6 / 55
第二章 時空穿孔船
幾島研究所
しおりを挟む
幾島時空管の本社ビルはお台場にあるが、あたしが向かったのはそこではない。時空管の製造設備がある軌道リングでもない。
研究所がある東京郊外の八王子だ。
その研究所はエキゾチック物質を利用した製品が研究されているらしい。長官の話ではそこの所長が幾島慧だという。
しかし、慧が所長になったのは父親のコネだというのは分かるが、はっきり言って慧は組織の長に収まる器ではない。子供の頃からあたしの後ろを子犬のように付いてくる、どちらかというとたよりない男の子だった。
もう三年以上会っていないが、その間に変わったのだろうか?
「この馬鹿息子が!!」
あたしが研究所の玄関に入った時、最初に聞こえてきたのは幾島社長の罵声だった。
玄関の受付嬢は、あたしが入ってきたことにも気付かないで所長室の方を見てオロオロしている。
どうやら少し遅かったようね。
「宇宙省から来た佐竹ですけど」
あたしに声をかけられ、受付嬢はようやくあたしの存在に気がついたようだ。
「あ! すみません。佐竹様ですね。アポは承っております。けど……」
「社長はいつここへ来たの?」
「一分ほど前ですけど……」
「早く通して。あたしがなだめてくるから」
「お願いします。早くしないと坊ちゃんが……いえ、所長が殺されちゃいます」
まあ、それは大げさだと思うけど。あたしは受付嬢に案内されて所長室に向かう。
「こんなガラクタ作るのに、テメエいったいいくら使ったんだあ!!」
中から聞こえてくる罵声に、受付嬢は怯えながらも所長室をノックする。
「宇宙省の方がお見えになりました」
「後にしろ! 今は取り込み中だ!!」
あたしはかまわず扉を開く。
背広を着たゴリラのような男、幾島時空管社長の幾島巌が白衣を着た二十代前半の小柄な男、息子の幾島慧を締め上げているところだった。小柄と言っても、身長は百七十以上ある。単に二メートルもある親父さんがそばにいることと慧がガリガリに痩せているせいで小柄に見えるだけだ。
あと、慧がとても成人には見えないような童顔ということもあるかな。
「おじ様。お久しぶりです」
幾島社長の手が緩み、あたしの方を振り向く。鬼のような形相がみるみる緩んでいく。
この親父さんは昔からあたしに甘いのだ。
「おお! 美陽ちゃんじゃねえか。いつ地球に帰ってきたんだ?」
その背後で、慧が激しくむせている。こりゃひょっとすると、一分遅かったら本当に殺されてたかも……
「昨日帰ってきたところです。それよりどうしたんです? 外まで聞こえてましたよ」
「おお聞いてくれ! この馬鹿が会社のエキゾチック物質を勝手に持ち出しやがって、ガラクタこしらえやがったんだ」
「だって、父さん。会社のエキゾチック物質を使っていいって言ったじゃないか」
だから、そういう火に油を注ぐような事は……
「馬鹿やろう!! ものには限度ってものがあるんだ!! 少しぐらいならいいが、あんな大量に持ち出す奴があるか!!」
いったい、どれだけ持ち出したんだろう?
「すぐに潰せ!! 潰してエキゾチック物質を回収しろ!!」
「そんなあ、せっかく作ったのに」
「なんだと!!」
再び、慧を締め上げようとする幾島社長をあたしは制止する。
「壊されちゃ困ります。あたしはそのガラクタを見せてもらいに来たんですから」
「なんだって?」
幾島社長は怪訝な目であたしを見る。
研究所がある東京郊外の八王子だ。
その研究所はエキゾチック物質を利用した製品が研究されているらしい。長官の話ではそこの所長が幾島慧だという。
しかし、慧が所長になったのは父親のコネだというのは分かるが、はっきり言って慧は組織の長に収まる器ではない。子供の頃からあたしの後ろを子犬のように付いてくる、どちらかというとたよりない男の子だった。
もう三年以上会っていないが、その間に変わったのだろうか?
「この馬鹿息子が!!」
あたしが研究所の玄関に入った時、最初に聞こえてきたのは幾島社長の罵声だった。
玄関の受付嬢は、あたしが入ってきたことにも気付かないで所長室の方を見てオロオロしている。
どうやら少し遅かったようね。
「宇宙省から来た佐竹ですけど」
あたしに声をかけられ、受付嬢はようやくあたしの存在に気がついたようだ。
「あ! すみません。佐竹様ですね。アポは承っております。けど……」
「社長はいつここへ来たの?」
「一分ほど前ですけど……」
「早く通して。あたしがなだめてくるから」
「お願いします。早くしないと坊ちゃんが……いえ、所長が殺されちゃいます」
まあ、それは大げさだと思うけど。あたしは受付嬢に案内されて所長室に向かう。
「こんなガラクタ作るのに、テメエいったいいくら使ったんだあ!!」
中から聞こえてくる罵声に、受付嬢は怯えながらも所長室をノックする。
「宇宙省の方がお見えになりました」
「後にしろ! 今は取り込み中だ!!」
あたしはかまわず扉を開く。
背広を着たゴリラのような男、幾島時空管社長の幾島巌が白衣を着た二十代前半の小柄な男、息子の幾島慧を締め上げているところだった。小柄と言っても、身長は百七十以上ある。単に二メートルもある親父さんがそばにいることと慧がガリガリに痩せているせいで小柄に見えるだけだ。
あと、慧がとても成人には見えないような童顔ということもあるかな。
「おじ様。お久しぶりです」
幾島社長の手が緩み、あたしの方を振り向く。鬼のような形相がみるみる緩んでいく。
この親父さんは昔からあたしに甘いのだ。
「おお! 美陽ちゃんじゃねえか。いつ地球に帰ってきたんだ?」
その背後で、慧が激しくむせている。こりゃひょっとすると、一分遅かったら本当に殺されてたかも……
「昨日帰ってきたところです。それよりどうしたんです? 外まで聞こえてましたよ」
「おお聞いてくれ! この馬鹿が会社のエキゾチック物質を勝手に持ち出しやがって、ガラクタこしらえやがったんだ」
「だって、父さん。会社のエキゾチック物質を使っていいって言ったじゃないか」
だから、そういう火に油を注ぐような事は……
「馬鹿やろう!! ものには限度ってものがあるんだ!! 少しぐらいならいいが、あんな大量に持ち出す奴があるか!!」
いったい、どれだけ持ち出したんだろう?
