時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
16 / 55
第三章 猫の惑星

ブービートラップ

しおりを挟む
「なんなの!?」
 サーシャは驚いてキョロキョロする。
「索敵プローブからの通信が入ったら、警報がなるようにセットしておいたのよ」
 あたしは警報を止めた。
「索敵プローブ? まさかワームホールが開いたの?」
 慧がコンソールを操作して索敵プローブのデータを読み取っている。
「違うよ。ワームホールはまだ開いていない。でも、プローブに何かが近づいているんだ」
「何かって何? まさか!?」
 サーシャは何か心当たりがあるみたいね。
「慧、映像を出して」
「今やっている。あ!」
「どうしたの?」
「プローブ一号との通信が途絶えた。攻撃されたらしい」
 攻撃って? いったい何者? まさか他にもワームホールが?
「プローブ二号の映像を出すよ」
 映像が出た。
 明らかに人造物。
 大きさはプローブと変わらない円盤状物体が五機、シリンダー状物体が三機。
 そしてどれもロシア国旗が描かれていた。
「サーシャ! あれはなんなの?」
「キラー衛星よ。まさかあんなものがあったなんて」
「どうしてそんなものが」
「恐らく、東トロヤ基地が陥落する前に基地指令がこっちへ送り込んだのだと思うわ」
「なんですって?」
「CFCがノコノコやってきたら、自動的に攻撃するプログラムがセットされていたと思うの」
「ブービートラップね」
「そうよ」
「円盤とシリンダーは、それぞれどういう役割なの?」
「円盤タイプは近接戦闘タイプ。小型の化学レーザー砲を装備しているわ。シリンダータイプは遠距離攻撃用。武装は一発使い捨てのグレーザー砲よ」
「一発使い捨て? 連続使用できないの?」
「あのグレーザー砲は砲身内で小型核融合爆弾を爆発させ、その時に発生するガンマ線を増幅して打ち出す核グレーザー砲よ。一回でキラー衛星ごと蒸発してしまうけど、その代わり威力が凄いわ」
「核グレーザー砲の有効射程距離は?」
「約二万キロ」
「あちゃー」
 《リゲタネル》のグレーザー砲は連続使用できる代わりに有効射程距離七千キロ。まったく、勝負にならない。
 プローブ二号が円盤タイプに追いかけられている。
 やられるのは時間の問題だ。
 索敵プローブには自衛用の小火器すらないのだから。
 一方でシリンダータイプの一機がロシア側ワームホールの前に陣取った。
 他の二機のシリンダータイプは……
 まずい! 日本側のワームホールに向かっている。
「サーシャ! 攻撃プログラムを解除できないの?」
「さっきからやってるわよ」
 サーシャはさっきから必死でコンソールを操作している。
 キラー衛星とコンタクトしてパスワードを打ち込んでるようだが、エンターキーを押すたびにエラーになっていた。
「まったくあの禿げ親父!! パスワードにいったい何を使ったのよ!?」
 禿げ親父と言うのは東トロヤ基地指令の事かな?
「ねえサーシャ。あんた、ひょっとしてその禿げ親父からセクハラとかされなかった?」
「はあ!? いきなり何言い出すのよ」
「いや、気にいってる女の名前をパスワードにしているかもしれないし」
「う」
 サーシャは思い切り顔をしかめる。
 まあ、そうだろうな。
 あたしだって自分の名前を教授のパソコンのパスワードに使われたら思いっきり嫌だし。
「ないとは言い切れないわね」
 凄く嫌そうにサーシャは自分の名前を打ち込む。
 エンター!
 エラー……
 やっぱり駄目か。
「違うじゃないの!!」
「じゃあ東トロヤ基地の女性士官の名前を、片端から打ち込んでみたら」
 サーシャは渋々と携帯端末を取り出し元同僚の名前を次々と打ち込み始めた。
 そうしてる間にプローブ二号は撃破された。
 一方でシリンダータイプの方は確実に日本側のワームホールとの距離をつめている。
 たぶんシリンダータイプがワームホールを押さえてこっちの逃げ道を塞いだ後、円盤タイプがあたし達を駆り立てるという戦術なんだろう。
「慧、奴より先にワームホールに入れる?」
「無理。その前に射程距離に入る」
 もう計算していたのか。
「サーシャ。パスワードはまだ分からない?」
「思いつくのは全部打ち込んだわ! もうお手上げよ」
 ううむ。無理か。
 そうしている間に、ワームホールは射程内に入ってしまった。
 もう逃げ道はない。
「慧《リゲタネル》を惑星の反対側に」
「遅い。今からやっても追いつかれる」
「ぐ」
 惑星を盾にしようと思ったが手遅れか。
 まてよ。大気圏に入って浮島を盾にすれば。
 いや、駄目だ。
 そんな事をしたら浮島の上に住んでいる現地人……いや、現地猫を巻き添えにしてしまうわ。
「船長。こうなったら仕方ない。ワームホールを開くんじゃ」
 ワームホール? 教授は一体何を?
 あ! そうか。
「慧、時空穿孔機を用意して! ワームホールにもぐるわよ」
「了解!」
 こうなったら仕方がない。
 一か八か新しいワームホールを開く以外にないわ。
 新しいワームホールがどこにつながるかは誰にも予想できない。
 恒星の中に出る可能性もある。
 しかし、その可能性は一パーセント以下。
 一方でこのまま何もしないでいると、あたし達が核グレーザー砲の餌食になるのはほぼ百パーセント。
 どっちを選ぶか考えるまでもない。
「サーシャ」
「なによ?」
「ワームホールの向こうに何があっても、あたしを怨まないでね」
「怨まないわよ。あんたこそ、ワームホールが開く前にグレーザー砲にやられちゃっても私を怨まないでね」
「ええ、怨まないわ」
「ビーム発射十秒前」
 カウントダウンが始まった。
 レーダーを見ると《リゲタネル》がグレーザー砲の射程距離に入るより一秒早くワームホールは開く。
 間に合うか?
 カウントダウンはじりじりと進んでいく。
 一方でキラー衛星も迫ってくる。
 問題はキラー衛星がどのタイミングでグレーザー砲を撃つかだ。
 時空穿孔機がワームホールを開いてから《リゲタネル》が完全にワームホールを抜けるまで三秒かかる。
 もし、キラー衛星が射程ギリギリで撃ってきたら間に合わない。しかし、確実に仕留めようとして三秒以上発射を遅らせれば《リゲタネル》は逃げ切れる。
 あたしは後者にかけた。
 核グレーザー砲は一回しか撃てないだけでなく、撃ったら最後、砲身もキラー衛星も蒸発してしまう。ならば確実に仕留めようとするはずだ。
 カウントダウンがゼロになった。
 ワームホールが開く。
 あたし達は光に包まれた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...