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村発展編

34話 悪魔再び

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 ホバーブーツで空を飛んで、空中に滞在している悪魔たちに近づいていく。
 下の戦場では兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。

「な、なんだあれは……!? ま、まさか伝承の悪魔……!?」
「そんなの伝説の話じゃないのか!? 少し前の寄生人草《パラサイトフラワー》といいどうなっているんだ!?」

 寄生人草とやらに興味はもったが、今は悪魔たちに意識を向けなおす。
 ちょうど戦場の中心の上空だ。そこでは五体の悪魔が集まって何やら知性的な会話をしている。
 それを集音して内容を解析する。

「ようヤく蘇れタ。封印なドと小癪なマネをしてくれタ……あの魔術師ども、シテヤルにヤツザキ!」
「オチツケ。とっくに死んでいル」
「ナニ!? ならばこの世界の人間に償わせル!」

 知性的だが頭の良さは感じさせない会話だ。
 二体の悪魔が口論していて、残りは地上にいる人間たちを見ている。
 バレないように近づいているわけでもない私にまだ気づかない。どうやら周囲への探知能力は低いな。
 これについてはおそらく高い必要がないからと予想する。
 以前の悪魔と変わらない力を持つならば、不意打ちされてもそう簡単には死なない。

「ムゥ? ナニカ近づいてくるゾ」

 一体の悪魔がようやく私を見つけたようで、こちらを指さしてくる。
 だがすでに彼らと会話できる距離までたどり着いていた。
 せっかくなのでコミュニケーションをとってみるか。

「お前たちは悪魔と呼ばれる個体か?」
「アア!? 人間ごときがオレ様に話しかけるんじゃネェ! コロシテヤル!」
「オチツケ、コイツを捕らえて現状を把握するんダ」

 悪魔たちが好き勝手に話している。
 五体とも見た目は全く同じだが、知能レベルや性格には差があるようだ。
 それはいいのだが気になることがある。こいつらも人間に寄生して復活したはず。
 以前に見た悪魔は寄生元の意識が残っていた。だがこいつらは違うように思える。
 人間ごときというセリフは、自分たちが違う種別と認識していなければ言わない。

「お前たちはこの国かスグル町の兵士ではないのか?」
「アア!? オレたちは悪魔だ!」

 どうやら話はあまり成り立ちそうにない。
 言葉での情報収集は厳しそうだ。ならば捕獲しての調査が必要か。
 悪魔は強力ではあるが私とて以前から遊んでいたわけではない。
 空中コンソールを出現させて戦闘態勢に移行する。

「なんだその珍妙な魔法ハ? 魔力も全く感じないゼ!」
「どうやらオレたちが封印されていた間に、人間は貧弱になったようダナ!」

 悪魔たちがこちらを見下したように笑い始める。
 やはりこいつらからは知性を感じられない。身体的には強力な存在かもしれないが、頭脳の面では人間より下と見なせる。
 そもそも人間よりも上だったなら、おそらく封印などされていない。
 私の外部装甲《パワードスーツ》とそれなりの戦いができる強さだ。
 それに優秀な頭脳があれば、この世界を跋扈していたのは悪魔たちだっただろう。

「空中では戦いづらい。地上に落ちてもらうぞ」

 私は悪魔たちの笑いを無視して、コンソールを叩いて彼らの周りの重力を制御。
 通常の十倍の負荷へと変更する。

「アア!? か、身体が重ッ!?」

 悪魔たちは悲鳴をあげて地上へと墜落していく。
 彼らの翼は異常だ。人間以上の体重を持っている身体を、わずか一対で空へと飛ばしているのだ。
 空を飛ぶ生物は基本的に身体を軽量化しているがそれを無視している。
 その点から考えても恐ろしい性能の翼だが、十倍の重力には耐えられなかったらしい。
 地上に激突して五つの穴を作ったのを確認し私も降りた。
 すると穴から悪魔たちが出てきた。結構な高度から落ちたのだが、二重の意味で五体満足で生存している。

「てめぇ! よくもやりやがったナ!」

 悪魔の一体が口から私に向けて炎を吐いた。
 それを電磁障壁が自動で迎撃する。炎のエネルギー総量を確認するとやはり高いが、以前の悪魔の電撃に比べれば低い。
 手加減をしているのか、純粋にスペックが低いのかは不明だ。

「すまない、手加減をしているなら全力を出して欲しい。これではデータにならない」
「舐めやがっテ! お前らもヤレ!」

 口から炎を吹き続けながら声を出す悪魔。
 ずいぶんと器用だな、腹話術か何かだろうか。だが私が求めているのは宴会芸ではないが。
 他の悪魔たちが私に向けて口を開いた。どうやら同じように炎を出すようだ。
 ……以前は電気ウナギのように雷撃を出してきた。だが今回は炎を吹いてくる、個体によって差があるのだろうか。

「だが炎なんぞではな」

 ホバーブーツから強烈な勢いで空気を噴出させて、悪魔たちが吹いた炎をはじき返す。
 彼らは自らの炎に包まれるが、特に熱さや痛みを感じている様子が見えない。

「なっ!? 俺達の炎魔法が効かなイ!?」
「ふむ……炎を吐くだけあって、身体にも炎への耐性はあるのか」

 感心していると奴らは炎を吐くのをやめて、鋭い爪で私を切り裂こうとしてくる。
 当然電磁障壁に防がれるが、悪魔たちは爪による攻撃を続行する。
 しかも何故か笑みを浮かべているように見えた。 

「オレたちの攻撃を防ぐほどの魔法障壁、いつまでも出せはしないヨナァ!」
「……そうか」

 思わず呆れて声を出してしまった。そもそも魔法障壁ではない上に、彼らの攻撃の衝撃で障壁用のエネルギーは更に増えている。
 このまま続くならばむしろ永遠に発生させられる。
 さてここからどう捕獲するかだ。
 五体いるのは喜ばしいことだが厄介だ。一応は知性があるようだしダメ元で説得を試みてみるか。
 
「提案がある。実験体になる気はないか? 今なら三食昼寝つきを約束しよう」
「命乞いとハナ! 所詮は人間だナ! 聞くわけないダロ!」

 悪魔たちは電磁障壁に向けて、爪によるムダな攻撃を続けながら叫ぶ。
 どうやら説得は無理だな。この状況で命乞いと勘違いする者たちとは、まともな会話ができそうにもない。
 やはり強制的に捕獲する以外に選択肢はなさそうだ。
 そんなことを考えていると、悪魔の一体が我々の陣地のほうを指さした。

「オイ! アレは……!」
「オオ! いい贄がいるナ! アレならば我らが王の復活の苗床にナレル!」

 悪魔の指さした先を眼鏡の望遠機能で確認する。
 そこにいたのは、陣地から外を出て私たちを見守っているアリアだった。
 
「王に贄か。また新たな情報が出たのはいいがね……お前たちは不快だ」

 空中コンソールを叩いて私の周りの空間を歪曲させる。
 巨大な漆黒の大穴が空中に開いてそこから巨大な砲塔が出現する。
 これは亜空間に置いている自立型殲滅機体ヴィントの両腕の砲台。
 以前にジュペタの軍を半壊させた強制亜空間転送砲である。

「な、なんダそれハ!?」
「貴様らの声は聞くに堪えない。失せろ。強制亜空間転送砲起動」
『声紋承認。亜空間転送砲を発射します』

 砲台に七色の光が集まっていく。
 それを見た悪魔たちは砲台に向けて炎を吐くが、それすらも砲の先端でチャージ中の光に飲み込まれる。
 それでも愚かに炎を吐き続ける愚か者ども。
 やはり救いようのない知的生命体だ。こんな奴らならば封印されて当然である。
 
『発射まで3、2、1……亜空間転送砲、発射』

 砲身から七色の光が発射され悪魔たちの身体を飲み込む。
 何やら最後に大きく口を開いて叫んだようだが全く聞こえない。音すら亜空間へと飛ばされたのだから。
 奴らはしばらくの間、亜空間へ閉じ込めておく。餓死寸前まで弱らせた後に実験すればいい。
 そしてこの時点でのデータ解析でほぼ確定したことがある。
 この悪魔たちは個体としては以前の電気ウナギよりも弱い。
 生物として驚異的な力を持っていることに変わりはないが、総エネルギーや身体強度を測るとおよそ一割ほど劣っている。
  以前の悪魔より多少スペックが落ちていても、生物としては十分に高スペックなことに変わりはない。
 仮に私とアダム抜きで戦えば、私たちの軍は間違いなく全滅させられていた。

「……しかしこんな狭い範囲で悪魔が五体眠っているとは。世界各地での合計ならば何体封印されている?」

 地面を見ながら呟く。数体来ようが物の数ではないが、仮に千体以上出てきたら厄介だ。
 それに少し気がかりなことがある。先ほど亜空間に閉じ込めた悪魔たちの生命反応が減った。
 一体しか反応を感知できない。だがそいつの総エネルギーが跳ね上がっている。
 何かしたのだろうか。調査の必要があるな。

「王に贄か……この悪魔たちはやはり面白い。研究のかいがある」
 
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