時空穿孔船《リゲタネル》

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第六章 逃走

意外な縁

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「まさか!?」

 ボイスレコーダーを見せられて、教授は酷く驚いていた。
 ふざけているようには見えない。

「もう一度、これを見ることになるとは……船長、あんたのお婆さんから渡されたと言ったな?」
「ええ」
「その人の名前は、小太刀こだちめぐみさんではないのか?」
「え?」

 確かに婆ちゃんの名前は珠だが、旧姓は小太刀だったはず……しかし、なぜ教授がそのことを?
 いや、同じ時期に月面基地にいたなら直接会っていた可能性だってある。

「教授。祖母をご存じなのですか?」
「知ってるも何も、命の恩人じゃ」
「え?」
「それにしても、佐竹というのは日本でありふれた苗字だと思っていたから偶然だと思っていたが、船長が幸人の孫だったとはな」

 爺ちゃんの名前まで知っている。

「そうか。幸人と珠は、あの後結婚したのか」

 この人、あたしの祖父母の何を知っているんだ?

「話せば長くなるが、六十年前のあの日、ワシは月の溶岩洞窟で事故に遭って命を落としかけたのだ。洞窟の中で倒れていたワシを見つけて基地まで運んでくれたのが、船長のお爺さんとお婆さんに当たる人じゃ」

 そんな偶然が……

「その時に見つかったのが、そのボイスレコーダーなのだ。それがきっかけで宇宙人のワームホール探しが始まったのだが」
「でも、結局なにも見つからなかったのですよね?」
「いいや」

 教授は首を横に振った。

「ワームホールそのものは見つからなかったが、破片は見つかった」
「破片?」
「エキゾチック物質の破片だ。ワシは溶岩洞窟の中で見つけたが」

 教授が懐から小瓶を取り出した。
 その中に、白い破片が入っている。

「これがあの時、ワシが溶岩洞窟の中で見つけたエキゾチック物質だ。恐らく幸人も手に入れていたはずだ。あの後、各国のエキゾチック物質の研究が一気に進んだからな。どの国も、これを手に入れて黙っていたのだろう」
「公表すればいいのに。どの国も心が狭いですね」

 そう言ったサーシャを教授は睨みつけた。

「言っておくが、ワシの言う『各国』の中にはロシアも含まれているぞ」
「……」

 サーシャは、明後日の方を向いて黙り込んだ。
 都合の悪いことは聞こえないようだ。

「だが、そんなのはまだいい方。一番酷いのはアメリカだぞ。あの時は何も見つからなかったとされているが、アメリカ隊が異星人の機械らしきものを回収して基地へ運び込んだのを、各国の隊員が目撃している。アメリカはあくまでも『月面車の残骸』と言っているが、月面を走る月面車の残骸が、溶岩洞窟の中から見つかるはずがない。あれは異星人の機械に違いない」
「どうしてそう思うのです?」
「事件の一年後に、アメリカのベンチャー企業が時空穿孔機を開発した。恐らく、月で回収した機械は、異星人の時空穿孔機だったのだろう」

 そうなのだろうか? どれも状況証拠に過ぎないと思うけど……

(このエピソードは、番外編『月噴水(ムーンファンテン)』にあります)
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