時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

文字の大きさ
上 下
8 / 55
第二章  時空穿孔船

テスト飛行

しおりを挟む
 《リゲタネル》の中は恐ろしく狭かった。
 おまけに地球上にいるというのに中は無重力状態。船体がエキゾチック物質でできているのだから当然だが、あたしが今まで乗ったことのある宇宙船の中で最悪の居住性と言えた。
 唯一、ブラックホールの近くだけエキゾチック物質の厚みを調整して一Gの重力が作用するスペースが用意されている。そこがこの船の操縦室になっていた。
 あたしはシートについて、メガネ型ディスプレイのFMDを装着した。周囲に戦艦のブリッジを思わせる仮想空間が広がる。
 これって慧の趣味かな?
 草食系男子だと思っていたけど、やっぱり男の子は軍艦とかがが好きなのね。
「美陽」
 声のした方を向くと、マッチョな美青年がそこにいた。慧が仮想空間で使っているアバターだ。昔の映画俳優を元にデザインしたようだが、俳優の名前が思い出せない。
「アバターはどうする?」
「実画像でいいわ。虚像を使うのは匿名掲示板だけで十分よ」
「そう」
「慧もその悪趣味なアバターより実画像の方がいいわよ」
「悪趣味かな? これ。かっこいいと思ったんだけど」
「悪趣味よ。顔は悪くないけど、あたしマッチョって苦手なの」
「そうか。じゃあやめとく」
 アバターが本来の華奢な慧の姿に変わった。
 あんなアバターを選ぶって事は、よっぽどマッチョな体にコンプレックスがあるのね。
「なにが実画像じゃ。幾島君の目は誤魔化せてもワシの目は誤魔化されんぞ」
「なんか文句ありますか? 教授」
 あたしは声の方を振り向く。
 自分こそ何よ、そのアバターは……
 実物の百万倍は威厳のありそうなおじ様が海軍か何かの軍服を着ちゃって…… 
 実物はマッドサイエンティストの癖に。
「確かに顔は実物と変わらんが、胸を実物より大きくしてあるだろ」
 こ……このエロジジイ、余計なことを。いつかセクハラで訴えてやる。
「ちょっ……ちょっと、アバターの設定を間違えただけです」
「ふん。どうだかの」
「そんなことより、慧。船をさっさと出して」
 慧はコンソールを操作する。
 不意に周囲の画像が切り替わった。
 戦艦の艦橋の映像が消えて全周囲が船の外の映像になったのだ。
 何もないところに、コンソールやあたし達が座ったシートが浮いているように見える。
 これがもっとも一般的な仮想バーチャル操縦室コックピットだが、ちょっと違うのはあたし 達が床に対して横倒しになっていること。エキゾチック物質のために船内に地球の重力が作用しておらず、なおかつマイクロブラックホールのある方向が床になっているからだ。
 ドックのハッチが重々しく開いていく。
「補助エンジン始動。《リゲタネル》微速前進」
 慧の厳かな声とともに船はゆっくりと動き出した。 
 ドックを抜けると眼下に甲州街道が見える。
 この光景、飛行船からの眺めに似ている。
 この船の形状からして下から見てもやはり飛行船に見えるんだろうな。
「慧。随分ゆっくりだけど、補助エンジンに何を使っているの?」
「あれだよ」
 慧は足元を指差す。
 足元の方……船体後方に向けたあたしの目に補助エンジンという物が見えた。
「プロペラ?」
 船体から少し離れた位置にあるので全周囲カメラの映像に映ったのだろう。前後左右に四つの突起物が出て、その先に着いたプロペラエンジンが回転している様子が見えた。
 こりゃあますます下から見たら飛行船に見えるわね。
 周囲を見ると、高尾山を登っている登山客がこっちを指さして見ている。
 船は少しずつ上昇しながらしばらく水平方向に進んでいった。
 途中で圏央道を横切る。大垂水峠を越えて相模湖上空まで来たとき、船は船首を真上に向けた。
 プロペラが収納される。
 これからプラズマエンジンに切り替わるようだ。
「メインエンジン始動」
 そのまま《リゲタネル》は加速を開始し、ゆっくりと上昇していった。
 雲を突き抜けて周囲が次第に暗くなっていく。
 宇宙空間に出たようだ。
 《リゲタネル》の宇宙船としての性能は問題ないようだ。
 問題は……
「美陽。このあたりでやってみる?」
「まだだめよ。このあたりは人工衛星や宇宙船が多すぎるわ。もっと、高度を上げて」
「わかった」
 《リゲタネル》はさらに地球から離れていく。途中、JAXAの宇宙ステーションに立ち寄り推進剤の補給を受けて、さらに外宇宙に向かって進む。
やがてレーダーが前方に巨大な構造物を捉える。建設中の対消滅炉《弥勒》だ。
「なあ、お嬢さん。どこまで行くつもりじゃ?」
 いい加減、教授が痺れを切らしてきたようだ。
「もう少しです。見えてきました」
「見えてきた? なにがじゃ」
 教授はきょろきょろしているが、そんな事をしても何も見えはしない。見えているのは通信機のディスプレイ。
 この先の空間から発進しているビーコンだ。
 このあたりにあるはずだと思ってやってきたのだが、予想通りそれはあった。一度開かれた後、時空管を抜かれて閉じたワームホールが……
 ただし、ワームホールには細いエキゾチック物質の棒が差し込まれ完全に閉じてはいない。その棒からは常にビーコンが出ている。
 あたし達がマーカーと呼んでいる装備だ。
「慧。この先にマーカーがあるのは分かるわね」
「うん。分かる」
「そのマーカーに向けてビームを撃って」
「うん。わかった」
「ちょっと待てい!」
 予想通り、教授が抗議してきた。
「マーカーじゃと? なんで以前に誰かが開いたワームホールを使う? そんなことせんでも、新しいワームホールを開けばよいではないか」
「教授、現場の人間として言わせていただきます。教授の言ってる運用方法は無謀かつ危険です。そのような運用は採用するわけにはいきません」
「なんじゃと!! ワシのやり方のどこが無謀で危険だというのじゃ!?」
「教授はこの船のビームで新しいワームホールを開いて、この船ごと入っていくという運用を考えていますね」
「そうじゃ」
「ワームホールの先が恒星の中じゃないという保障はありますか?」
「なに」
「超新星爆発に巻き込まれないという保障はありますか?」
「それは」
