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第四章 閉ざされた恒星系
懐かしい大地
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シャトルが降りたのは相手町から東へ五キロの地点にある小さな滑走路だった。もっと近くにしたかったのだが、シャトルのナビゲーターにはなぜか相手空港が入っていない。
宇宙機の発着が禁止されてるのだろうか?
もどかしいな。
相手町はあの丘の向こうだというのに。
「歩いていこうよ。たった五キロだし」
「そうね」
たった五キロだ。
今まであたし達と相手町を隔てていた四十二・二光年と比べればゼロに等しい距離。
到着予想時間は一時間。
今まで待ち続けた十六年と比べればものの数ではない。
慧の提案に従い歩いていく事にしよう。
天気はよく晴れていた。
南の空にはカペラの二重太陽が輝いている。
季節は春のようだ。
歩くのにちょうど良い。
鼻歌交じりにあたし達は草原に足を踏み出した。
牛に似た草食獣が草を食んでいる。
原住生物のピルルだ。
鳴声からそう名づけられた。
人が近づくとピルルと鳴く。
これはそれ以上近づくなという警告だ。
警告を無視するとピルルは襲ってくる。
だから、ピルルが鳴いたらそれ以上不用意に近づいてはならない。
あたし達はピルルを刺激しないように草原を歩いていった。
草原を四十分ほど歩いてあたし達は丘の麓に付いた。草原はここで終わり、ここから先は森になっている。
一見すると地球の広葉樹林によく似ていた。しかし、地球の森と比べると多様性がない。森の中にはすべて一種類の木しかなかったのである。
実はこの木々の根は竹のように地下茎でつながっていた。つまり、森自体が一本の木なのである。
もちろん、惑星全体がそうなっているのではなく、相手町付近の植生がそうなっていただけで、離れた地域へ行けば他の種類の木々も生い茂っている。
この森を抜けると相手町だ。
「ねえ、この森って」
慧がきょろきょろ見回す。
「最後の日に僕達がミルミルの実を摘んでいたところじゃない?」
「そうだわ! この森よ」
この森で道に迷い、慧の親父さんの運転するバギーに拾われたのはこの辺り。
そうか!
あの時、あたしは町とは逆方向に降りてしまったんだ。
今後こそは間違えない。
森の中を走り出した。
慧も後ろから着いてくる。
しばらく走ってあたしは立ち止まる。
目の前の樹木に寄生植物の蔓が巻きつき赤い蜜柑ほどの大きさの実をつけていた。
ミルミルだ。
あたしは実をもぎ取る。
臭いを嗅ぎ、かぶりついた。
ほんのりと甘い果汁が口中一杯に広がる。
この味だ。ずっと夢にまで見たミルミルの味だ。
あたしの舌はこの味を忘れていなかった。
じわっと涙があふれてくる。
あたしは帰って来たんだ。
懐かしい星に帰って来たんだ。
もうすぐ、懐かしいみんなに会えるんだ。
振り返ると慧もミルミルを貪っていた。
口の周りに果汁を一杯つけて。
「慧」
「何?」
「お口の周り髭だらけよ」
あたしはハンカチで慧の顔を拭いてやる。
「美陽だって」
慧もあたしの顔を拭き返した。
昔もこんな事をしたっけ。
でもあの時はあたしの方が慧より背が高かった。
慧の顔を拭くためにあたしは屈みこまなきゃならなかった。今は逆に背伸びをしなきゃならない。
いつの間にあたしは慧に背を抜かれたんだろう?
「行こうか。慧。みんなのところへ」
「うん」
あたし達は手をつないで森の中を歩き始める。
尾根を越えて道が下りになる。
森はもうすぐ途切れる。
小川のせせらぎが聞こえてきた。
そしてあたし達は森を抜けた。
宇宙機の発着が禁止されてるのだろうか?
もどかしいな。
相手町はあの丘の向こうだというのに。
「歩いていこうよ。たった五キロだし」
「そうね」
たった五キロだ。
今まであたし達と相手町を隔てていた四十二・二光年と比べればゼロに等しい距離。
到着予想時間は一時間。
今まで待ち続けた十六年と比べればものの数ではない。
慧の提案に従い歩いていく事にしよう。
天気はよく晴れていた。
南の空にはカペラの二重太陽が輝いている。
季節は春のようだ。
歩くのにちょうど良い。
鼻歌交じりにあたし達は草原に足を踏み出した。
牛に似た草食獣が草を食んでいる。
原住生物のピルルだ。
鳴声からそう名づけられた。
人が近づくとピルルと鳴く。
これはそれ以上近づくなという警告だ。
警告を無視するとピルルは襲ってくる。
だから、ピルルが鳴いたらそれ以上不用意に近づいてはならない。
あたし達はピルルを刺激しないように草原を歩いていった。
草原を四十分ほど歩いてあたし達は丘の麓に付いた。草原はここで終わり、ここから先は森になっている。
一見すると地球の広葉樹林によく似ていた。しかし、地球の森と比べると多様性がない。森の中にはすべて一種類の木しかなかったのである。
実はこの木々の根は竹のように地下茎でつながっていた。つまり、森自体が一本の木なのである。
もちろん、惑星全体がそうなっているのではなく、相手町付近の植生がそうなっていただけで、離れた地域へ行けば他の種類の木々も生い茂っている。
この森を抜けると相手町だ。
「ねえ、この森って」
慧がきょろきょろ見回す。
「最後の日に僕達がミルミルの実を摘んでいたところじゃない?」
「そうだわ! この森よ」
この森で道に迷い、慧の親父さんの運転するバギーに拾われたのはこの辺り。
そうか!
あの時、あたしは町とは逆方向に降りてしまったんだ。
今後こそは間違えない。
森の中を走り出した。
慧も後ろから着いてくる。
しばらく走ってあたしは立ち止まる。
目の前の樹木に寄生植物の蔓が巻きつき赤い蜜柑ほどの大きさの実をつけていた。
ミルミルだ。
あたしは実をもぎ取る。
臭いを嗅ぎ、かぶりついた。
ほんのりと甘い果汁が口中一杯に広がる。
この味だ。ずっと夢にまで見たミルミルの味だ。
あたしの舌はこの味を忘れていなかった。
じわっと涙があふれてくる。
あたしは帰って来たんだ。
懐かしい星に帰って来たんだ。
もうすぐ、懐かしいみんなに会えるんだ。
振り返ると慧もミルミルを貪っていた。
口の周りに果汁を一杯つけて。
「慧」
「何?」
「お口の周り髭だらけよ」
あたしはハンカチで慧の顔を拭いてやる。
「美陽だって」
慧もあたしの顔を拭き返した。
昔もこんな事をしたっけ。
でもあの時はあたしの方が慧より背が高かった。
慧の顔を拭くためにあたしは屈みこまなきゃならなかった。今は逆に背伸びをしなきゃならない。
いつの間にあたしは慧に背を抜かれたんだろう?
「行こうか。慧。みんなのところへ」
「うん」
あたし達は手をつないで森の中を歩き始める。
尾根を越えて道が下りになる。
森はもうすぐ途切れる。
小川のせせらぎが聞こえてきた。
そしてあたし達は森を抜けた。
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