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第六章 逃走
恋愛感情?
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ワームホールを抜けてから、あたし達は男女交替で操縦室と仮眠室を使っていた。
異変があったのは、ワームホールを抜けて三日目。あたしとサーシャが操縦室で当直に着いていたときの事……
「美陽。起きて」
Gシートで仮眠を取っていたら、サーシャに揺り起こされた。
「マーフィの奴、動き出したわ」
あたしはFMDを装着して仮想操縦室に入った。
宇宙戦艦の艦橋を思わせる部屋の正面にある巨大なメインパネルをサーシャは指差している。
ロシア側のワームホールの付近に巨大な熱源が現れた事が表示されていた。
ファイヤーバードが加速を開始したようね。
「サーシャ。これが現れたのはいつ?」
「五分前」
「じゃあ、まだたいした事は分からないわね」
それから、あたしとサーシャは情報の分析を始めた。
熱源の強さ、加速度、軌道要素などなどを分析した結果……
「あいつ、気が付いたみたいね。あたし達の目的地に」
ファイヤーバードの軌道は、明らかに第五惑星を目指していた。
「ですけど、到着は私の方が半日早いですわ」
しかし、マーフィにもそれは分かっているはず。
「サーシャ。マーフィがこれで諦めると思う?」
「まさか。諦めるぐらいなら、追いかけてなんか来ませんわ。きっと、良からぬ手を考えているでしょう。でも、今私たちにできる事はないですわ」
「そうね」
「だから、その時に備えて今はリラックスしましょう」
「そうね」
「ねえ、美陽。あなた、慧君の事をどう思っているの?」
「え?」
いきなり、何を言い出すのだ? この女は?
「どうって……慧とあたしは幼馴染……」
「幼馴染は知っているわ。私が聞きたいのは、男として意識しているのかという事?」
「な……なんの事?」
「だからあ……恋愛感情はあるかって事」
「な……ないわよ! そんなの」
「本当にないの?」
「ないわよ! そもそも、あったとしても、なんでそんなプライベートを……」
「私は美陽とは友達のつもりだけどな」
「いや……そりゃ、あたしもそう思っているけど……」
「だから、友達の彼氏を取るような事はしたくないの」
「は? 今なんと?」
「だから、慧君が美陽の彼氏だったら諦めるつもりだったけど、違うというなら私が付き合ってもいいでしょ」
「あのさ……という事は……好きなの? 慧の事」
「好きよ」
「どうして?」
「だって。可愛いじゃない。慧君」
まあ……慧は可愛い顔しているけど……
「だけど、慧はサーシャと会った時から、憎まれ口叩いているじゃない」
「そうね。最初はムッときたけど、後になって分かったのよ」
「なにが?」
「あれがツンデレという奴ね」
「ちがーう!」
「違うの?」
「あいつがサーシャを嫌うのは、嫌露感情からよ」
「つまり、慧君に嫌われているのはロシアという国であって、私個人ではないという事ね」
「まあ……そうなるのかな?」
しかし……自分の祖国を嫌う奴と、付き合えるのか? この人は……
「じゃあ、私と慧君と付き合う事に何も問題はないわね」
「待ったあ!」
「なに? やはり美陽も慧君の事が好きなの?」
「そうじゃなくて……慧の気持ちよ。サーシャが良くても、慧がサーシャに対して良い感情を持っていないわ」
「どうして?」
「嫌露感情以外にも、最初あいつと会った時にもサーシャは『坊や』と言ったでしょう」
「ええ。可愛いから言ったけど……いけなかった?」
ううむ……どうやら悪気はなかったようね・
「いけない。『坊や』というのは小さな子供に対していう事であって、慧ぐらいの年齢の男性にそれを言うと侮辱になるのよ」
「ええ!? 早く教えてよ! 私、慧君を侮辱するつもりは、全くなかったのだから。褒め言葉だと思って使ったのよ」
「そうだと思ったけど……もう一つ注意しておくわ。あいつに「可愛い」なんて言ってはダメよ」
「どうして?」
「サーシャは誉めているつもりだろうけど、あいつはバカにされたと思うから」
「そうなの? 男心って複雑ね」
コンコン
ノックの音がしてFMDを外して振り向くと、教授が操縦室に入っていた。
「ガールズトークの途中で悪いが、そろそろ交代時間じゃ」
時計に目をやった。
「まだ、三十分ありますけど……」
「伝達事項があったら、聞いておこうと思ってな」
「そうでした。実はマーフィが……」
あたしとサーシャは、代わる代わるさっきの観測結果を伝えた。
「分かった。観測はワシらで引き継ごう」
「教授。慧はまだ寝ているのですか?」
「幾島君なら、筋トレをやってる。最近始めた朝の日課だそうだ」
筋トレ? どうせ三日坊主になるだろうな。
その時、サーシャがGシートから立ち上がった。
「じゃあ、私は先に仮眠室で休ませてもらいます」
「サーシャ君。幾島君に襲われんように気を付けるんだぞ」
