時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第六章 逃走

事故?

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「きゃ!」

 ん? 仮眠室から、サーシャの悲鳴? まさか? 慧が女を襲った? いやいや! 慧に限って、そんな事あり得ない……

「うわ!」

 今度は、慧の悲鳴!

 ドタン! バタン!

 何が起きているんだ?

 仮眠室の扉を開くと……

「何を……してるの? あんた達」

 あたしの目に映った光景は、今にもサーシャに襲い掛かろうとしている慧の姿……ではなくて、今にも慧に襲い掛かろうとしているサーシャの姿だった。

 上半身裸の慧が床に仰向けに倒れていて、その上にサーシャが四つん這いになって伸し掛かっているのだ。

 慧が、あたしに気が付く。

「ち……違うんだ! 美陽! これは……」

 サーシャも、あたしに気が付いて振り向く。

「ち……違うのよ! これは……慧君の汗を拭いてあげようとして……躓いて……」

 確かに、サーシャの手にはタオルが握られていた。

「転びそうになったサーシャさんを、支えようとして……」

 はいはい……みなまで言うな。恋愛ドラマのお約束パターンでしょ。

 男女が偶然倒れて縺れ合ってところへ、どっちかの恋人が入ってきてトラブルになるという……

 それで、誤解した恋人がギャーギャー騒ぐ……ん? という事は、この場合は恋人ってあたしの事?

 いやいや! 慧は幼馴染であって……恋人じゃないし……そもそも冷静に考えれば、こういう状況は事故だって分かりそうなものなのに、なんで恋愛ドラマのキャラは誤解して騒ぐのだろうね。

「はいはい、分かった、分かった。分かったから、サーシャも慧の上からどいてあげて。慧も早く服を着て」

 二人は、そそくさと離れた。

「慧君、タオル使って」
「ありがとう」

 サーシャの差し出したタオルを慧は受け取った。

 拭いてあげるのじゃなかったのか? いや……あたしが見ている前でやるのが恥ずかしくなったか?

 慧が出て行った後、サーシャはあたしに詰め寄ってきた。

「美陽! 言っておくとけど、さっき操縦室で言ったことは冗談ですからね」
「慧が好きだってことが?」
「そっちは本当よ。私の方から、襲うというのは冗談」
「まあ、本当に襲ってもいいけど、船の中ではやらないでね。それとも、慧の方から襲ってほしい?」
「え? いや……できればその方が……」
「あいつ、草食系だから、あまり期待しない方がいいわよ。いずれにしても、次の港に入るまでは自重してね」
「次の港って、いつになったら着くのよ?」
「そのうち着くわよ。その前に、マーフィの問題を片付けないと永遠につけないわよ。じゃあお休み」
「マーフィの問題なんて、ほとんど片付いたような物でしょう。あいつの船は、どうせ追いつけないし」
「そうね」

 だが、その考えが甘かったことを、あたしは次に起きた時に知る事となった。
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