9 / 55
第二章 時空穿孔船
事故現場
しおりを挟む
ワームホールの崩壊現場は無数のデブリが漂い、危険な状態になっていた。この調子では二週間はこのワームホールステーションは使い物にならないだろう、
月面の施設はほとんど地下に作られていたのであまり損害がなかったのが不幸中の幸いだ。
で、なんで《リゲタネル》がここにいるかというと、実は水星から戻ったとき月の警察から教授に呼び出しがかかったのだ。
いったい何をやらかしたのかと思ったらそうではない。
崩壊現場の実況検分に立ち会って欲しいとの事だった。ようするに捜査協力要請だ。
どうやらこの教授、ただのエロジジイではなかったようだ。エキゾチック物質研究の権威だったらしい。
それはいいとして心配なのは慧の方だ。
今回圧壊したのは、シスター工業製ではなかった。なんと幾島時空管製、つまり慧の父親の会社のものだったのだ。
幾島時空管も実は欠陥品を作っていたのではないかという無責任な噂が早くもネットに流れ出し、それを見た慧は卒倒しそうになったのだ。
教授が《リゲタネル》に戻ってきたのはそれから十時間後の事だった。
「よお。遅くなったの」
「教授」「先生、どうでした」
教授はVサインを慧に向ける。
「心配ない。幾島の時空管は完璧じゃ。どの破片を調べてもエキゾチック物質は規定量を満たしている」
「よかったあ」
慧は安堵の表情を見せる。
「だが、安心してはおれんぞ。このままでは幾島の評判はガタ落ちじゃ。一刻も早く原因を突き止めなきゃならん」
教授はあたしの方を振り向く。
「お嬢さん。《リゲタネル》はどうなる事になったんじゃ?」
「宇宙省の方では買い取る事に決まりました」
「そうか、で、あんたはいつ《楼蘭》に出発するんじゃ?」
「準備が出来次第、いつでも出発するように命令されました」
「そうか。よし、幾島君。すぐに地球に戻るぞ。必要な装備を積んだら、すぐに《楼蘭》に出発じゃ」
「え!?」
慧は意外そうな顔をする。
あたしも同感だ。
「ちょっと待ってください。教授は圧壊の原因を突き止めるんじゃなかったんですか?」
「その通りじゃ」
「じゃあどうしてあたしの任務に付き合って《楼蘭》に行くんです? 《楼蘭》はあたしと慧だけで行くから、教授はこちらに残って捜査に協力していれば」
「原因を突き止めるためには《楼蘭》に行く必要があるのじゃ」
「はあ?」
「いいか。今回圧壊したワームホールは《楼蘭》と月をつなぐものじゃ。そしてワシの考えでは月側の出入り口をいくら調べても何も出てこん。原因は《楼蘭》側の出入り口にあるはずじゃ」
「何を根拠に?」
「科学者の感じゃ」
「はあ!?」
「感」て、あんた……それこそ科学者のいう事かよ。
「だからワシはなんとしても《楼蘭》に行かねばならん。そして、ワームホールが圧壊した今、《楼蘭》にいく手立てはこの《リゲタネル》しかない。それともなにか? お嬢さんは公務員のクセに、ワシに協力できんというのか? 協力を拒んでワシを船から降ろすつもりか? どうなんじゃ?」
「いえ、捜査に必要だというなら、いくらでも協力しますよ」
個人的にはイヤだけど……
「では、何も問題はないな。幾島君、地球に向けて出発じゃ」
「はい」
慧は操縦席について発進準備にかかる。
「あの教授。一つ覚えておいて欲しい事があるんですが」
「ん? なんじゃ?」
「この船の所有権は宇宙省に移りました。ですから指揮権はあたしにあります」
「なんじゃ? 勝手に仕切るなと言いたいのか?」
「それもありますが、今後あたしの事を、お嬢さんと呼ぶのはやめて下さい」
「じゃあ、なんて呼ぶんじゃ?」
「船長と呼んでください」
「わかった。お嬢船長」
このジジイ!
