘭》でマーフィが乗っていた船が《ファイヤー・バード》だったわ」
「じゃあ、あの船にはマーフィが乗っているの?」
「マーフィじゃと」
 さっきから黙って考え込んでいた教授がようやく口を開く。
「そうか、向こうにマーフィがいるなら、あれがあっても不思議はない」
「どういう事です?」
「時空穿孔船のアイデアは二十年前にワシが考えたものじゃ。マーフィもその時論文を見ていた。その時の資料をコピーして持っていたのじゃろ」
「二十年も前から?」
「ああ。しかし当時のエキゾチック物質の価格は現在の百倍はしていたので製造はあきらめたんじゃ」
「見て。キラー衛星が」
 慧の指差す先で、キラー衛星が《ファイヤー・バード》に向かって猛然と加速を開始した。
 頑張れキラー衛星!
 負けるなキラー衛星!
 勝たなくていいから、相打ちに持ち込んで。
 残念ながらあたしの都合のいい願いは、天に届かなかったようだ。
 《ファイヤー・バード》の発射した八発のミサイルは、キラー衛星群をあっさりと撃破してしまった
 最後にはシリンダータイプがグレーザー砲を撃って残りのミサイルを破壊したが、さしものガンマ線レーザーもはるか射程外にいる《ファイヤー・バード》には届かなかった。キラー衛星を撃破した後も《ファイヤー・バード》は加速を続ける。
 どこへ行く気だ?
 やがて《ファイヤー・バード》は慣性航法に入った。その先にあるのは……
 日本側のワームホール! あたし達の逃げ道を塞ぐ気だ。
「慧、時空穿孔機は?」
「まだ後一分」
「く!」
 間に合わない。
 《ファイヤー・バード》はミサイルを二発発射した。
 いったい何発あるんだ?
 《リゲタネル》と同種の船なら、そんなに多量のミサイルが積めるとは思えないけど……
「美陽! 時空穿孔機準備できたよ」
 慧がそういったときには、ミサイルはワームホールの寸前まで来ていた。
「もう遅いわ」
「え?」
 さっきまでプローブが受信していたマーカーのビーコンが途絶えた。マーカーそのものは壊れていないが、ミサイルでビーコン発信機が破壊されたのだ。
 これでは向こうに行っても《楼蘭》へのワームホールを開けない。
 あたし達の逃げ道は断たれた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

名前を棄てた賞金首

天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。 しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。 鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。 二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。 そこで二人を待っていた事件とは――? カクヨムにて公開中の作品となります。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

天使

平 一
SF
〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!?〟 異星人との接触を描く『降りてきた天使』を、再び改稿・改題しました。 次の作品に感動し、書きました。 イラスト: 『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898 『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286 『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772 『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307 動画: 『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1 奇想譚から文明論まで湧き出すような、 素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。 神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。 特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。 しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、 様々な厄災も自己責任となりつつあります。 どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、 自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。 不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。 豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。 情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。 人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、 人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、 全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。 日本には、『泣いた赤鬼』という物語もあります。 その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。 後には漫画『デビルマン』やSF『幼年期の終わり』を読んで、 人類文明の未来についても考えるようにもなりました。 そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。 ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、 エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。

処理中です...