「大丈夫です。教授。私の方から襲いますから」
「うむ。それならよいな」
いや、よくないだろ。
船内の風紀を乱すなんて、船長として許せん。
いや……慧を取られるのが嫌だなんてわけじゃない。
風紀を守るため、あたしはサーシャを追って仮眠室へ向かった。
異変があったのは、ワームホールを抜けて三日目。あたしとサーシャが操縦室で当直に着いていたときの事……
「美陽。起きて」
Gシートで仮眠を取っていたら、サーシャに揺り起こされた。
「マーフィの奴、動き出したわ」
あたしはFMDを装着して仮想操縦室に入った。
宇宙戦艦の艦橋を思わせる部屋の正面にある巨大なメインパネルをサーシャは指差している。
ロシア側のワームホールの付近に巨大な熱源が現れた事が表示されていた。
ファイヤーバードが加速を開始したようね。
「サーシャ。これが現れたのはいつ?」
「五分前」
「じゃあ、まだたいした事は分からないわね」
それから、あたしとサーシャは情報の分析を始めた。
熱源の強さ、加速度、軌道要素などなどを分析した結果……
「あいつ、気が付いたみたいね。あたし達の目的地に」
ファイヤーバードの軌道は、明らかに第五惑星を目指していた。
「ですけど、到着は私の方が半日早いですわ」
しかし、マーフィにもそれは分かっているはず。
「サーシャ。マーフィがこれで諦めると思う?」
「まさか。諦めるぐらいなら、追いかけてなんか来ませんわ。きっと、良からぬ手を考えているでしょう。でも、今私たちにできる事はないですわ」
「そうね」
「だから、その時に備えて今はリラックスしましょう」
「そうね」
「ねえ、美陽。あなた、慧君の事をどう思っているの?」
「え?」
いきなり、何を言い出すのだ? この女は?
「どうって……慧とあたしは幼馴染……」
「幼馴染は知っているわ。私が聞きたいのは、男として意識しているのかという事?」
「な……なんの事?」
「だからあ……恋愛感情はあるかって事」
「な……ないわよ! そんなの」
「本当にないの?」
「ないわよ! そもそも、あったとしても、なんでそんなプライベートを……」
「私は美陽とは友達のつもりだけどな」
「いや……そりゃ、あたしもそう思っているけど……」
「だから、友達の彼氏を取るような事はしたくないの」
「は? 今なんと?」
「だから、慧君が美陽の彼氏だったら諦めるつもりだったけど、違うというなら私が付き合ってもいいでしょ」
「あのさ……という事は……好きなの? 慧の事」
「好きよ」
「どうして?」
「だって。可愛いじゃない。慧君」
まあ……慧は可愛い顔しているけど……
「だけど、慧はサーシャと会った時から、憎まれ口叩いているじゃない」
「そうね。最初はムッときたけど、後になって分かったのよ」
「なにが?」
「あれがツンデレという奴ね」
「ちがーう!」
「違うの?」
「あいつがサーシャを嫌うのは、嫌露感情からよ」
「つまり、慧君に嫌われているのはロシアという国であって、私個人ではないという事ね」
「まあ……そうなるのかな?」
しかし……自分の祖国を嫌う奴と、付き合えるのか? この人は……
「じゃあ、私と慧君と付き合う事に何も問題はないわね」
「待ったあ!」
「なに? やはり美陽も慧君の事が好きなの?」
「そうじゃなくて……慧の気持ちよ。サーシャが良くても、慧がサーシャに対して良い感情を持っていないわ」
「どうして?」
「嫌露感情以外にも、最初あいつと会った時にもサーシャは『坊や』と言ったでしょう」
「ええ。可愛いから言ったけど……いけなかった?」
ううむ……どうやら悪気はなかったようね・
「いけない。『坊や』というのは小さな子供に対していう事であって、慧ぐらいの年齢の男性にそれを言うと侮辱になるのよ」
「ええ!? 早く教えてよ! 私、慧君を侮辱するつもりは、全くなかったのだから。褒め言葉だと思って使ったのよ」
「そうだと思ったけど……もう一つ注意しておくわ。あいつに「可愛い」なんて言ってはダメよ」
「どうして?」
「サーシャは誉めているつもりだろうけど、あいつはバカにされたと思うから」
「そうなの? 男心って複雑ね」
コンコン
ノックの音がしてFMDを外して振り向くと、教授が操縦室に入っていた。
「ガールズトークの途中で悪いが、そろそろ交代時間じゃ」
時計に目をやった。
「まだ、三十分ありますけど……」
「伝達事項があったら、聞いておこうと思ってな」
「そうでした。実はマーフィが……」
あたしとサーシャは、代わる代わるさっきの観測結果を伝えた。
「分かった。観測はワシらで引き継ごう」
「教授。慧はまだ寝ているのですか?」
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「大丈夫です。教授。私の方から襲いますから」
「うむ。それならよいな」
いや、よくないだろ。
船内の風紀を乱すなんて、船長として許せん。
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