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隣村との戦い
7話 狼駆除
しおりを挟む村へと戻った後、ブラックウルフを駆除するための話し合いを行うことになった。
どこにいるかまでは不明なので、探すかおびき寄せる必要がある。
森が視認できる方がいいだろうと、村の中の広い場所で話をしている。
「ではリタにブラックウルフを駆除してもらう。方法は問わないが一匹生け捕りにしてくれ」
「ただでさえ厳しいのに更に要求!?」
「支援はつける。アダム!」
言葉に反応し長い黒髪を持った少女が私の傍に転送された。
それは周囲を確認した後。
「お呼びですか、マスター」
「命令だ。私の次点の優先順位でリタの命令に従え」
アダムは私が指さしているリタを視認し、しばらく見つめ続ける。
その後にゆっくりとリタに近づいていき。
「えっと……なんで身体を触って……ってどこ触ってるの!?」
「アダムが触っているのは股間。照合完了、リタを仮マスターへ登録」
「声紋や指紋を確認しただけだ。これでアダムはお前の命令に従う」
無事に命令権限を与えられたようだ。
リタはアダムの身体を確認して怪訝そうな顔でこちらを見た。
「……このアダムって娘、戦えるの? 戦う者の覇気みたいなものが感じられないんだけど」
「安心しろ。戦闘能力だけは折り紙付きだ」
「アダムは完璧。家事洗濯、戦闘に事務作業何でもやれる」
それなりに大きな胸を張るアダム。言ってることは間違ってはいない。
彼女は万能型アンドロイドとして作成している。欠点にさえ目をつぶれば優秀だ。
「アダム、そこの木を粉砕しろ」
「わかった」
アダムは自分の身の丈の三倍はある大木の幹を拳で殴った。
大木の幹が粉砕されて、轟音と共に上部の枝葉が地面に落ちる。
「す、すごい……」
「このアダムならば当然です」
「ではアダムの注意点を述べる。彼女は命令したことには忠実だが、その解釈に多少の問題がある」
「どういうこと?」
「アダム、この村を防衛しろ。アリア、そこの村人のドアをノックだ」
アリアが指示通りに近くの家の扉をノックする。それと同時にアダムが全力で村のドアに危害を加えた対象に襲い掛かった。
だがアダムは電磁バリアに防がれて勢いよく弾き飛ばされる。
さしものアリアも驚いたようで地面にペタンと座り込んだ。
「危険分子を確認。排除する」
「アダム、村防衛の命令を解除する」
電磁バリアを破ろうと拳を叩きつけたアリアは、私の命令解除によって大人しくなる。
「防衛命令への解釈が甘いんだ。村の対象は土地と建物で村人は入ってない。ほんの少しでも防衛対象に触れば、その時点で攻撃対象になる」
「……恐ろしいね」
リタが怯えたような目でアダムを見ている。当の本人はどこ吹く風できょとんとしている。
アダムは命令への解釈能力の低さが問題だ。そのせいで彼女を使うのは極めて難しい。
思考能力には問題がないのだが……私の造る人工知能はこの問題が解消できないのだ。
「危険手当と事前の警告を要求します」
「安全性は確保しておいた」
驚きから立ち直ったアリアが非難の目で私を見つめてくる。
バリアで安全性は保障していたのだから問題ないのだが。
「そういうわけで今後はアダムのことはリタに任せる」
「任せないで!? こんな娘を扱える自信ないんだけど!?」
「大丈夫だ。命令の仕方に気を付ければいい、どうしようもなくなったら自爆による自害機能もつけてある」
「あなたに血や涙はないの!?」
「不要だと思ったことはある」
リタは何を言っているのか。
大雑把な命令は危険だ。だからこそ逐一の指示ができるようにリタにつけるのだ。
指示を勘違いしたアダムは極めて危険な殺戮マシーンになる。制御装置は当然必要。
ここにいるアダム自体はただのボディパーツで、本体は他の場所にいるし。
「改めて言うぞ。今回は私も見ているから、アダムを使ってブラックウルフを駆除しろ」
「……わかった。ところでアダムって何者なの?」
「人工的に作られたアンドロイドだ」
「へぇ……ホムンクルスみたいなものか」
さっきからリタはアダムの身体に興味を示しているように見える。
見目麗しいと言われている容姿を参考に作ったが、効果を発揮しているのだろうか。
それとも科学に対する興味だろうか、どうでもいいが。
「アダムはボクについてきて。まずはブラックウルフを探すよ、簡単には見つからないと思うけど」
「わかった」
リタが森へと入っていき、アダムは指示通りに付き従っていった。
早速ミスをしている。これでは先が思いやられるな。
以前に捕まえたゴブリンを転送し、森にすぐ入れるようにこの場で実験を開始した。
~~~~
アダムを連れて入った森の中は薄暗かった。ブラックウルフは名前の通り毛皮が黒く、夜や暗い場所では見つけづらいのだ。
しかも敏捷性も高い。鋭い爪や牙も持っていて、ベテランの冒険者でも集団に襲われれば危険。
こちらから不意打ちを仕掛けるためにも、慎重に動く必要がある。
これは長期戦になりそうだ。
「アダム、君もブラックウルフを見つけたら教えて」
「見つけた」
「早いね!? どこにいる?」
「ここから北に八百メートル先にいる」