「まあ、それはともかく、船長。あんたは今回の圧壊をどう思ってるんじゃ?」
「どうって?」
「ワシの見たところ、これは事故でも自然現象でもない。明らかに犯罪じゃ」
「という事はテロ?」
「もちろんそうだが、犯人はなんのためにこのワームホールを破壊したのかじゃ? 数多くの中から、なぜ《楼蘭》へつながるワームホールが狙われたのか?」
「《楼蘭》と月の間の交通を、妨害するためではないかしら?」
「つまり、《楼蘭》からこっちへ、あるいはこっちから《楼蘭》へ行こうとしている誰かを妨害したかったとは考えられんか?」
それって、つまり。
「あたしが、妨害されているという事ですか?」
「その可能性もあるということじゃ」
「でも、なんのために」
「それはワシには分からん」
「なあんだ」
「仕方あるまい。ワシは船長の目的を知らんのだからな」
「あ!」
そうだった。あたしはまだ、この二人にロシアとの共同調査の事を話していなかった。
「それとも話せるのか? 任務の内容を」
「それは、まだ話せません」
「そうじゃろうな。となると向こうに行って、原因を調べるしかないな」
「教授。さっきは『感』とか言ってたけど、ひょっとして原因に何か心当たりがあるんじゃないですか?」
「実はそうなんじゃが、今は言えん」
月面の施設はほとんど地下に作られていたのであまり損害がなかったのが不幸中の幸いだ。
で、なんで《リゲタネル》がここにいるかというと、実は水星から戻ったとき月の警察から教授に呼び出しがかかったのだ。
いったい何をやらかしたのかと思ったらそうではない。
崩壊現場の実況検分に立ち会って欲しいとの事だった。ようするに捜査協力要請だ。
どうやらこの教授、ただのエロジジイではなかったようだ。エキゾチック物質研究の権威だったらしい。
それはいいとして心配なのは慧の方だ。
今回圧壊したのは、シスター工業製ではなかった。なんと幾島時空管製、つまり慧の父親の会社のものだったのだ。
幾島時空管も実は欠陥品を作っていたのではないかという無責任な噂が早くもネットに流れ出し、それを見た慧は卒倒しそうになったのだ。
教授が《リゲタネル》に戻ってきたのはそれから十時間後の事だった。
「よお。遅くなったの」
「教授」「先生、どうでした」
教授はVサインを慧に向ける。
「心配ない。幾島の時空管は完璧じゃ。どの破片を調べてもエキゾチック物質は規定量を満たしている」
「よかったあ」
慧は安堵の表情を見せる。
「だが、安心してはおれんぞ。このままでは幾島の評判はガタ落ちじゃ。一刻も早く原因を突き止めなきゃならん」
教授はあたしの方を振り向く。
「お嬢さん。《リゲタネル》はどうなる事になったんじゃ?」
「宇宙省の方では買い取る事に決まりました」
「そうか、で、あんたはいつ《楼蘭》に出発するんじゃ?」
「準備が出来次第、いつでも出発するように命令されました」
「そうか。よし、幾島君。すぐに地球に戻るぞ。必要な装備を積んだら、すぐに《楼蘭》に出発じゃ」
「え!?」
慧は意外そうな顔をする。
あたしも同感だ。
「ちょっと待ってください。教授は圧壊の原因を突き止めるんじゃなかったんですか?」
「その通りじゃ」
「じゃあどうしてあたしの任務に付き合って《楼蘭》に行くんです? 《楼蘭》はあたしと慧だけで行くから、教授はこちらに残って捜査に協力していれば」
「原因を突き止めるためには《楼蘭》に行く必要があるのじゃ」
「はあ?」
「いいか。今回圧壊したワームホールは《楼蘭》と月をつなぐものじゃ。そしてワシの考えでは月側の出入り口をいくら調べても何も出てこん。原因は《楼蘭》側の出入り口にあるはずじゃ」
「何を根拠に?」
「科学者の感じゃ」
「はあ!?」
「感」て、あんた……それこそ科学者のいう事かよ。
「だからワシはなんとしても《楼蘭》に行かねばならん。そして、ワームホールが圧壊した今、《楼蘭》にいく手立てはこの《リゲタネル》しかない。それともなにか? お嬢さんは公務員のクセに、ワシに協力できんというのか? 協力を拒んでワシを船から降ろすつもりか? どうなんじゃ?」
「いえ、捜査に必要だというなら、いくらでも協力しますよ」
個人的にはイヤだけど……
「では、何も問題はないな。幾島君、地球に向けて出発じゃ」
「はい」
慧は操縦席について発進準備にかかる。
「あの教授。一つ覚えておいて欲しい事があるんですが」
「ん? なんじゃ?」
「この船の所有権は宇宙省に移りました。ですから指揮権はあたしにあります」
「なんじゃ? 勝手に仕切るなと言いたいのか?」
「それもありますが、今後あたしの事を、お嬢さんと呼ぶのはやめて下さい」
「じゃあ、なんて呼ぶんじゃ?」
「船長と呼んでください」
「わかった。お嬢船長」
このジジイ!
「まあ、それはともかく、船長。あんたは今回の圧壊をどう思ってるんじゃ?」
「どうって?」
「ワシの見たところ、これは事故でも自然現象でもない。明らかに犯罪じゃ」
「という事はテロ?」
「もちろんそうだが、犯人はなんのためにこのワームホールを破壊したのかじゃ? 数多くの中から、なぜ《楼蘭》へつながるワームホールが狙われたのか?」
「《楼蘭》と月の間の交通を、妨害するためではないかしら?」
「つまり、《楼蘭》からこっちへ、あるいはこっちから《楼蘭》へ行こうとしている誰かを妨害したかったとは考えられんか?」
それって、つまり。
「あたしが、妨害されているという事ですか?」
「その可能性もあるということじゃ」
「でも、なんのために」
「それはワシには分からん」
「なあんだ」
「仕方あるまい。ワシは船長の目的を知らんのだからな」
「あ!」
そうだった。あたしはまだ、この二人にロシアとの共同調査の事を話していなかった。
「それとも話せるのか? 任務の内容を」
「それは、まだ話せません」
「そうじゃろうな。となると向こうに行って、原因を調べるしかないな」
「教授。さっきは『感』とか言ってたけど、ひょっとして原因に何か心当たりがあるんじゃないですか?」
「実はそうなんじゃが、今は言えん」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

静寂の星
naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】
深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。
そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。
漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。
だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。
そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。
足跡も争った形跡もない。
ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。
「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」
音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。
この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。
それは、惑星そのものの意志 だったのだ。
音を立てれば、存在を奪われる。
完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか?
そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。
極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。
独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす
【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す
【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
月噴水(ムーン・ファンテン)
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。
(この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

名前を棄てた賞金首
天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。
しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。
鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。
二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。
そこで二人を待っていた事件とは――?
カクヨムにて公開中の作品となります。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
天使
平 一
SF
〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!?〟
異星人との接触を描く『降りてきた天使』を、再び改稿・改題しました。
次の作品に感動し、書きました。
イラスト:
『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898
『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286
『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772
『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307
動画:
『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1
奇想譚から文明論まで湧き出すような、
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。
神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。
特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。
しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、
様々な厄災も自己責任となりつつあります。
どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、
自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。
不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。
豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。
情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。
人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、
人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、
全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。
日本には、『泣いた赤鬼』という物語もあります。
その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。
後には漫画『デビルマン』やSF『幼年期の終わり』を読んで、
人類文明の未来についても考えるようにもなりました。
そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。
ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、
エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる