上 下
35 / 53
村発展編

35話 撃退処理

しおりを挟む

 悪魔を捕獲した後は戦後処理に入った。
 今回の場合は撃退戦なので得られる土地などはない。だが降伏した国の兵士たちは全員が捕虜となった。
 全員捕まえられた理由だが悪魔たちが現れたことで、愚かにも我々が奴らに負ける可能性を考えたらしい。
 結果として敵指揮官は撤退するか迷って軍ごと逃げ遅れた。
 何とも無能の極みのような話だ。あの時点で撤退を決断すれば半数以上は逃げれただろうに。
 私としては研究材料が増えるので望ましいが。
 そして今は敵兵を全員を捕縛し、見張りをつけて村の外に置いている。
 千人以上を収容する牢屋などないので野ざらしだ。
 彼らの扱いを決めるために私の家に主要面子が集まった。
 アリアにリタにアダム、村に残っていたケチャップズ。ついでに猿ぐつわを口につけさせたルル。
 彼女らは円卓テーブルを囲むように用意していた椅子に座った。

「あの兵士たちは私が使用する。悪魔化実験の試験体としてな」
「それはダメ。彼らはちゃんと返す」
「……アリア、君が王である以上は従う。だが最低でも十人はもらい受ける、軍の指揮官などだ」
「……わかった。それはしかたない」

 しぶしぶと納得するアリア。
 負けた軍の将は責務がある。仮に一般兵は解放しても、隊長格も同じようにとはいかない。
 そもそも普通の兵士を逃がすのもおかしな話だが。
 相変わらず彼女は聖人すぎる。今回の場合は慈悲深いことを広めることで、救国の乙女としての評判を上げられるからいいが。
 だがリタは理解していないようで、椅子から立って口を挟んできた。

「いいの? 解放したらまた戦うことになるよ?」
「アリアの評判が上がるなら問題はない。それにあの程度が増えて何だというのだ、無能はいくら集まろうが無能だ」
「ひどい言い草……まぁこちらの被害は木偶の棒だけだもんね」

 リタが納得したようで椅子に腰を降ろした。
 私も聞いて驚いたのだがこちらの人的被害はゼロだったらしい。
 木偶の棒はそれなりの数が壊れたがすぐに作れるので、この戦い自体のダメージはほぼゼロに等しい。
 喜ばしいことではあるのだが敵が弱すぎる気もする。
 後衛の弓兵部隊が一切狙われなかったということだからな。
 敵は馬鹿正直に正面突破の作戦だったと。

「なので捕らえた兵士たちは武器を取り上げて帰らせる。今なら敵の物資で送り返せる」

 アリアが他の面子を見回して宣言した。
 確かにどうせ帰すなら食料を与えるのもムダなので早い方がいい。以前にジュペタの町でもそうだったが、身代金とか要求してもおそらく渡してこない。
 兵士たちを使い捨てのコマと考えている国だからな。
 本当に腐っている。人的資源は有限かつ多大なリソースを費やしているのに。
 
「誰も異議がないなら決定」
「追い返すのは問題ない。だがその時に恩を売るべきだ」

 アリアの言葉に付け加えると彼女は首をかしげた。
 我々は本来ならば優しすぎることを行っているのだ。ここは敵の国に不和の種をまくべきだろう。
 私たちが正しく清く見えるように、追い返す前の兵士たちに仕込むのだ。

「どうやるの?」
「全員洗脳して思うがままに操る」
「それはダメ」

 アリアが椅子に座ったまま責めるような視線を私に向ける。
 本当に彼女は優しすぎる。救国の乙女としては完璧だが。
 私はため息をついて言葉を続ける。

「ならば我々が見返り無しに開放すること、そしてこの国を救うために戦っていること。そしてアリアの救国の乙女であると姿を印象付けろ」
「ボクたちが正義の味方だと思わせるってこと?」
「端的に言えばそうだ。愚民どもは正義の言葉に弱い」

 ここで敵の兵士たちに不和の種を埋め込むのだ。
 彼らの多少でも国が正しいか疑念を抱けばいい。
 そこからレジスタンスなど生まれればよし、ダメでも民衆の受けがよくなれば国を占領した後の統治が楽になる。
 それに民衆に私たちのことが認められれば、より多くの貴族が国を裏切る。
 