……木々が邪魔で百メートル先すら全く見えない。
どうやって発見したのだろうか。探査魔術が使えるならば分かるだろうが、そんなのSランクの王宮魔術師レベルだ。
「ねぇ。ちょっと聞きたいんだけど、貴女って魔法を使えるの?」
「使えない」
「えっ……じゃあどうやってブラックウルフを見つけたの?」
「サーモグラフィーで発見した」
サーモグラフィー? 魔法だろうか。でも使えないって言ってたけど……。
まぁいい。今はブラックウルフを駆除することに集中だ。
ボクの力では三体同時くらいが精々だから、あまり集団でいられるとまずいんだけど。
「ちなみにブラックウルフは何体いるの?」
「二十体いる」
「じゃあそれで全部か……固まってるの困るなぁ」
何体かおびき寄せるのも難しいよね。
かといって全部相手にするのは自殺行為だ。スグルから銃をもらっているから、うまくやれば距離を取りながら一体ずつ殺せるだろうか。
……おっと、いけない。自分一人で動いているんじゃなかった、アダムもいるのだった。
「ねぇアダム。ブラックウルフを倒したいのだけどいい方法はない?」
「逃げられないようにフィールドを展開しせん滅する」
「フィールドって?」
「光で構成する実体を持つ壁」
アダムは無表情のまま淡々と答えてくる。
どうやら敵を魔法の壁で囲んで逃げれなくする作戦らしい。
結界を作れるなんて上等な魔道具を持っているんだな。
「逃げ場をなくすのはいいけど、二十体ものブラックウルフをどうやって倒すの?」
「殴る」
「……君すごいよね」
アダムは大木を粉砕するほどの力の持ち主だ。
普通に殴り込んで倒すつもりなのだ。確かに彼女ならば可能に思える。
……うらやましい。
「なら君の作戦で行こう。アダムが前衛でボクが後衛。銃で支援するから全部《・・》倒しちゃって」
「わかった」
指示した瞬間、腹部に強烈な痛みが走る。
目の前にはアダムの顔があった。
「まずは一体」
「う、ぁ……」
だ、ダメだ。意識が……。
~~~~
「リタ。起きろ」
「……ん? ……待って、痛い!?」
痛みに飛び起きると辺りは森だった。そうだ、アダムに指示したと思ったら急に意識が遠くなって……。
身体を確認すると顔に変な白い布が張り付いていた。
包帯ではなさそうだ。
「アダム、この顔についた布は何?」
「電気ショックを発生させる物だ」
電気ショック? またわからない単語が出てきた。
いやそんなことを気にしている場合ではない。
「ボクはどれくらい意識を失ってたかわかる?」
「わかる」
「……君は質問にしか答えてくれないんだね。どれくらい?」
「三十分ほど」
状況から判断するとアダムが起こしてくれたのだろう。
三十分ならばブラックウルフも遠くには行ってないはず。
衣服についた土を払って水筒を取り出して水分を補給する。
「ごめん、意識を失ってたみたいだ。改めてさっきのブラックウルフを倒しに行こう」
「対象が存在しない」
「え?」
どういうことだろうか。アダムはあいかわらず無表情で何も読み取れない。
「えっと、対象が存在しないってどういうこと?」
「すでにさっきのブラックウルフはいない」
「……気絶している間に逃げられたのか」
三十分ならばまだ移動していないと思ったが甘かった。
だがアダムはブラックウルフを探す術を持っている。ならばもう一度見つけてもらえばいいだけだ。
「さっきのブラックウルフをもう一度見つけて」
「対象が存在しない」
再び同じ答えが返ってきた。どういうことだろうか……アダムは変わらず無表情だ。
……だがよく見ると、服に血がついている。さっきはなかったはずだが。
「アダム、その服についた血はどうしたの?」
「ブラックウルフをせん滅した時に付着した」
「……え、二十体のブラックウルフを全部倒したの!? 一人で!?」
「命令通りに対応した」
何事もなかったかのように淡々と報告してくるアダム。
……彼女を見ていると寒気がした。恐ろしいと思ってしまう。
この少女はボクとは比べ物にならないほど強い。
「……とりあえず目的は達成したんだね。なら帰ろうか……あ、一匹は生け捕りにする必要があったんだけど……全部殺しちゃった?」
「殺した」
「しまった……ボクが全部倒してって言ったからか」
何故か意識を失ってしまったことが悔やまれる。
一匹は生け捕りにする必要があると伝えれなかった。
最初の依頼を失敗してしまったことに、思わず頭を抱えてしまう。
「……いったいボクが気絶した理由は何なんだ。アダムは知らないかい?」
「アダムが殴った」
「……はい? どういうこと?」
「命令通り全部倒した」
言葉の意味を理解した瞬間、アダムから距離を取って短剣を構える。
このアダムという少女は極めて危険だ。
信じられないほどの力を持っている上に、言葉が通じているようで通じていない。
とても扱える自信がない。
「……ボクに近づかずに村に帰って」
「わかった」
アダムはボクの指示に従って村の方へ歩き出す。
見失わない程度の距離で警戒しながら追いかけて村へと戻ることにする。
「……この銃といいアダムといい。あのスグルって男は何者だ……?」
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