10 / 55
第二章 時空穿孔船
重力波
しおりを挟む
通信機がマーカーの発するビーコンを捕えた。ビーコンのパターンから見て、それが《楼蘭》へつながっていたワームホールのものだと判明。
「慧。マーカーを見つけたわ。ビームの照準を合わせて」
「了解」
慧は慎重に狙いを定めていく。
結局《リゲタネル》が月に戻ってきたのは、ワームホールの圧壊から四十時間が経過してからだった。
そんなに時間がかかったのは八王子のドックで《リゲタネル》に高精度の重力波検出装置を装備していたから。
教授はそんなの物をなんに使うつもりか分からないが、ワームホールを抜けたらすぐに重力波に気をつけろと言っていた。
「照準セット完了。ビーム発射十秒前」
慧はそのままカウントダウンをゼロまで読み上げていく。
ゼロと同時にビーム発射。
眩く輝くワームホールの中に《リゲタネル》は突入していった。
特異点を越える。
そして《リゲタネル》は《楼蘭》から十万キロ離れた宙域に出た。
「先生! 重力波です」
慧が叫んだ。
あたしもディスプレイで確認する。
確かに、微弱な重力波が出ている。
発生源は、そんなに遠くない。
レーダーを向けると、千キロ先に何か物体があった。
「慧。映像を出して」
「うん」
映像が出る。
なにこれ?
明らかに人造物だった。
直径十メートル程の球状物体が、クルクルと回転している。
「先生。スペクトル分析によると、球体の材質は高純度のオスニウムです。でも、質量が特定できません。どうやら、あのオスニウムはエキゾチック物質のようですが、球体内部に高密度の物質があって、お互いの質量を打ち消しあっているようです」
「やはりな」
教授は一人納得したようにつぶやく。
という事は、あれを知っているのか?
「教授、あれは一体なんです?」
「一種の重力波発生器じゃ。エキゾチック物質の球体の中に、マイクロブラックホールが入っている」
「マイクロブラックホール?」
「あの球体には小さな穴がいくつも開いていてな、そこからブラックホールの重力が漏れている。それをあのように回転させる事によって、重力波を人工的に生みだしておるのじゃ」
「先生はあの装置を知ってるんですか?」
「二十年ぐらい前に、ワシの研究室にいた一人の学生が考えた装置じゃ。まさかあれをまた見る事になるとは」
「重力波通信にでも使うのかしら?」
「本人はそのつもりだったらしい。これは普通の重力波通信に使うのでなく、時空管に共鳴を起こさせる事によってワームホールの反対側に信号を送るというものだった」
「だった?」
という事は、うまくいかなかったのかな?
「シミュレーションでは上手くいった。しかし実際に小型の時空管を使った結果は惨たんたるものだった。何度やっても時空管は圧壊してしまい、とても通信に使えるようなものではなかった」
「じゃあ、今回の時空管圧壊はこれが原因なんですね! うちの時空管の欠陥じゃないんですね」
慧の顔がパッと輝く。
「ほぼ間違えない。こいつが原因じゃ」
「よかった。よかった」
「お嬢……いや、船長。早速この事を地球に知らせよう」
「ええ」
あたしは、この事をレポートにまとめる作業にかかった。その間に、慧には船を《楼蘭》に向けてもらう。
十分後、あたしはレポートをレーザー通信で地球に送った。ここから地球までは八十天文単位。十一時間後には届くだろう。
ついでにあたしは《楼蘭》の日本基地にもレポートを送った。
「ところで教授。その学生はその後どうなったんです?