「確かにそれはいいかも……命を助けられた状況なら、話を聞いてくれる人もいそうだし」
「わかった。スグルの言う通りにする」
「ならアリアよ。さっさとその鎧を脱いで洒落たドレスを着ろ。多少でも見た目がいいほうがいい、馬子にも衣装だ」
「……スグルって人の心を操ろうとするのに、全然相手の気持ちを考えないよね」

 リタの言葉に同意するかのように、周りのほぼ全員が私に対して何とも言えない視線を送ってくる。
 当然だ、私は大衆心理は考えても個人の心など興味がない。
 心など人によって千差万別だ、考えるだけ馬鹿らしい。なにせ俗物Aには喜ばれることが、俗物Bには死ぬほど嫌がられることもあるのだから。

「……わかった。スグルが用意してくれたドレスを着る」
「アレならば問題あるまい。清廉な君に似合う」

 私が以前に渡したドレスならば問題ない。
 下手に明るい衣装などの似合わない服は困るので、こんなこともあろうかと用意したブツだ。
 アレは変な明るさや可愛さではなく、美しさをイメージして作成した。
 あまり表情が明るくないアリアに似合うはずだ。

「……わかった」

 アリアは少しうつむきながら頷いた。
 頬がほんの少し赤く見えるが気のせいだろうか。
 
「スグルってわざとやってるの? それとも天然?」
「私が意図なくやる行為はない」

 私は何となくや無意味なことはしない。
 今回のドレスとて必ず使うと確信したから作った。そして実際に役に立つ。

「わざとは思えないんだけどなぁ……」
「くだらん議論だ。さっさとアリアは着替えて解放する兵士たちの前に出ろ」
「わかった」

 アリアたちが扉の壊れた入り口から私の家を出て行った。
 これで万事解決と思っていたら。

「んー! んー!」

 猿ぐつわを口につけたルルが私の傍に駆け寄ってくる。
 彼女は下手に喋らせると混乱するので、発言できないようにしていた。
 近くにいたケチャップに視線を送り、ルルの猿ぐつわを取らせた。

「師匠! やりましたよ私! 敵の魔法使い三人を倒しました! ご褒美ください!」
「そうだな。その後に五体の悪魔を蘇らせたな」
「え、えへへ……」

 ルルは一転して気まずそうに頭をかいた。
 どうやら彼女は負い目があるようで、少しずつ私から距離を取り始める。
 
「え、えーっと……できれば罰は優しくお願いしたいです……師匠になら身体をささげてもいいので!」
「お前は何を言ってるんだ、ほれ」

 手元に新たに作った金属製の魔法用杖を転送するとルルに手渡す。
 彼女は受け取った後にまじまじと杖を見た後。

「えっ……私、失敗しちゃったのに」
「失敗? 何のことだ? お前は魔法使いを全て倒した上に、悪魔を五体も復活させた。褒美を与えるのは当然だ」

 今回のルルは本当によくやった。
 魔法使いを倒すのはそれなり程度だが、悪魔を蘇らせたのは素晴らしい。
 彼女の行動は本当に予想がつかないが、今回はそれが極めていい方向に働いた。
 なので以前から作っておいた杖を渡すことにした。
 
「その杖は練習用だ。魔力を集めにくいようにしているので、簡単には魔法が発動できない」

 以前の杖が楽に発動させるための物で、今回のは逆に普通よりも魔法の扱いが難しくなる。
 ようは筋トレのように負荷をかけるための杖だ。 
 魔法使いの強さとは空気中に散乱している魔力を集める力だ。
 研究の結果として、魔力を集める力も鍛えればおそらく伸びることが判明した。
 人間の筋肉と原理自体は似ている。

「この杖で魔法を簡単に使えるようになれば、お前の力は飛躍的に伸びている」
「し、師匠……! ありがとうございます! あぶっ!?」
「涙を流しながら抱き着こうとするな、濡れるだろうが」

 電磁障壁に防がれて号泣しているルルを見つつ、今後の展開を予想する。
 おそらくこの勝利でさらに買収できる貴族が増える。
 その中に鉱山を持つ者がいれば、その時点で私の目的は達せられる。
 そうでなくてもこれを機に展開は一気に動く。
 私もこの世界でやりたいことを遂行して、アリアたちから離れる準備を始める必要があるか。
 彼女たち、とくにアリアはいい人材だったが連れていけない。
 少しばかり残念だが仕方あるまい。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...