「すぐに潰せ!! 潰してエキゾチック物質を回収しろ!!」
「そんなあ、せっかく作ったのに」
「なんだと!!」
再び、慧を締め上げようとする幾島社長をあたしは制止する。
「壊されちゃ困ります。あたしはそのガラクタを見せてもらいに来たんですから」
「なんだって?」
幾島社長は怪訝な目であたしを見る。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

静寂の星
naomikoryo
SF
【★★★全7話+エピローグですので軽くお読みいただけます(^^)★★★】
深宇宙探査船《プロメテウス》は、未知の惑星へと不時着した。
そこは、異常なほど静寂に包まれた世界── 風もなく、虫の羽音すら聞こえない、完璧な沈黙の星 だった。
漂流した5人の宇宙飛行士たちは、救助を待ちながら惑星を探索する。
だが、次第に彼らは 「見えない何か」に監視されている という不気味な感覚に襲われる。
そしてある日、クルーのひとりが 跡形もなく消えた。
足跡も争った形跡もない。
ただ静かに、まるで 存在そのものが消されたかのように──。
「この星は“沈黙を守る”ために、我々を排除しているのか?」
音を発する者が次々と消えていく中、残されたクルーたちは 沈黙の星の正体 に迫る。
この惑星の静寂は、ただの自然現象ではなかった。
それは、惑星そのものの意志 だったのだ。
音を立てれば、存在を奪われる。
完全な沈黙の中で、彼らは生き延びることができるのか?
そして、最後に待ち受けるのは── 沈黙を破るか、沈黙に飲まれるかの選択 だった。
極限の静寂と恐怖が支配するSFサスペンス、開幕。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
国を、民を守るために、武田信玄は独裁者を目指す。
独裁国家が民主国家を数で上回っている現代だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 純粋に国を、民を憂う思いが、粛清の嵐を巻き起こす
【第弐章 川中島合戦】 甲斐の虎と越後の龍、激突す
【第参章 戦争の黒幕】 京の都が、二人の英雄を不倶戴天の敵と成す
【第四章 織田信長の愛娘】 清廉潔白な人々が、武器商人への憎悪を燃やす
【最終章 西上作戦】 武田家を滅ぼす策略に抗うべく、信長と家康打倒を決断す
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です))
月噴水(ムーン・ファンテン)
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
二十一世紀半ば頃。月には、天然の溶岩洞窟を利用した国際基地が建設されていた。ある日、月基地に使っていた洞窟の壁の一部が崩れ、新しい洞窟が見つかる。さっそく、新洞窟に探査ロボットが送り込まれた。洞窟内部の様子は取り立てて変わった事はなかった。ただ、ほんの一瞬だけロボットのカメラは、何か動く物体をとらえる。新洞窟の中に何かがいる。そんな噂が基地中に蔓延した。
(この物語は『時空穿孔船《リゲタネル》』の半世紀前を舞台にしてします)

名前を棄てた賞金首
天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。
しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。
鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。
二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。
そこで二人を待っていた事件とは――?
カクヨムにて公開中の作品となります。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
天使
平 一
SF
〝可愛い天使は異星人(エイリアン)!?〟
異星人との接触を描く『降りてきた天使』を、再び改稿・改題しました。
次の作品に感動し、書きました。
イラスト:
『図書館』 https://www.pixiv.net/artworks/84497898
『天使』 https://www.pixiv.net/artworks/76633286
『レミリアお嬢様のお散歩』 https://www.pixiv.net/artworks/84842772
『香霖堂』 https://www.pixiv.net/artworks/86091307
動画:
『Agape』 https://www.youtube.com/watch?v=A5K3wo5aYPc&list=RDA5K3wo5aYPc&start_radio=1
奇想譚から文明論まで湧き出すような、
素敵な刺激を与えてくれる文化的作品に感謝します。
神や悪魔は人間自身の理想像や拡大像といえましょう。
特に悪魔は災害や疫病、戦争などの象徴でもありました。
しかし今、私達は神魔の如き技術の力を持ち、
様々な厄災も自己責任となりつつあります。
どうせなるなら人間は〝責任ある神々〟となって、
自らを救うべし(Y.N.ハラリ)とも言われます。
不安定な農耕社会の物語は、混沌(カオス)の要素を含みました。
豊かだが画一的な工業社会では、明快な勧善懲悪が好まれました。
情報に富んだ情報社会では、是々非々の評価が可能になりました。
人智を越えた最適化も可能になるAI時代の神話は、
人の心の内なる天使の独善を戒め、悪魔をも改心させ、
全てを活かして生き抜く物語なのかもしれません。
日本には、『泣いた赤鬼』という物語もあります。
その絵本を読んで、鬼さん達にも笑って欲しいと思いました。
後には漫画『デビルマン』やSF『幼年期の終わり』を読んで、
人類文明の未来についても考えるようにもなりました。
そこで得た発想が、この作品につながっていると思います。
ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズ他作品や、
エッセイ『文明の星』シリーズもご覧いただけましたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる