時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第四章 閉ざされた恒星系

十六年前

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「何から話していいことやら、十六年前、私達は宇宙省の命令でこの惑星の月にワームホールステーションを作っていました。ステーションと言っても、私達が開いたワームホールは二年もかけてたったの四つだけ。エネルギーの確保が難しくてそれが精一杯でした。そして、四つ目のワームホールを開いた時、送り込んだ三人の調査官がいつまで経っても帰ってこなかったのです」
 慧のお母さんの話は、その後延々と続いた。
 帰ってこない調査官を探すため、救助隊を出そうかと相談している矢先、ワームホールから数名の見知らぬ人達が出てきたのだ。
 調査官二名の遺体を持って。
 開いたワームホールの先にあった恒星系は、彼らが先に開発していたらしい。
 彼らは自分の所属を明らかにしなかった。人種も西洋人、東洋人、アフリカ人と混じっていて開発国も特定できなかった。
 そして彼らの話によると、三人の調査官は惑星に降下した後、その惑星の野生動物に襲われ命を落としたというのだ。
「でも、おかしな話でした。調査官は三人いたはずなのに一人の遺体がない事もそうですが、彼らが使っていた宇宙船には、大気圏突入能力はなかったんです。その点を指摘すると、今度は自分達がシャトルを貸したと言ってきたのです。最初は調査官が無断で惑星に降りたみたいな事を言っていた筈なのに」
 その後《オオトリ》は、調査官の亡骸を遺族の元へ運ぶため一度月を離れたのである。
 ところが宇宙ステーションに待機していた《オオトリ》の元に緊急連絡が届いた。
 彼らが勝手にワームホールを拡張しているというのである。
 慧の親父さんは、葬儀に出席するために地表にいたので《オオトリ》は船長不在のまま出航したのだ。
 月に到着してみるとワームホールは直径三十メートルにまで拡張されていた。そしてそのワームホールを抜けて一隻の船が入ってきたのだ。
 その船は、緊急で地球に運ぶ荷物があるので相手町のワームホールを使いたいと言ってきた。相手町のワームホールの向こうは日本国領土なので通行は許可できないと断ったのだが、向こうは日本国政府と交渉中なので許可が下りるまで相手町の空港で待機したいと言うのだ。
 植民地政府は《オオトリ》の臨検を受けること、所属を明らかにする事を条件に許可を出した。
 そこにいたって彼らはようやく自分達の素性を明かした。彼らはどっかの国家の宇宙開発機関ではなく、民間の宇宙開発企業CFCの社員達だったのである。
 ワームホールの先にある恒星系はCFCが開発していたのだ。
「その後、船を臨検しましたが特に怪しい物はありませんでした。ただ、積荷のエキゾチック物質に妙な加工がされてました。球状に成型されたエキゾチック物質に、マイクロブラックホールが入っていたのです」
 それって!?
「彼らの説明では、ブラックホールはエキゾチック物質を地上に降ろしやすくするためのバラストだというのです」
 違う。それはバラストなんかじゃない。
「それ以外は特に怪しいものはなく、私は通行を許してしまったのです。それがとんでもない間違いでした。その積荷は時空管を破壊する装置だったのです」
「いつ、それが分かったのです?」
「相手町が消滅した後です。美陽ちゃん、あなたのお父さんに積荷の事を話したのよ。佐竹さんはその装置を知っていました。以前宇宙省に同じ装置を、通信機として売り込みに来た男がいて、でも通信機としては使い物にならないだけでなく、時空管を圧壊させる危険があるので断ったと言ってました」
 日本にも売り込みに来ていたんだ。
「装置を運んできた船長の写真を佐竹さんに見せました。同じ男だったのです。以前宇宙省に装置を売り込みにきた男と」
「その男はどうなったんです?」
「逃げました。船を置いて。逃げる時、軌道エレベーターに細工を施していったのです」
「だからあの時、軌道エレベーターが動かなくなったのね。でも、いったいなんのためにそんな酷い事を?」
「全ては、自分達の犯罪を隠蔽するため」
「え?」
「それが分かったのは、相手町消滅の二日後の事です。月のワームホールステーションから救難信号が届いたので《オオトリ》が駆けつけてみると、行方不明だった調査官だったのです。彼の船は帰りつけたのが不思議なくらいボロボロでした。そして、彼は見たことを話してくれたのです」
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