「宇宙戦争のまっただ中に出ないという保障はありますか?」
「いちいち、そんな事を心配していてワームホールが使えるか!!」
「いいえ、現場ではいつも細心の注意を払ってワームホールを開いています。始めは小さな穴を開いてファイバースコープで様子を見て、少し穴を広げてから無人探査機を送り込んでいます」
「そ……そこまでやってるのか?」
「無人探査機を送り込んで安全を確認してから、初めて人間を送り込んでいるのです」
 もっとも、この前はそれを省いてしまったためにえらい目にあったわけだが……
 栗原さん今頃どうしているかな?
 もう義手と義足には慣れたかな?
「はっきり言って、いきなり未知のワームホールに、船ごと送り込むなんて危険な運用は認めるわけにはいきません」
「ううむ。言われてみれば確かにそうだった」
 意外と物分りがいいのね。
「よし、ドックに戻ったら早速改造じゃ。調査用ワームホールを開く装備を取り付けるのじゃ」
 うわ!! 立ち直り早すぎ。
「ちょっと待ってください! その改造にどのくらい時間がかかるんです?」
「なに。一ヶ月あれば十分じゃ」
「そんなに待てません!」
「待てんか?」
「待てません」
「せっかちな奴じゃな」
「とにかく、出口の分かっているワームホールなら何も問題はないんです。そして、今私たちのやろうとしているミッションにはそれで十分。改造したいなら、ミッション終了後にしてください」
 まったく疲れる爺さんだ。
「美陽。マーカーが近づいてきたよ。始めていいかい?」
 あたしが教授と議論している間にも慧はもくもくと作業を続けていたようだ。
「いいわ。初めて」
 慧がコンソールを操作する。
「時空穿孔ビームは自動発射体制になったよ」
 程なくして、ビームが発射される。
 ビームは目に見えないが、ビームの命中しているマーカー付近に凄まじい閃光が出現する。ワームホールが開いたのだ。
 光は次第に大きくなっていく。
 《リゲタネル》は光に向かって突き進んでいく。やがて、操縦室は光に包まれた。
 今《リゲタネル》は特異点を通過しているのだ。
 光が治まり《リゲタネル》は別の空間に出た。
「成功じゃ」
 教授は嬉しそうに言う。
「でも、どこに出たんだろう?」
 慧は周囲を見回す。
「うわ! 太陽があんなに大きくなってる」
 慧の指差す先に、フィルターのかかった巨大な太陽の姿があった。
「当然よ。ここは水星軌道なんだから」
 あたしは後を振り返った。
 さっき通ったワームホールが急速に小さくなっていくのが見える。
「慧。ワームホールにマーカーは差し込んだでしょうね?」
「もちろんだよ」
 あたしは通信機をチェックした。
 よし。ちゃんとビーコンは出ているな。
 もし、あのワームホールが閉じてしまったら、えらい事になるところだった。
 間抜けなことに、ワームホールに飛び込む直前まであたしは考えていなかったのだ。《リゲタネル》がワームホールに飛び込んだ場合、先に入っていたマーカーはどうなるのかという事を……
 さっき建設中だった対消滅炉《弥勒》で燃やされる反物質は、将来は水星から運んでくる予定だったのだ。
 その際、反物質を運ぶのにさっきのワームホールが使われる予定だった。
 もし《リゲタネル》のシステムが正常に働かないで、マーカーをワームホールに差し込めなかった場合《弥勒》計画は頓挫していたかもしれない。
 あたしのうっかりミスのために。
 なお、先に入っていたマーカーはワームホールからはじき出されて、はるか先の宙域を漂っていた。
「とにかく、これで《リゲタネル》の能力は十分に証明されました。さっそく、地球に帰りましょう」
 後の買い取り交渉は長官に任せて、あたしは《楼蘭》に戻る準備をしないと。
「地球に帰るだと!? そんな簡単に帰れると思っているのか」
 な……なんだ!? そのマッドサイエンティストみたいな笑みは?
 あ! みたいじゃなくてそのものだったか。
「帰れないってどういう事?」
「まだお嬢さんに話していなかったことがあるのじゃが」
「なんなの?」
「この《リゲタネル》は一度ビームを発射すると」
 ん? まさか?
「次を発射するまで、十時間待たねばならんのじゃ」
「はあ?」
 いや、一瞬そうじゃないかという気はしたが……
「どういう事かしら?」
「僕が説明するね」
 慧が空中にディスプレイを出して、そこに《リゲタネル》の断面図を表示させた。
「船体の真ん中にブラックホールがあるんだけど、凄く小さくて時空穿孔ビームを発射できる出力が得られないんだ」
「じゃあどうしているの?」
「ブラックホールからは常に反物質が発生しているんだ。そこで発生した反陽子アンチプロトンを船首の方に送ってトロイダルコイルの中に蓄積しているんだよ。そして。十分な量が溜まったら、対消滅炉で燃やして時空穿孔ビームのエネルギーを発生させるんだ」
「つまり、反陽子が溜まるのに十時間もかかると」
「まあ、そういうことじゃな」
 あたしは教授の方を向き直る。
「そういう事は早く言わんかあ!!」
「ああ、美陽落ち着いて。暴力はだめだって」
 こうしてあたし達は、水星軌道付近の宙域で退屈な十時間を過ごす事になった。まあ、その間に何もしなかったわけではなく、宇宙省と連絡を取り《リゲタネル》の性能試験の結果を報告したりしていた。
 そして、まもなく十時間が過ぎようという頃、とんでもないニュースが飛び込んできたのだ。
 《楼蘭》につながるワームホールが圧壊したのである。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

静寂の星

naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】 深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。 そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。 漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。 だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。 そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。 足跡も争った形跡もない。 ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。 「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」 音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。 この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。 それは、惑星そのものの意志 だったのだ。 音を立てれば、存在を奪われる。 完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか? そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。 極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。 独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす 【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す 【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す 【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす 【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))

月噴水(ムーン・ファンテン)

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。 (この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

名前を棄てた賞金首

天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。 しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。 鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。 二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。 そこで二人を待っていた事件とは――? カクヨムにて公開中の作品となります。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

天使

平 一
SF
〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!?〟 異星人との接触を描く『降りてきた天使』を、再び改稿・改題しました。 次の作品に感動し、書きました。 イラスト: 『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898 『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286 『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772 『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307 動画: 『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1 奇想譚から文明論まで湧き出すような、 素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。 神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。 特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。 しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、 様々な厄災も自己責任となりつつあります。 どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、 自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。 不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。 豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。 情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。 人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、 人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、 全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。 日本には、『泣いた赤鬼』という物語もあります。 その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。 後には漫画『デビルマン』やSF『幼年期の終わり』を読んで、 人類文明の未来についても考えるようにもなりました。 そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。 ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、 エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。

処理中です...