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第四章 閉ざされた恒星系
慧の母
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微かに遠くからローターの音が聞こえてきた。
音の方に視線を向ける。
地平線の上に小さな影が現れた。
影は次第に大きくなり《リゲタネル》になった。
その姿は何度見ても飛行船。しかも今度はゴンドラのような物体が船体からぶら下がっている。 もちろん、ゴンドラなどではなく惑星に降下しやすいようにバラストをつけたのだ。あたし達がシャトルで降下する前に、ステーションで教授はバラストに使えそうな物はないか物色していたからそれを使ったのだろう。
やがて《リゲタネル》は船体四箇所からワイヤー付きぺネトレーターを発射。
ぺネトレーターは地面に刺さり《リゲタネル》はケーブルを手繰り寄せ地表に降りた。
ハッチが開く。
中からサーシャが出てきた。
その後から年配の女性が降りてくる。
年の頃は五十代だろうか?
白いものが混じった髪は後にまとめられ、顔には化粧っ気がない。服装も地味なツナギの作業服。
でも、あたしはこの人の顔に見覚えがあった。
「母さん? 母さんなの?」
慧が女性に歩み寄る。
「慧? 慧なのね」
慧はコクリと頷いた。
女性は慧に駆け寄り慧を抱きしめる。
「ちょっと……母さん、恥ずかしいよ」
やはり、慧のお母さん。
生きていたんだ。
いや、当然か。あの時宇宙ステーションにいた人は災難を免れたはず。むしろ慌てて逃げようとしてワームホールに殺到した人達が衝撃波に巻き込まれたのだ。
それじゃあ父は? 父も軌道エレベーターの方にいたから、災難を免れたはず。
肩を叩かれ振り向く。
サーシャだ。
「上で話は付きましたわ。工作船《オオトリ》の乗組員は、私達に協力してくれるそうですわよ」
「《オオトリ》の乗組員? 全員揃っていたの? 十六年も経ってるのに?」
「正確には一人を除いて。《オオトリ》の船長幾島巌だけがいないわ」
「慧の親父さん?」
「十六年前、宇宙ステーションに取り残されていたのはステーションの職員達と《オオトリ》の乗組員達だったのよ。彼女も含めて」
サーシャは慧のお母さんを指し示す。
慧のお母さんが、あたしの方を見ていた。
あたしを見る顔が驚愕している。
「あなた……美陽ちゃんなの? お隣の佐竹美陽ちゃんなの?」
あたしはコクと頷いた。
「なんて事。生きていると分かっていれば、佐竹さんもあんな事には……」
あんなこと!?
「どういう事です? 父に何かあったんですか?」
「佐竹さんは……あなたが死んだと思って、自暴自棄になって……」
自暴自棄? あの父が?
「いったい、父に何があったんです!?」
「美陽、落ち着いて」
サーシャに両肩を押さえられ、あたしは我に帰った。
「美陽。ここでは落ち着かないし、船の中で話を聞かない」
「そうね」
あたし達は《リゲタネル》の中に戻った。
動き出した《リゲタネル》の中で慧のお母さんは十六年前の事件を話し始めた。
音の方に視線を向ける。
地平線の上に小さな影が現れた。
影は次第に大きくなり《リゲタネル》になった。
その姿は何度見ても飛行船。しかも今度はゴンドラのような物体が船体からぶら下がっている。 もちろん、ゴンドラなどではなく惑星に降下しやすいようにバラストをつけたのだ。あたし達がシャトルで降下する前に、ステーションで教授はバラストに使えそうな物はないか物色していたからそれを使ったのだろう。
やがて《リゲタネル》は船体四箇所からワイヤー付きぺネトレーターを発射。
ぺネトレーターは地面に刺さり《リゲタネル》はケーブルを手繰り寄せ地表に降りた。
ハッチが開く。
中からサーシャが出てきた。
その後から年配の女性が降りてくる。
年の頃は五十代だろうか?
白いものが混じった髪は後にまとめられ、顔には化粧っ気がない。服装も地味なツナギの作業服。
でも、あたしはこの人の顔に見覚えがあった。
「母さん? 母さんなの?」
慧が女性に歩み寄る。
「慧? 慧なのね」
慧はコクリと頷いた。
女性は慧に駆け寄り慧を抱きしめる。
「ちょっと……母さん、恥ずかしいよ」
やはり、慧のお母さん。
生きていたんだ。
いや、当然か。あの時宇宙ステーションにいた人は災難を免れたはず。むしろ慌てて逃げようとしてワームホールに殺到した人達が衝撃波に巻き込まれたのだ。
それじゃあ父は? 父も軌道エレベーターの方にいたから、災難を免れたはず。
肩を叩かれ振り向く。
サーシャだ。
「上で話は付きましたわ。工作船《オオトリ》の乗組員は、私達に協力してくれるそうですわよ」
「《オオトリ》の乗組員? 全員揃っていたの? 十六年も経ってるのに?」
「正確には一人を除いて。《オオトリ》の船長幾島巌だけがいないわ」
「慧の親父さん?」
「十六年前、宇宙ステーションに取り残されていたのはステーションの職員達と《オオトリ》の乗組員達だったのよ。彼女も含めて」
サーシャは慧のお母さんを指し示す。
慧のお母さんが、あたしの方を見ていた。
あたしを見る顔が驚愕している。
「あなた……美陽ちゃんなの? お隣の佐竹美陽ちゃんなの?」
あたしはコクと頷いた。
「なんて事。生きていると分かっていれば、佐竹さんもあんな事には……」
あんなこと!?
「どういう事です? 父に何かあったんですか?」
「佐竹さんは……あなたが死んだと思って、自暴自棄になって……」
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「いったい、父に何があったんです!?」
「美陽、落ち着いて」
サーシャに両肩を押さえられ、あたしは我に帰った。
「美陽。ここでは落ち着かないし、船の中で話を聞かない」
「そうね」
あたし達は《リゲタネル》の中に戻った。
動き出した《リゲタネル》の中で慧のお母さんは十六年前の事件を話し始めた。
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