時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第四章 閉ざされた恒星系

第四惑星へ

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「私は反対よ」
 あたし達の提案にサーシャは開口一番に反対した。
「何かと思えば昔住んでいた土地を見てきたい? 今がどんな時か分かっているの?」
「分かってるわよ。」
 まあ、反対されるのは分かっていた。
 どうせ十時間も暇があるならちょっとぐらいと思ったのだが、計算してみるとここから第四惑星まで《リゲタネル》の速度で片道十五時間。往復三十時間かかる。
 ちょっとというレベルではない。
 時間が経てば経つほど、CFCがワームホールを開く可能性が高くなる。
 そんな悠長な事はしていられないという事は分かっていた。
 でも、あたしはどうしても行きたい。
 十六年前に失った第二の故郷へ。
 そこへいるはずの父に会いに。
 友達に会いに。 
 あたしだけじゃない。
 慧も同じ気持ちのはずだ。
 だけど慧はあたしよりずっと冷静だった。
「美陽。残念だけど今回は引き上げようよ」
「慧はそれでいいの? お母さんに会いたくないの?」
「会いたいよ。でもさ……」
 慧は押し黙った。
 そうか。慧は怖いんだ。
 それは、あたしも同じ。
 あれほどここへ戻りたいと思っていたのに、実際にここまで来てしまうと、なぜか心の奥底に恐怖が湧いてくる。
 あそこへ行ってはいけないと言う声が心の奥底から聞こえてくるような気がするのだ。
 いったいこの不安はなんなんだろう?
「そうね。ワームホールは開いたんだし、今慌てて会いに行かなくても、いつでも行けるわね」
 あたしがあんまりあっさり折れたせいか、サーシャの方が返って拍子抜けしてしまったようだ。
「あのさ、誤解しないで欲しいんだけど、私は別に意地悪で言ってるわけじゃないからね。こんな事を言ったら『おまえなんかにあたしらの気持ちが分かってたまるか』て言われそうだけど、あなた達が家族に会いたい気持ちだって分かっているつもりよ」
「サーシャ。分かってるわよ」
「本当だからね。悪く思わないでよね」
「大丈夫ですよ。サーシャさん。僕はこんな事であなたを悪く思ったりしません」
「慧君。あなた見かけによらず太っ腹ね。身体はガリガリだけど」
「ええ。僕はサーシャさんの事を最初から悪く思っているので、これ以上悪く思いようがないんです」
 サーシャが顔を引きつらせた。
「可愛くないわね」
 さっきから黙ってコンソールを操作していた教授が突然振り返った。
「取り込み中悪いが、ワシは第四惑星に行くべきだと思う」
「先生。僕達のために」
「いや、そうじゃない。さっきお嬢さん方が……」
「ゴホン」
 あたしはワザとらしく咳払いする。
「じゃなかった。サーシャさんと船長が議論していた戦術をシュミレーションしてみたんだが、まるっきり駄目じゃ。プローブをミサイル代わりに使ってもキラー衛星にはまるっきり歯が立たん。プローブから不要なものを全て取り去っても、得られる加速力はせいぜい二G。一方でシリンダータイプの方は最大二十G。これでは体当たりしようにも、余裕でかわされてしまう」
「でも教授。シリンダータイプはワームホールの前から動かないのでは?」
「それはあくまでも希望的な観測に過ぎん。円盤タイプの方はなんとかグレーザー砲で対処できるが、シリンダータイプがワームホールの前を離れて攻撃に回った場合はどうにもならん」
 あたしはサーシャの方を向き直る。
「サーシャ。あんた本当はキラー衛星にそんなに詳しくなかったんじゃ……」
 考えてみれば詳しかったら「円盤タイプ」とか「シリンダータイプ」とか言わないで正式名称を知っているはず。
「仕方ないわ。私の専門は時空工学よ。兵器の事はそんなに詳しくないわ」
「いや、さっきはあんまり自信たっぷりに説明するから、てっきり専門家かと思っちゃった」
「誤解したのはあなたの勝手よ。私は一度も専門家だなんて言ってないわよ」
 確かに。
「一応、キラー衛星の搭載兵器だけは知っていたわ。加速性能までは知らなかったのよ」
「じゃあ、あれの正式名称は?」
「聞いたけど、忘れたわ」
 という事はサーシャの知識を元に向こうに戻っていたら偉い目に遭ったかも。
「はっきり言って、このままワームホールを越えるのは危険じゃ。そこで、近くに有人惑星があるなら、そこに行って武器に使えそうなものがないか、探してみようと思うのじゃ。どうじゃサーシャさん。まだ反対か?」
「いいえ、そういう事なら賛成ですわ」
「では決まりじゃな。船長、《リゲタネル》を第四惑星に向けよう」
「ええ」
 程なくして《リゲタネル》は第四惑星に進路を取った。
 でもなんだろう?
 さっきからあたしの胸にわだかまる不安は?
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