「失意のうちに、ワシの元を去ったよ。その後の消息は知らん。だが、アメリカやロシアの宇宙機関にそれらしき人物が研究を売り込みに来たという噂を聞いた事がある」
「諦めてないんですか?」
「本人は失敗したのは時空管の強度が足りなかったからだと言い張っていた。まあ、確かにワシは安物の時空管しか用意してやれなかったがな」
「ケチねえ。頑丈なのを用意してあげればいいのに」
「いや、時空管に十分な強度があったとしても結果は同じじゃ。例え最初は成功したとしても時空管に余計な負荷をかけ続ければ劣化を早めてしまう。どっちにしろ、使い物にならん」
「そんなものですか?」
「ああ。だが、他の使い道ならある」
「え?」
「通信機ではなく兵器としてならな。実を言うとワシは彼がそれに気がつくのをずっと恐れていた」
「恐れていた事が現実になってしまったんですね」
「そうじゃ」
この人、思ったより、マトモだったんだな。
「慧。マーカーを見つけたわ。ビームの照準を合わせて」
「了解」
慧は慎重に狙いを定めていく。
結局《リゲタネル》が月に戻ってきたのは、ワームホールの圧壊から四十時間が経過してからだった。
そんなに時間がかかったのは八王子のドックで《リゲタネル》に高精度の重力波検出装置を装備していたから。
教授はそんなの物をなんに使うつもりか分からないが、ワームホールを抜けたらすぐに重力波に気をつけろと言っていた。
「照準セット完了。ビーム発射十秒前」
慧はそのままカウントダウンをゼロまで読み上げていく。
ゼロと同時にビーム発射。
眩く輝くワームホールの中に《リゲタネル》は突入していった。
特異点を越える。
そして《リゲタネル》は《楼蘭》から十万キロ離れた宙域に出た。
「先生! 重力波です」
慧が叫んだ。
あたしもディスプレイで確認する。
確かに、微弱な重力波が出ている。
発生源は、そんなに遠くない。
レーダーを向けると、千キロ先に何か物体があった。
「慧。映像を出して」
「うん」
映像が出る。
なにこれ?
明らかに人造物だった。
直径十メートル程の球状物体が、クルクルと回転している。
「先生。スペクトル分析によると、球体の材質は高純度のオスニウムです。でも、質量が特定できません。どうやら、あのオスニウムはエキゾチック物質のようですが、球体内部に高密度の物質があって、お互いの質量を打ち消しあっているようです」
「やはりな」
教授は一人納得したようにつぶやく。
という事は、あれを知っているのか?
「教授、あれは一体なんです?」
「一種の重力波発生器じゃ。エキゾチック物質の球体の中に、マイクロブラックホールが入っている」
「マイクロブラックホール?」
「あの球体には小さな穴がいくつも開いていてな、そこからブラックホールの重力が漏れている。それをあのように回転させる事によって、重力波を人工的に生みだしておるのじゃ」
「先生はあの装置を知ってるんですか?」
「二十年ぐらい前に、ワシの研究室にいた一人の学生が考えた装置じゃ。まさかあれをまた見る事になるとは」
「重力波通信にでも使うのかしら?」
「本人はそのつもりだったらしい。これは普通の重力波通信に使うのでなく、時空管に共鳴を起こさせる事によってワームホールの反対側に信号を送るというものだった」
「だった?」
という事は、うまくいかなかったのかな?
「シミュレーションでは上手くいった。しかし実際に小型の時空管を使った結果は惨たんたるものだった。何度やっても時空管は圧壊してしまい、とても通信に使えるようなものではなかった」
「じゃあ、今回の時空管圧壊はこれが原因なんですね! うちの時空管の欠陥じゃないんですね」
慧の顔がパッと輝く。
「ほぼ間違えない。こいつが原因じゃ」
「よかった。よかった」
「お嬢……いや、船長。早速この事を地球に知らせよう」
「ええ」
あたしは、この事をレポートにまとめる作業にかかった。その間に、慧には船を《楼蘭》に向けてもらう。
十分後、あたしはレポートをレーザー通信で地球に送った。ここから地球までは八十天文単位。十一時間後には届くだろう。
ついでにあたしは《楼蘭》の日本基地にもレポートを送った。
「ところで教授。その学生はその後どうなったんです?
「失意のうちに、ワシの元を去ったよ。その後の消息は知らん。だが、アメリカやロシアの宇宙機関にそれらしき人物が研究を売り込みに来たという噂を聞いた事がある」
「諦めてないんですか?」
「本人は失敗したのは時空管の強度が足りなかったからだと言い張っていた。まあ、確かにワシは安物の時空管しか用意してやれなかったがな」
「ケチねえ。頑丈なのを用意してあげればいいのに」
「いや、時空管に十分な強度があったとしても結果は同じじゃ。例え最初は成功したとしても時空管に余計な負荷をかけ続ければ劣化を早めてしまう。どっちにしろ、使い物にならん」
「そんなものですか?」
「ああ。だが、他の使い道ならある」
「え?」
「通信機ではなく兵器としてならな。実を言うとワシは彼がそれに気がつくのをずっと恐れていた」
「恐れていた事が現実になってしまったんですね」
「そうじゃ」
この人、思ったより、マトモだったんだな。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。
独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす
【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す
【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
月噴水(ムーン・ファンテン)
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。
(この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる