時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第六章 逃走

船外活動

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「何……これ?」

 メインパネルには、新たな赤外線原が現れていた。数は十。

「なんなの? この艦隊は?」

 サーシャも、メインパネルを見て目を丸くしていた。

「いや、艦隊ではない」

 教授は、落ち着いた口調で言う。

「数は多いが、一つ一つの質量は大きくない。恐らく無人艇だろ。ただ、この加速度だと、第五惑星で追いつかれるな」
「艦隊じゃないにしても、相手は戦闘が専門の船ですよね。それが十機も……」
「サーシャ君。恐らくこれは大した戦闘力はない」
「教授、なぜそう言い切れるのです?」
「こいつらの質量の大半はブースターじゃ。ワームホールを抜けられる大きさという制約もあるから、本体はそれほど大きくない。恐らく偵察艇の類いだろう」
「偵察艇?」

 教授は、あたしの方をふり向いた。

「船長。これから船外活動をするが、手伝ってもらえるか?」
「船外活動?」
「ワームホールを抜けたとき、船外にコンテナを取り付けただろう。あの中身を取り付ける」
「ああ! バリュートですね。やはり、使うのですか?」
「戦闘になるかもしれん。そうなると、推進剤を少しでも残しておかねばならんからな」

 ガスなどにより展開する袋状の大気制動装置。バルーンパラシュート。略してバリュート。
 いざとなったら、これを使って第五惑星の大気圏上層部を掠めてエアブレーキをかけようと思い持ってきたのだ。
 エアブレーキをかけている途中で、万が一これが外れたりでもしたら船が破損するので、できれば使いたくなかったのだが、推進剤を節約するためには使わざるをえない。

 慧とサーシャを船内に残して、あたしは宇宙服を装着して教授と船外に出た。
 二人を残したのは、サーシャはあまり船外作業が得意でないので。慧は疲労が溜まっているから。
 しかし、疲労が溜まっていると言うなら、教授だって同じなのに……

 作業は三時間ほどかかった。これだけかかると、途中でトイレに行きたくなるけど、あたしの使っている宇宙服はトイレ機能付きなので問題はない。安物の宇宙服だとオムツを着けるらしいが、あんな物の世話にはできればなりたくないな。

 取りつけたバリュートの強度を点検している時、ふいに教授が近づいてきた。

 まさか、こんなところでセクハラ?

 なわけないか。

 教授はヘルメットをあたしのヘルメットくっつけてきた。通信機を介さずに宇宙で会話をするときはこうするのだ。

「船長。本当にこれでいいのか?」

 ん? あたし、何か作業手順間違えたかしら?

「いいって? 何のことですか?」
「幾島君とサーシャ君が、くっつくような事になっても、本当にいいのか?」

 何を言いたいのだ? この人は……

「べ……別にかまいませんよ。そんなの、あたしに関係ありません」
「船長は、幾島君の事を、どう思っているのだ?」
「どうって? 幼馴染で……弟みたいな奴……ですけど……」
「本当に、それだけか?」
「それだけですよ。他に何があるというのです」
「幾島君とサーシャ君がくっついてから『慧はあたしのモノだ! 返せ!』などと言っても手遅れになるぞ」
「言いません」

 あたしは、朝ドラのヒロインか!

「そうか。ところで、今は船内でサーシャ君と幾島君と二人切りなのだが、今頃……」
「そんな破廉恥な!」
「何を想像している? わしはただ二人切りと言っただけだが……」

 は! あたしは何を動揺しているんだ?

 ていうか、今、何を想像していた?


慧『サーシャさん。今まで、憎まれ口を叩いてごめんなさい。僕、本当はあなたの事が好きでした』
サーシャ『私もよ』

 イチャラブ、イチャラブ……

 ええい! 妄想消えろ!


「気になるのだろう?」
「ち……違いますよ……あ……あたしはただ……船長として、船内の風紀を乱すような事は……許せま船長……なんちって……」
「……? すまん、何かギャグを言ったらしいが、翻訳機が翻訳不能なようじゃ」

 く……次から、ドイツ語も勉強しておこう。親父ギャグを翻訳できるぐらいに……
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